第10話 『迅雷』
ハスターの背に乗り込み、二人の影は崩れかけた階段をひたすらに登っていく。兄曰く、どうやらこの城はギガノス兵の駐屯地に使われているらしく、日没が近くなる現在は多くの兵が出払っているので敵は少ないとのことだ。
階層を分つ戸を蹴破り、長い廊下を前進。突き当たりを右に曲がった先で、眼前に構えた数少ない敵と相対した。
「侵入者か⁉︎」
「幹部が二人も居たってのに……‼︎」
こちらへ槍先を向けた数は、五人。シズクの武器に時間制限があることを考慮すれば、一秒すらも無駄にはしたくない。
「ライア、突っ込むぞ」
「了解ッ」
ハスターの脚は止まることを知らず、兵の壁へ突っ込んでいく。アストラルはハスターに跨ったまま壁に触れ、ばちばちと音を立てている。
「『
かつてより見ていた、兄の魂『
「……俺と戦ってるとき手ぇ抜いてたな」
「俺なりの、シェルデンへの抵抗だ」
かつてより、明らかな威力の倍増を見せている。深層心理を操られていたとても、自我の全てを抑えることは出来ないのか。若しくは、アストラルの想いが己に制限を課していたのか。だが間違いなく、先ほど戦ったフランクリンの力は、アストラルの足元にも及ばない。
「てかアイツら兄貴のこと知らねえのか」
「仮面の下は、幹部と少数以外には見せてないからな」
「そっか」
「そんなことより、この階段の先にブラキュールの部屋がある。引き締めろ」
「……あぁ。覚悟ならとっくにできてる」
雷電に打ち貫かれて阿鼻叫喚を漏らす有象無象を超え、最終目的地へ向かう階段を駆け上がる。しかし、二、三段踏み出した辺りから、ハスターの身体が段々と透けている様子が見てとれた。二人との行動を別にしてから、十五分が経とうとしている。
「ありがとな。助かった」
程なくして跡形もなく消滅したハスターは、シズクの本へ帰ってしまったようだ。ハスターの助けがなければ二倍以上の時間を要していただろう。己の脚で敵地への一歩を踏み締め、超えた先。幸い木製の扉だったので、焔で包み込んだ。
焼け焦げ崩れ落ちる景色を写した視界の先。備え付けられたベッドに横たわる純白に身を包んだカルトレアと、それを覆うよう位置するブラキュールの姿があった。こちらへ向けた二つの顔、瞬時に状況を理解した己の脳は、身体を勝手に動かした。
四歩先へ走り、止まって、片足を持ち上げる。弧を描く様に、踵をブラキュールの顔面へ叩き込んだ。憎しみ、怒り、何かもわからないごちゃごちゃとした感情を詰め込んだ一撃に、ブラキュールはその身を吹き飛ばしてドレッサーへ打ち付けられる。
「ライア……」
「悪い、カル。ちょっと遅くなった」
ココロを人質に取られたことにより、恐らくカルトレアはこの外道に何も抵抗出来なかった。きっと、辛く苦しい時間を強いられていただろう。我が師に向かって助けに来た、なんて、言える気もしないが。
ブラキュールには腹が立っている。これは、私利私欲の為の戦いと割り切ろう。
「あァ……?お前あの時居たガキじゃねえか……何しに来やがった?」
「テメェをぶっ潰しに来た」
眉を顰め、舌打ちをするブラキュール。ふと何かに気づいたように背景を凝視していた。恐らく、アストラルに気がついたのだろう。
「おいテメェ何突っ立ってんだ。シェルデンは……いや、アイツはどうでもいいわ。ちょっと手伝え」
歩み寄るアストラルは、ブラキュールの眼前に立ち手を差し出す。立ち上がるための手助けと受け取ったブラキュールはその手を掴んで踏ん張っている。
その様子を冷徹な目で見下すアストラルの掌が、例の音を響かせている。がっしりと掴んで離さない掌から、ブラキュールは無事に感電していった。
「ァァァ⁉︎テメっ何しやがる……」
「……俺も、テメェをぶっ潰しに来た」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます