10.Vtuberになりました


 Vtuberとは、今や『YourTube』上だけではとどまらない一大産業である。

 企業が開催するVtuberだけの大型イベント、テレビ出演等々、色々とその存在はバーチャル以外でも活躍の場を見せている。


 そんなVtuberだが、私はその存在をほとんど知らなかった。

 先日の『Re:Mind株式会社』からのメールに是非という返信をしてから急いでVtuberというものについて勉強したほどだ。


 『Re:Mind株式会社』。総勢100名以上のバーチャルライバーを擁し、その界隈の黎明期から最前線を駆け抜ける企業だ。

 その中でもトップVtuberはチャンネル登録者300万人以上であったりとかなりの数字を持っている。


 そんな企業からなぜ、ダンジョン配信者である私に話が来たのか。

 それは単純な話題性からだった。

 スカウトと思わしきメールには「バーチャルトリアルの両方で」云々とか書かれてもいたが、確かにそれもあった。

 まぁ、メールでうだうだとやり取りするよりも話した方が早いので、さっそく面談をすることになった。



「私たちには準備があります。

 配信のサポート、雑事、そして貴女専属のマネージャーを付けれるようにと既に進めております」


 面談の席に座っていた社長が熱くそう言ったのを聞いて、私はこの話を受けようと決めた。

 

 元より話は受けるつもりではいた。

 視聴者より雑談配信を定期的に求められたはいるが、その配信の準備等はかなりめんどくさく手間だと思っていた。

 哉汰親友から、配信に動きがなければBANの可能性があると聞いていたので、Webカメラを使ってそれもある程度なんとかしていたが、顔を出したくない私にとっては反射での顔映り等、懸念しないといけないことが多く、その点でVtuberというのは魅力的であった。


 その上での、この社長の言葉である。

 配信をするのは案外楽しかったりする。だがTweeterでの配信予告、配信設定、諸々。


 いや、そういった諸々の雑事自体はそんなに多くない。

 無明の面々とそういった話をしたときは、そういったところまでクオリティを高めていくことが人気を出していく秘訣だとか何とか言っていた。


 私には、人気がどうとかいった承認欲求は持っていない。

 だが、配信のチャット欄で「個性的なサムネですね笑」だとか「概要欄空白は不親切すぎ」だとか、そういったコメントが散見された。

 アンチ的なコメントは特に気にならないが、そういった”どうにかなるものはどうにかしろ”的なコメントは気になったりする。


 だが、サムネイルを作るようなセンスはないし、配信関係の勉強とかも、頑張るよりもめんどくさいが勝る。

 生来のめんどくさがりなのだ、私は。

 できれば、そういったものは人に任せて。私はダンジョンだけに集中していたい。

 金だけはあるし、そういったことをやってくれる人を雇おうかとも考えていたところだ。



「是非ともよろしくお願いします」

 


 そこからはトントン拍子に話が進んだ。


 Vtuberとしてどういったキャラになるのか。活動方針や、今のダンジョン配信との頻度、収益等々。


 結論から言えば、皮は配信時のペストマスクとスーツを絵に落とし込んだキャラ。活動方針はそのまま、雑談配信の時だけライバーとして活動。収益は運営にはいらない、話題性と注目度だけでおつりが来るとのことだ。

 配信の方針や、活動頻度に関しては、運営は口を一切挟まない。

 もし、所属のライバーや外部との連絡がある場合は担当マネージャーが全て連絡を引き受けてくれるとのことだ。

 そして収益を運営に入れないので、企業所属ではなく企業契約のVtuberになるとのことだ。


 あまりにも特別待遇である。

 本当にいいのかと、再三に渡って聞いたがこれでいいそうだ。

 



 

後藤:いよいよですね廿樂さん


廿樂:初配信(笑)ですけどね


 それから数日。超特急でVtuberとしての姿が出来上がり、配信で使うソフトの使い方や導入を専属マネージャーの後藤さんを家に呼んで教えてもらったりと慌ただしかったが、形にはなった。


後藤:緊張…はさすがにないですね


廿樂:そうですね、今までの配信とそう大差はありませんから


後藤:前に担当していたライバーさんは緊張でグダグダでしたから。その点、廿樂さんは楽ですね


廿樂:サムネイルや配信設定等々全部お任せしてるのが楽ですか


後藤:ええ、まぁ。マネ1人で複数人を担当するのが普通ですので。専属といったことも『Re:Mind』としても初めてですし


廿樂:へぇ~。あ、そろそろ配信時間ですね


後藤:ではあとはこちらにお任せください


廿樂:よろしくお願いします



 他のライバーさんのように、簡単なオープニングも後藤さんがそういったのが得意なライバーさんに頼んで用意してもらった。

 画面の切り替え、レイアウト、そういったのは全部後藤さんにお任せである。

 私がやることといったらPCの前に座って喋るだけである。



「こんばんは。初配信(笑)です、廿樂です。この度二次元の皮を手に入れたのでライバーになりました。

 『Re:Mind』さんには大変お世話になりまして…。いや、今後もお世話になるのかな」



チャット

・唐突なライバーデビュー

・どうしたRe:Mind

・大型すぎる新人

・初配信で登録者100万人超w

・なんだこれ


 集客はそこそこ。金曜の夜というゴールデンタイムのも相まって、視聴者数は80万人を少し超えている、いやなんか増え続けてるな。

 チャット欄には様々なコメントが見られるが、裏で後藤さんが『Re:Mind』所属のライバーさんにスパナマーク、所謂モデレーター権限というのを渡しているおかげで変なコメントはすぐに消されている。

 そこまでしなくとも…とは思わないこともないが、きれいなチャット欄というのもそれはそれでいいな。


「まー、色々と聞きたいことはあると思うけど、とりあえず自己紹介を。

 廿樂です、名は無し。職業は探索者。中身は過去の配信で見てね。

 中身をここまでひけらかすVtuberってのも珍しいと思うけど、そういう方針なので今までのダンジョン配信が減るってことはないのでご安心を」



チャット

・わおw

・V…?一応Vなのか

・本当にどうしたRe:Mind

・探索者…?

・初見。あまりにも凄い人がデビューしたな



「あー、あと。企業所属ってわけじゃなくて企業契約って形のライバーになるね。

 ライバーになった経緯としては…Re:Mind側の思惑と私の思惑の合致?スカウト的なメールが来たのが最初なんだけど、トントン拍子に話が進んじゃって。

 こういったのは私は詳しくないから、機材がどうとかそういったのは全部マネさんにお任せしてる。ありがとマネさ~ん」


 マネージャーの後藤さんに多大なる感謝を。


「今まで通り、ダンジョン配信と雑談配信を繰り返していく感じで。

 雑談枠だけこの姿って感じになるかな。

 それじゃあいつも通り前回配信の振り返りを~-----」




【初配信】Re:Mind契約ライバー廿樂です【(笑)】

220万回再生---配信済み

 

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