第35話 『雷切』

「気をつけてルノウ‼︎あの女、出してくる武器がどれもヤバすぎる‼︎」

 アストラルを視界で捉えられないと判断したルノウとサニアは、まず一点に佇むシズクへ矛先を向ける。クラウ・ソラスに続き、多くの古代起源魂を使って戦っていたのだろう。

「分かった、姉ちゃん。それじゃあ、先にあっち倒そう」

 アストラルを追尾していた鎖が、角度を変えてシズクへ飛来する。それぞれが自我を持つよう性格に狙いを定めた金属製の矛は、逡巡もなく突っ込んでいく。

 ふと、突然鎖の中枢が黒く変色し始める。みるみるうちに錆びつき、粉となり空を舞い始めた。偶然の産物などではない。覚醒を遂げた、その起源魂がそこに居たのだ。

 眼で追えない雷の速度を更に強化し、その電圧までもを規格外に増加させる。起源魂『麒麟きりん』は、鉄の塊を瞬間に土へと落とした。

 金属の塊から金属粉を作り出すための過程は、いくつかの方法があり、そのどれもが電解やイオンと頭の痛くなる長いロードマップを辿る必要がある。しかし、それは常識の範囲。出鱈目の横行するこの戦場に、常識など意味を為さない。

「糞……アストラルの奴‼︎」

 双子の舌打ちが、爆破に反響する。その隙間を縫うようばちばちと音を立てながら、麒麟が通り抜けていく。

「よぉし、行くぞぉ‼︎」

 ルノウとサニアは双方の間を通り抜ける雷に気を取られ、刃を構えるシズクを放置してしまった。この二秒にも満たない瞬間に、勝負は決する。

「しまった……‼︎」

 シズクの握りしめた古代起源魂『雷切らいきり』が、力強く投げられる。ルノウは辛うじて生き残った数本の鎖を使い、二人の身体を包み込む様にして防御の体制をとる。しかし、飛来する『雷切らいきり』はまたしても双子の隙間を通り過ぎていった。

「外した‼︎」

 サニアのニヤけ面が、シズクを向き煽りを見せる。しかし、何一つとて奴らは勝利に届かない。

「いやぁ、まさか勝手に墓穴掘ってくれるとは願ったり叶ったりだ」

 通り抜けた刃の飛来する方向に、一つの影が現れる。紛れもなく、その身に『麒麟きりん』を纏うアストラルである。その身体を目掛け一直線に走る『雷切らいきり』の刃を、アストラルの掌が包み込む。

 刹那、狂ったような電気の雨が周囲に飛散する。広範囲に飛び散る光は導かれるよう、一番電気を集約する場所へと方向を変え始めた。

 古代起源魂エンシェントオリジンソウル雷切らいきり』は、かつての武人が昼寝をしていたところに落ちた雷を穿ち、その雷の中に住まう雷神を斬り殺したと語られるものである。

 

 

 身体を防御するための鎖が、避雷針のように高電圧を集約させてしまった。雷を纏うアストラルとの交戦において、最大のタブーと言っても過言ではないミスである。

「さて……コイツらどうする?」

「……これでも二年間見てきた顔だ。出来れば殺したくは無いな」

 シェルデンのように、我々の気に触る事をしたわけでもない。ただ敵対し、互いの真意を見つけられぬままの決着もまた、歯痒いものである。

「ま、この子たちが起きる頃にはもうギガノスは無いだろうし、放っておいてもいいんじゃないかな」

「そうだな。コイツらはギガノスの中で一番若い。まだ更生できる」

 アストラルの掌から、ぽたぽたと赤い雫が落ちる。雷切を握り込んだ事で受けたダメージだが、これ以外に目立った外傷は見当たらない。シズクも同じく軽傷である。

「一応聞くが……ミヤビの応援に行くか?」

「いや……ベルフェゴゥルは毒を使うんだろ。対抗手段を持たない私たちが行っても、ミヤビの負担を増やすだけだ」

 双方の、利害の一致。最後の幹部は対抗手段の解毒を持つミヤビに任せ、アストラルとシズクは城の主を目指すことに決めた。

「もうひと仕事だ、イドゥラ……」

 翼竜のページを開くシズクの背景、その言葉を遮るようにして、城の上層に位置する壁の方向から。果て無く響き渡る轟音と共に瓦礫を崩し、その内部から何かが姿を現していた。

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