第17話 東二番街にて
東一番街での邂逅より二時間ほどが経過した。現在東二番街に流れる大きな川に沿って、煉瓦造りの道を踏み締めている。後々になって、あの青年の名を聞き忘れたなどと話しながら、シズクとココロの待つ東四番街を目指す。
東一番街は、活気にあふれた市場といったところか。そこからガラリと景色は変わり、東二番街は整備の行き届いた自然と調和する街。良くも悪くも、田舎という言葉が似合う。ただ、マリウルから抜けた先の田や畑しか見えない完全なる田舎とは違い、なんとも言えない感じの田舎だった。
「なんとか今晩までには着きそうだな」
「カル、道詳しいな。エルガノンに来たことあるのか?」
「あぁ、国交に何度か立ち合わせて貰った。その時に、ミヤビとも縁が出来た」
やはり衛兵に身を置く者同士、いや、起源魂を持つ者同士か。どちらの国からしても、重要な人材であるに違いはない。
「やっぱミヤビさんも強いのか——」
ふと、言葉を遮るように、背中を大きな衝撃が襲う。前方に吹き飛ばされ、煉瓦造りの上へ鈍い音を立てて転がった。
敵襲だろうか。向き直り、ことの原因を詮索する。こちらへ向かう、鬼の形相をした少女が胸ぐらを掴み上げ迫りくる。
「やぁーっと見つけたと思ったらぁ‼︎何ほかの女と歩いてんだぁ⁉︎フランくんは私だけの……ん?」
人違いに気付いたらしい。互いに首を傾げ、意味が分からないまま数秒の間双方が硬直した。
「あれ、フランくんじゃない……すみませんなんかほんと……」
「ああいや、別に……」
どうやら、この少女にドロップキックを喰らっていたらしい。ヒリヒリと痛む背筋が、今尚響き続ける。
「おっかしいなぁ……確かにフランくんと同じ匂いなんだけど……」
鼻を向け、こちらを凝視するように。その姿はまるで犬のようだ。ココロより少し歳上、といった印象がある。
「誰か探しているのか?」
割って入る、カルトレアの声。しかし、今日はよく尋ね人を探す人とよく出会う。
「そーなんですよぉ、私の愛しのフランくん、あぁ、フランクリンって言うんですけど……いや、本当の名前はまた違うんですけど……なんか昨日突然居なくなっちゃって‼︎」
この一連に、悪意はあっただろうか。否、純粋悪というやつだろう。
先日行方をくらませたフランクリン。本当の名前はまた別に、そして、自身と同じ匂いがすると。
間違いなく、眼前のこの女はギガノス関係者だろう。ベルフェゴゥルとはまた違うルートで、アストラルの始末を目論んでいる筈だ。
カルトレアも同様に気付いたようだ。恐らく、この少女は我々の正体に気付いていない。この少女がギガノスの何処に位置する人物なのか。雑兵か、偵察か、幹部なのか。それ次第では、判断も変わってくるだろう。
カルトレアは
「うぅーん、やっぱ貴方からフランくんと同じ匂いしますね。血縁か何かですか?」
この少女、あまりにも鼻が効きすぎる。まさかその繋がりすらもバレてしまっているとは。恐らく、確信を持って言葉を発した筈だ。適当な嘘で誤魔化せるとは、思っていない。
だが、答えて仕舞えばギガノスに狙われる身としてすぐに戦闘が始まる。退路のない選択、既に、戦うしか道は無いのだろう。
「俺は……」
「お前、名は?」
返答を遮る。カルトレアの設問が、一時の諦めを断った。
「私ですか、私はフロウズです」
「そうか」
カルトレアは、藍色の剣を抜く。もう既に、早々と決着を付け二人の元へ急ぎたいという魂胆だろう。
「悪いが、アストラルは渡さん」
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