趣味がないのでダンジョン配信を始めてみました

預言猫

1.初配信


「はい、こんばんは。今日から配信活動を始める『廿樂つづら』です。よろしくね」


 今、私がスマホを見ながら座っているのは、渋谷ダンジョンの78階層。


 ダンジョンとは、モンスターが出現し、それを倒すとドロップアイテムを落とし、更にはゲームで言う経験値のようなものを得て、体が強化されスキルという不思議な力が手に入る。

 ダンジョンが出現した当時は、その不思議溢れるファンタジーな空間に色めき立ったが、ゲームのように死んでも生き返るわけでもはなく、その管理はすぐに国へと預けられたらしい。

 ダンジョンに潜るには『探索者資格』というのものが必要になるが、今では副業で持っている人もいれば、制限もあるが高校生でも持つことができる。


 そんなダンジョンに関することでも一番熱いコンテンツ、それはダンジョン配信である。

 元は、探索者資格を持たないダンジョンとは無縁の人たちが、探索者がどうやってダンジョンに潜って金銭を稼いでいるのか、という声を聞き、国が探索者にお願いして始めたものであるが、国が予想した以上にコンテンツとして人気が出たのだ。

 国はすぐに体制を整え、配信を行う探索者に撮影用の軍事用ステルスドローンを貸し出し、ダンジョン配信専用のサイトを作り、ダンジョン配信者という地位を作った。



 さて、趣味無し彼氏無し友人少なめの虚無女な私は、親友に


「なんかオススメの趣味ある?」


 と聞いたところ、


「青春をダンジョンに費やしたヤベェ女に勧める趣味…もういっそのことダンジョン配信とかやってみれば?」


 と言われたので、片っ端からダンジョン配信サイト『Seekers』と最大手の動画サイト『YourTube』で人気配信者の配信を見て配信の心得を学び配信機材を揃えようとしたのが一週間前。

 ようやく、というには早すぎるが配信業というものを始めることができたのである。

 ちなみに、サムネイルは家で飼っている猫のリリちゃんである。配信には一切関係ないがサムネイルを設定しようとして写真フォルダを開いたら一番上に出てきたんだから仕方ない。



「初配信なんだけど…1人でも人が来ればいいなと思ってたのに案外人いるね」


 手元のスマホに目をやると閲覧者数は300人を少し超えているといったところ。

 なんとなく理由は察しているが、こんな新人の配信を見に来る暇人がいるとはなぁ。

 


チャット

・78…?どう見ても20階層くらいに見えるけど

・詐称乙

・まーた詐称ですか



 『Seekers』では、検索欄に階層順というものがある。深い階層に潜っている人の配信が上に出てくるというものだが、ダンジョン配信者は階層と人気が比例する業界らしいのであまり使われない機能らしい。

 配信開始時に、配信者の自己申告で配信開始時の階層を設定でき、それが表示されるのだが、ただ注目を引きたいがためにそれを詐称する探索者がたまに出てくるそうだ。

 見ている側も、様々な配信を見て目が肥えているのかそういったものはすぐ分かるらしいが。

 そして、私が配信予定時に入力した階層は78階層。階層順で検索すれば一番上に出てくる。それは確認済みである。


 骨伝導イヤホンからは、「まぁ詐称でもおもしろそうだから付き合ってやるか」というコメントが、読み上げ機能を使っているので伝わってくる。


 実際は詐称でもなんでもなく、本当に78階層に潜っているのだが、その様相は渋谷ダンジョンの20~25階層にある草原階層と酷似しているので分からないのも仕方はないか。

 ま、それももうすぐ詐称ではなく本当だとわかると思うが。



「チャット欄の君たち酷いねぇ。配信に関して詳しくなかったけどある程度は勉強したからね。渋谷ダンジョンの78階層にいるのは本当だよ」



チャット

・嘘乙

・78階層ってw無明ですら最高到達階層69階層なのに嘘にしても盛りすぎw

・はい解散

・女だからって嘘付いても許されんぞ

・てかそのペストマスク痛すぎ



「うーん、やっぱり信用してもらえないよなぁ…ん?ああ、来たな」


 ここ、渋谷ダンジョンの78階層が上位探索者に嫌われている理由が轟音の蹄音と共に来た。

 体高3mほどの巨大なバイソンが視界に映ると共に衝突、するのを掌で受け止める。


「mo…?」


「ほいっと」


 受け止めた手でそのまま鼻っ面を掴み地面に叩きつけ、頭蓋を叩き割り絶命させた。

 巨大なバイソンは死体を残さず黒の塵へと姿を変え、後に残ったのはドロップアイテムだけ。



チャット

・???????????????????????

・は?

・なにこれ

・?

・え、渋谷20階層にあんな牛出てこないよね?

・今なにした

・説明。説明plz!!!!


 

「説明いる?」


 別に他の配信を見ていたら不思議に思うこともないと思うが…。



チャット

・いる!!!!!!!

・CG?

・渋谷の70階層以降の配信とか見たことないって

・?????????????????

・新人の配信見に来たら阿鼻叫喚で笑う



 渋谷ダンジョンの70階層以降の配信を見たことない?

 そういや知り合いの探索者は配信とかしたことないって言ってたし…もしかして配信者って思ったより探索者として強くはないのか?


「あぁ、説明、説明ね。さっきの『アングリーバイソン』っていうモンスター。突進しか能が無いけど、最高速は新幹線より速いから厄介なんだよねぇ」


 しかも、別に強モンスターの立ち位置というわけでもなく、鼻がいいのでこの階層を散歩すれば1分に1匹はエンカウントするので余程の用事がない限りこの階層には誰も来ない。



チャット

・新幹線より速い…?

・300km/hオーバーってマジ?

・なんでそれを止めれるんだよ

・また詐称マンかと思ったら化け物ウーマンだった件



「化け物ってひどいなぁ。これくらいできる人いるよ」



チャット

・それ一握りだろ

・はい化け物

・配信者でできそうなやつ…いるか?

・いねぇよ

・いろいろ聞きたいけどなんでペストマスク?



「ああ、このペストマスク?顔出しするのは嫌でさぁ、適当に通販で買った」


 配信をするにあたって、顔を出すのはなんか嫌だったのだ。友人からは顔には自信を持っていいとは言われたが、顔も知らぬ他人に顔を見られるのはこっぱずかしい気持ちになるなと思ったので、適当に通販サイトで良さそうなマスクを探してたら出てきたペストマスクを買って付けている。



チャット

・声いいのに…顔も良さそうなんだけどなぁ

・女のダンジョン配信者は少ないから顔出してくれよ

・チョイスが厨二



「まぁ、顔出しはしないってことで。とりあえず78階層適当に歩いて行こうか」





【初配信】廿樂です。よろしく。

33万回視聴---配信済み


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