#11 落ちるの?
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その後、一時間と三十分が経過した現在。ステータスウインドウを目の前に展開し、一心不乱にその内容を精査するギルド職員の姿が二人分、それらを、呆れた様に眺めるエイミと、説明を終えて、やれやれとした表情で、菓子盆のお菓子と格闘を再開したルーの姿があった。
ステータスウインドウの説明自体は、二十分ほどで終わっている。では、何故、一時間と三十分も経過しているのか? と言うと、その内訳は、ルーの爆笑が収まるのを待つこと三十分。その後、スキルウインドウを展開する方法を説明し、実践するまでが約三分。実際にスキルウインドウを目の前にして、驚きで固まってしまった職員二人の回復を待つ事と、其れを指さし、爆笑を始めたルーの笑いが収まるのに四十分。扱い方や、内用の説明で十七分。と言った内訳だった。ルー。笑いすぎである。
一方で、此は本題に入るのはまだまだ先の話だな。と見て取った(諦めた、とも言う)エイミは、ステータスウインドウに夢中の三人を放置して、相変わらず勝手にお茶を入れ直し、お茶菓子になりそうなものを片っ端から引っ張り出してはテーブルの上に展開した後、一人のんびりとティータイムに突入した儘、事の成り行きを眺めていた。
そして、更に経過すること三十分。漸く、それなりに満足したのか、ステータスウインドウから顔を上げた職員二人。非常にばつの悪そうな表情で宣った。
「此、どうやったら消すことが出来るんだ?」
それを聞いた瞬間。シュパッ! と向きを反転、座っていたソファの背もたれに抱き付いて大爆笑を開始したルーと、やれやれ漸くか…と左右に首を振るエイミ。
「ウインドウ格納、かクローズで消えるよ」
「判った」
と言う遣り取りの後、漸くにして、テーブルの上がものすごいことになっている事実に気付いた職員二人が絶句する。
「此、俺の私物なんだけどな…」
「あ。ごちそうさま。美味しかったよ」
ぼやく支部長に、悪びれた様子など微塵も感じさせないエイミの答えであった。実は、砂糖というものは、無ければ無いでも済んでしまう調味料で有るために、生産はそれほど優先されていない。従って、結構な高額商品となっているので、其れを大量に投入するお菓子というものも、当然高級品となってくる。筋肉質で大柄な体躯、顔や腕など、かなりの傷跡もあって、整っている割りに一見、悪人面なジャスパー支部長。見た目に反して、お酒に滅法弱い上に甘いものが大好きである。仕事の合間に摘まむために、帝都に出張した際買い込んでおいた高級品を、ほぼ駆逐されてしまったのだった。帝都まで、馬車を使って一週間の道程。しかも、一般職員の一月分の給与に相当する額であったのだが…哀れ。
「さて、今教えて貰った情報についてなんだが…」
なんとか気力を振り絞って、といった感じで話を戻そうとする支部長に、相変わらず後ろを向いたまま肩を震わせているルー。わたわたと、お菓子が包まれていたはずの葉っぱや皮や木箱、ごく少量の紙の屑(紙は高級品。紙でお菓子を包むなんて発想は極一部の高級品に限られ、まだまだ普及していないのである)を纏めるマイク職員。ニコニコと話を聞く体制なエイミ。という、混沌空間が出来上がっている。
「しばらく…と言うより、これ以上、広めない様にして欲しい。頼めるか?」
「あー。便利すぎるもんねー。あ、もしかして、忘れ去られてた原因って其れ?」
「恐らくな…」
「どうゆー事? なんだよ」
ステータスウインドウについて、秘匿を求める支部長と、便利すぎるその機能故に、過去の支配者なりその手の階級に因る隠蔽によって、存在を忘れ去られた現在の状況に気付いたエイミと、その可能性を肯定する支部長。一方、その考え方にたどり着けていないルーの三者三様の台詞である。
「んー、例えば、潜影とか隠蔽とか言った危険なスキルを獲得出来たとするでしょ?」
「忍者御用達スキルなんだよ」
ルーに説明しようと二つのスキルを例えに上げれば、すかさず有効活用出来る職業が返される。そう言えば、自分の職業一覧に、そんな職があったよなー。と、一瞬遠い目になるエイミ。
「忍者…有ったね、確かにそんな職業も…。まあいいや。其れは後にするとして、そんなスキルを持ってる事を隠してたら、入ったらダメな場所でも侵入し放題になっちゃうでしょ?」
「あー、スキル使って悪い事し放題になっちゃうんだね…って、そんな事したら、神罰が落ちるんだよ!?」
隠蔽されれば気付く事すら出来ないと、説明すれば、予想外の答えが返ってくる事になった。
「落ちるの? 神罰?」
「あれ? 知らない??」
「「「知らない」」」
エイミ、支部長、マイク職員、三人揃って異口同音。神罰かー。罰が下ったなんて話、訊いた事ないなー。と三人で遠い目をして考える。一方で、ルーは、そんな三人の様子を眺めて考え中。もしかして、ここしばらく、神罰が下った事って無いのかな? あ。もしかして、罰を与える神様がいなくなっちゃった? え? 今の世界って、絶賛神様不在になってない? 等と、ぐるぐる思案が回転していた。
「えーと、えーと、確かバルクス君とクサナギ君とインフェリアスちゃんが監視してる筈なんだよ。神託とかお告げとか降りてこない? なんだよ」
やがて、何やら指折り数えた後、三柱の神が悪事にスキルを使えない様監視していたはずだと告げたルー。
「え? その三柱の神様、現存してるの?」
「と言うより、神々が人の営みなんぞを見守っているのですか?」
「そこから!? なんだよ?」
帰ってきたエイミとマイク職員の答えに、神の存在が其処まで薄れてしまっているのかと驚きの声を上げるルーだった。
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