11.後輩の配信を見る配信①
機材よし、設定良し、声良し…と。
「ばんわ。Re:Mind所属、
今日はね、期待の新人ちゃんのミラー配信をするよ」
チャット
・ばんわ~
・ばんわ~
・大型新人さん今日配信なのか
・配信ってダンジョンの方か
最近、Re:Mindに入ってきた大型新人の廿樂さん。
ダンジョン配信を見ることが好きな私にとっては是非とも絡んでみたいと思える人だった。
探索者という職業には、ダンジョン配信という存在を知ってから強い憧れがあった。
若い青年がスポーツ選手に憧れるようなものだった。
だが、足に障害を持つ私は探索者になることは叶わなかった。
だからこそ、と言ってはなんだが、成人した後も、ライバーになってからもダンジョン配信は追い続けた。
そんな中突如として、所属している『Re:Mind』にデビューした大型新人兼探索者の廿樂さん。
すぐにTweerterでリプとDMを飛ばして、更にDearcordというSNSでコラボ配信の打診をした。
返信は思いのほかすぐ帰ってきた。
スケジュールは全てマネージャーさんに任せているが、お互いのスケジュールが空いたている日にでも是非とのことだったので、速攻でスケジュール表を送った。
その後に、次回のダンジョン配信時にミラー配信をしていいかと聞いたら、構わないとのことだったので、スケジュールを急遽変更した。
そして、今に至る、というわけだ。
「ダンジョン配信鑑賞が趣味ってのはだいぶ昔に言った気がする。
一応、ミラー配信するってのは許可取ってる」
チャット
・そういや初期に言ってた希ガス
・かなり前だよな
・ほえー
・こういうミラー配信とかって身内にいないとなかなかできんからなぁ
コメントはいつも通りといったような反応。
私はスケジュールこそTweeterで公開していたりするが、配信内容に関してはかなり適当。
スケジュールも『雑談』『ゲーム』といった内容で、あとは予定時間が書いているだけのものだ。
それにリスナーも慣れているのか、急遽予定を変更してミラー配信を始めても何も言わない。
このチャット欄の雰囲気が私は心地いいとまで感じていた。
「そろそろ配信始まるけどさ、なんか今日のサムネ不穏だよね。
いつも猫ちゃんのサムネなのに」
サムネイルには『WARNING』と書かれている。
開いて概要欄を見てみると
「本日の配信は人によっては気分を害する可能性があります
もし気分が悪くなった場合は速やかにブラウザバックをしてください」
と書かれてある。
なぜこんなことが書かれているのはと考えている間に配信が始まった。
『こんばんは、廿樂です。
今日はね、いつも通りの配信じゃなくて少し深い階層に潜ろうと思ってね。
まぁ、簡単に言ったらちょっとマンネリを感じてたのと、視聴者の私の実力は本当のところどうなのかっていうコメントが案外多くてね。
なら、私でも本気を出せる階層に潜ろうってなって、今、渋谷ダンジョンの181階層にいるよ』
「え?181…?」
あまりにも聞き覚えのない数字だった。
普通、ダンジョン配信界隈でも最上位とされる無明でも、渋谷ダンジョンでなら69階層が最高とされていたはずだ。
だからこそ、私は画面の前で呆けた顔をしていた。
この人が規格外だというのは分かっていた。ちゃんと理解していたはずだった。
だが、この人はその理解すらも軽々と飛び越えてくる。
『そして、一応警告を。
ギリギリっていうほどではないけど、ある程度危険はある階層になるから、ショッキングな映像が流れる可能性がある。
そういったのが苦手な人もいると思うし、見たい気持ちもわかるけどブラウザバックを推奨する。
死にはしないと思うけど流血くらいなら可能性は十分にあるし』
配信画面では、下の方にその注意書きが日本語と英語の両方で流れている。
そういえば、最近の廿樂さんの配信は海外視聴者と思われる人たちからのコメントも見られていたから、その人たち用だろう。
それにしても、特級探索者が血を流す可能性のある階層。
人外と称される、日本には3人しかいない探索者としての最高峰である彼らですら危険の及ぶ階層というのは、一般人どころか、普通の探索者では理解の及ばない可能性がある。
いや、確実に理解の及ばない配信になるだろう。
「えーっと、私側では配信映像は流さないけど、無理して付き合う必要はないから。
私はグロ系大丈夫だけど」
一応、私のリスナーに向けても警告をしておく。
『それじゃあ、渋谷の180階層について簡単に解説するね。
渋谷の181~200階層は、分かるように言えばゲームのボスラッシュが適切かな。
こんな感じに扉があって、開けたらフィールドがあってモンスターがいる。複数体いることもあるけど。
あと、200階層に辿り着くまで階層更新はできない。帰還したら最初からやり直し。正真正銘のボスラッシュだよ
じゃあ早速180階層から攻略していこうか』
「待って待って待って」
チャット
・ちらちら映ってたけどなんだこのクソデカ扉
・情報量
・ボスラッシュwww
・セーブ無し20階層連戦とか今日日鬼畜ゲーでもなかなか聞かんぞ
・一級すら涙目なるでこれ
『それじゃ早速レッツゴー』
2個目のモニターの中で、扉が開き、廿樂さんが中に入ると石畳のだだっ広い部屋が映った。
「スライム…?」
部屋の中の明かりが灯り、姿を現したのは小さなスライムだった。
なんの気もない、ダンジョン初心者でも見るようなスライム。
だが、こんなところにいるスライムが普通のスライムなわけが無い。
『普通のスライムに見えるでしょ?
こいつは暴食。見た目こそスライムだけど、本質は行き過ぎた食いしん坊。
目の前の物質を喰うことしか頭にない。だから今日の配信のカメラも特別でいつもの軍事用ドローンじゃなくって私のスキルを介して動かしてるんだけどね。
とか話してるうちに、ほれ来た!』
「わっ…」
暴食という名のスライムは、姿をスライムからライオンのようなものに変えて口を大きく広げて襲い掛かった。距離がそこそこあったにも関わらず一瞬でだ。
それは、まさしく捕食。だが、廿樂さんもその口を蹴り上げて応戦する。
その攻防はさらに続く。
スライムは姿を変え続け襲い掛かるが、廿樂さんはそれを綺麗に捌いていく。
その速度は凄まじく、いい性能のカメラを使っているだろうが、それでも映せているのはほんの一端だけだろう。
常人の動体視力では何が起こっているかを把握するのが精一杯で、理解まではできない領域だ。
「なにこれすご…」
それしか言えなかった。
今まで見てきたすべてのダンジョン配信が霞むほど、その戦闘は凄まじかった。
『ちなみにこのスライム、細胞1個から幾らでも復活できるから、殺す場合は細胞1つすら残さない一撃で倒す必要があるっていうね、めんどくさいよね。
じゃあ、こいつのヤバさも分かったところでサクッとこいつ倒していきましょ~』
まだ、始まって10分。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます