第12話 ノスロ族

 二十年が過ぎた。サムもポリーも4人の子供たちも皆成人となり皆元気に暮らしていた。

長女アイダはカナク評議会のメンバーとなり、皆の意見をまとめる手腕を高く評価されていた。長男ビリーは電気技師となり、サムの後を継ぎ南の森地区で主任を務めていた。次男クレイも電気技師となり、カナク各地のの水力発電機や風力発電機の設置と修理に奮闘していた。末娘エミーはカナク唯一のラジオ局のアナウンサーとして、毎日明るい話題を伝えていた。


 カナクは徐々に人口減少という問題に直面していた。長年に渡る気温上昇と放射能の影響か、健康な子供の出生が減少していた。人口は千人を切り、出生率は女性一人に対し0.4、つまり次世代は五分の一の人口しかないという予測が建てられた。数百のドームのうち、半数近くが空室となる事態になっていた。若い男女には子供をつくるという意欲が明らかに減退していた。この悪化していく環境の中で、子供たちが幸せに暮らせるのか?という疑問が広まっていた。このままではカナクは消滅するのではないかと言う危機感さえ生じていた。


 この間、ノード政府の状況も変化していた。

オルゴ族のノード政府は、警備ロボットの復活によりノスロ族を撃退し、暫くの間平和を維持していたが、その後、徐々にノスロ族の侵入が増加し、年々深刻化していた。オルゴ族は警備ロボットの後方に操縦要員を配置していたが、ある時その操縦要員がノスロ族に襲撃され電波発生装置の箱を奪われるという事件が起こった。その結果、電波発生装置を持ったノスロ族が、警備ロボットに近づき破壊するという事態が発生した。ノード政府は、警備ロボットの損失を防ぐためドラ山周辺の陣地に固定し、周囲をオルゴ族の兵で固めると言う防御態勢をとる事になったが、ノスロ族の侵入範囲は増加し、明らかにオルゴ族のノード政府は追い詰められる事態になっていた。


 そしてある年、ノスロ族は南の大陸に人員を派遣し、旧都市の地下に貯蔵された武器弾薬を手に入れた。そしてその武器弾薬でオルゴ族への攻撃を開始した。ドラ山の滝をめぐる攻防は激しさを増し、終に警備ロボットを制圧したノスロ族の突入により、ドラ山の滝と広場は両軍の兵士で埋め尽くされた。双方が銃器を使用する戦闘の後、熱気と黒煙の中オルゴ族の洞窟は陥落した。勝利したノスロ族も大きな被害を受けた。

 オルゴ族のノード政府は、ノスロ族に占領される直前、西のドーム都市カナクの評議会に無線を送っていた。

「ドラ山の水力発電所はノスロ族に占領されつつある。オルゴ族はノスロ族の攻撃により滅ぼされるだろう。カナクのこれまでのご厚意に感謝する。ノスロ族はこの後、西のドーム都市カナクに向かう可能性がある。充分に注意されたい」

という内容だった。そして、この電文を最後にノード政府からの無線は途絶えた。


 ノードがノスロ族に占領されたという連絡を受けたカナクの評議会は、この事態を憂慮し、万一の事態に備えて対応を検討した。カナクは、ノスロ族を迎え撃つ防衛体制を準備する事になった。百年前高度な工業力を誇ったサイバー都市の末裔である西のドーム都市には、その当時の武器弾薬が船で移送されて保管されていた。ドーム都市を囲む塀を頑丈に改修し、港付近の数か所のドームをコンクリートで防御用に改築し、武器弾薬をその中に蓄え人員を配置した。50人だった警備隊員を増強し約百人の態勢で待機する事になった。


 一方でノードを支配する事になったノスロ族を無視するわけにもいかず、カナク評議会はノスロ族との対話を模索することになった。カナクの評議会とノスロ族の代表者との無線を使った話し合いが行われた。

 カナク評議会はノスロ族の代表者マテウスにノードとカナクの友好関係を築いて行きたいと申し入れた。

それに対し、ノスロ族の代表者マテウスは全くの同意を示した。マテウスによれば、意外にもノスロ族は、オルゴ族ともカナク人とも戦う気はなく、平和な関係を望むという。ノスロ族は南の山での生活に困窮し、水力電力のある冷涼で豊かなドラ山付近に移住する事を希望したが、オルゴ族に移住を拒絶され、やむなく戦闘に至ったという。ノスロ族はドラ山占領後、生き残ったオルゴ族を殺す事はなく、ノード市民としてノスロ族と同様の権利を与えると約束した。これを聞いたカナク評議会のメンバーは安堵し、今後カナクは様々な面でノード政府に協力する意思を表明した。


 ノスロ族の代表者マテウスは、カナク評議会にノードの発電所の増設のためにカナクの電気技師をノードに派遣してほしいという要望を述べた。

戦闘の中の混乱で一時停止した「ノード第一水力発電所」は破壊を免れ、オルゴ族の電気技師達により再稼働した。しかしその電気供給限られており、ノスロ族とオルゴ族併せて七千人の電力需要を満たす事は出来ない。そこで、またもやノード政府として、西のドーム都市カナクの電気技師に、水力発電所の増設を依頼したいという。

ノード政府からの要請に、カナク評議会の議長となったサム家の長女アイダは、ノスロ族の要請に応えようと意見を述べた。その意見に賛同したカナクの評議会は、全会一致でノードの水力発電所増設のため電気技師チームを派遣する事を決定した。

カナクがノードの地に電気技師チームを派遣するのは今回で三度目になる。

一度目はウィー隊長とサムが電線調達のために派遣され、オルゴ族のために水力発電所を復活させ、二度目はサム隊長以下の電気技師が派遣されノスロ族との戦いを避けるため警備ロボットを復活させた。そして三度目になる今回はビリーとクレイを含む電気技師たちがノードの発電所の増設のために派遣されることになった。

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