#12 道具扱い!!
叫びを上げた直後、おもむろに、ステータスウインドウを呼び出すと、何やら画面を弄り出す。ややあって、
「あー、千年前からログアウト中のまんまなんだよ。その前に、ステータスウインドウ、一時的に使えなくしてた
「其れは、今のこの世に神は居ない。と理解して良いのか?」
「あー、神域で管理するの放置してるだけなんだよ。神様って言うか、神族って、割とあっちこっちで自由気ままに暮らしてるんだよ?」
封印される前の時代じゃ、常識だったんだけどなー。と、見事に表情で語りながらそう告げるルー。対するは、何其れ、全くもって初耳なんですけど? と言う感情を如実に表す様な、ぽかーんとした表情でルーを眺める三人。
「まあ、聞きたいんなら、改めて色々とお話し出来るんだよ。其れよか、支部長さん。エイミに何か用事なんじゃ無いのかな? なんだよ」
「「「あ…」」」
あからさまに、話題を修正に掛かった。まあ、軌道が元に戻るのだから悪い事では無い。が、おそらくは、色々と面倒くさくなったから、と言うのが理由に間違いはなさそうである。必要以上に取り澄ましたルーの表情を鑑みるに。
尤も、盛大にコースアウトをかましたその原因も又、ルーの不用意な一言であったはずである。しかし、幸いな事、と言って良いものなのか、些か疑問では有るものの、現状色々と情報過多に陥っており、その辺りに対する追求が可能な者がこの席には存在しなかったため、誘導されるままに、元の、本来支部長が二人を此の部屋へ招喚した話題へと修正されるのだった。
「それじゃあ、エイミの料理スキルを戻してもう一度お茶を
「違うでしょ!?」
…なんだっけ?」
ジャスパー支部長がお茶の入れ直しを頼もうとしてマイク職員にぶった切られる。お茶の味が云々からの脱線だったからとは言え、色々刺激的な情報によって、大分混乱している様だ。そして、再びソファーの背もたれに抱き付いて、全身をプルプル震わせるルーの姿と、呆れ顔でそんな三人の様子を眺めるエイミが居た。
「あー。そうだった。エイミに頼みたい依頼が有ってだな…
「捜し物とか調べ物とかお使い系のめんどいのはパスで!」
…討伐系なら良いか? お前、遺跡の調査とか得意だよな?」
「お宝探しの必要に迫られただけでーす」
漸く二人を(正しくはエイミを)呼び出した理由に思い至り、依頼の説明に入ろうとしたとたんに、苦手な系統の依頼はいやだとエイミから拒否され萎れるジャスパー支部長。討伐系の重要依頼に当たりを絞りつつも、遺跡や古墳の調査をマメに行っている件を指摘するが、お宝探しの情報集めと言い切られ、更に落ち込む。
「じゃあ、此、優先順位は任せるから片付けて欲しい」
そう言いながら、三枚ほどの羊皮紙を選んで差し出してきた。受け取って目を通したエイミが確認の為に問い返す。
「ドラゴンが出たの? 三匹も?? 本物???」
その問い掛けに、ルーも振り返って興味を示す。
「ギルドの職員が確認に行った。転写の魔道具で写した姿絵が付けてあるだろう? どう思う?」
支部長も、ドラゴンとは認めたくない様子。添付されている姿絵を見れば、若干ブレとピントのぼけが重なって見難いものの、巨大そうに見える体躯と大きく広げた皮膜を持つ翼が見て取れる。資料に拠れば、最低でも全長が二十メートルを超えていると書かれている。
「細かいとこが全然見えないけど…まあ、ドラゴンポイっちゃ、そんな感じだよねぇ」
「ルーにも見せるんだよ」
ドラゴンの様に見える、と判断を下すエイミの横から、ルーが資料を横取りする。
「あー、此、只のワイバーンなんだよ。ドラゴンじゃ無くって、でっかい只の飛びトカゲだから、安心すると良いんだよ」
「いやいやいや。ワイバーンって、下級のドラゴン種だろ? 火を噴くぞ? 魔法攻撃も跳ね返すぞ?」
「…見てきたみたいな物言いだね?」
ルーがドラゴン説を否定するも、支部長が反論を始める。その必死さに、エイミが疑問を漏らした。
「行ったんです。止めたのに。で、火傷して帰ってきました。全く…」
マイク職員が深い溜息と共に暴露する。
「って言うか。ダメでしょう? ワイバーンなんて言ったら、Aクラスの冒険者数パーティー集めて討伐依頼出すのが常識じゃないですか! Cクラスの冒険者が相手出来る代物じゃ無いですよ。支部長!」
流され掛かっていたマイク職員が、ハッとして意見する。一般的に言って、下級ドラゴン扱いのワイバーンで在っても、Aクラス冒険者のパーティを二つから五つ組ませて討伐依頼を出すのが常識で有った。其れだけ、驚異度の高い魔物なのだ。其れを、未だCクラスの女性冒険者一人に依頼するなんて、正気の沙汰とは思えない。しかも、一度に三件も。支部長の正気を疑う出来事で有ったため、強く否定したのだった。
「へーきへーき。あたしのランク、オプション付きだから。ルー。ワイバーンって、ドラゴンの下位種じゃ無いの?」
「ドラゴンは前肢と後肢と角と逆鱗が有って、翼は有ったり無かったり。魔法が使えて知性がある種族の事なんだよ。ワイバーンは只のでっかいトカゲ。前肢が翼状になってるのが特徴なんだよ。ちょっと魔法と物理の耐性が強くて、固有魔法のブレスがあるけど、別物なんだよ?」
一方で、心配されている対象のエイミは至って暢気な反応であった。其れよりも、さらっと出てきたオプションというのは一体何だ? 更に、ワイバーンを、只のでっかいトカゲ。等と言い切る、この女の子に至っては、一体何者なんだ? 何故に、ドラゴンについて其処まで詳しいんだ? あれ? そう言えば、千五百年封印されてたとか言ってなかったか?? 等々、マイク職員、盛大に混乱を開始した。
「…先にこっちをなんとかしないと、ダメか?」
その様子を見て、ジャスパー支部長が呟く。
「その方が、色々とスムースかも?」
疑問符付きで、頷きながら同意を示すエイミ。その隣では、ハテナ? と首を傾げるルーが居た。この職員さんは、なんでこんなに混乱しているんだろう? と不思議に思って居るのだという事を、その表情が如実に物語っている。但し、その混乱の原因、張本人で有るという事は、全く理解出来ていない模様。
「マイク。先ずは、こいつの扱い方を説明するから、とりあえず落ち着け!」
「ほらー! 又、道具扱い!!」
マイク職員を宥めようと声を掛けるジャスパー支部長。その支部長の台詞に異議あり! とばかりに叫びを上げるエイミ。その様子を、お口を半開きにしたまま眺めているルー。混沌としたその場が落ち着くまでには、小一時間の経過を待つ事となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます