辺境UNDER GROUND ~東大エリートの俺が異世界転生した結果、勇者でも魔王軍でもない「辺境のギャング」に選ばれました。
三澤凜々花
プロローグ ~俺は勇者でも魔王でも市民でもない、辺境ギャングである~
「お、あの勇者いい盾持ってんじゃねぇか」
俺の隣にいる青髪長身の男が舌をペロリ、と出す。ニヤつく男の隣にいる俺は対照的に真顔である。
「千里、お前の出番だ」
青髪長身の男は俺を指差して尖った歯を出した。
「わかってる。ただし、俺が右手を上げるまでは絶対に襲撃しないでくれよ?」
「元ホームレスがよく俺に指示出せるなぁ? あ?」
「あ、あの盾120万するんだぞ……今回はさすがに慎重に……」
木が生い茂った丘、その木々の間に俺と男が身を顰めつつ小声で話す。
俺たちの視線の先、丘の下には勇者一行。
「勇者に、ウィザードの女、僧侶の女、魔法騎士の男……計4人」
俺は勇者一行の構成を確認し、隣の男に告げる。男はもう既に興奮冷めやらぬ様子だ。
「じゃあ、俺から行くよ」
「っと、待ちな」
意を決して身を乗り出そうとすると、体を腕で制止される。
「どうした?」
「千里……向かいの丘にオークが2体いやがる」
「アイツらも狙ってんのか……」
俺たちの視線の先、対面の丘に目を凝らすとたしかにオークが2体身を潜ませていた。
しかし、オークは俺たちの存在には気付いていない。
そうこうしているうちに、丘の下を歩く勇者一行はどんどん先へ進んでいってしまう。
「アル、俺が勇者と話しているうちにオークをやってもらえる?」
「まあしゃーねぇな。しっかり時間稼げよ、相棒ッ!」
言葉を残し、男――アルは対面の丘へと一気に飛び上がる。
俺より2回りほど大きな2m近い体で、軽々と5mは距離のある対面の丘まで飛んでいく。
「よし、俺も行こう」
続いて、俺も丘の下へと降りていった。
「おや? こんなところに人が……」
「人が住むようなところではないはずよね? 珍しい」
「迷子の冒険者かな?」
勇者一行が地面に座り込む俺を見てひそひそと話し始める。俺はボロボロの布の服を寒そうに抱きかかえる。
「おーい、大丈夫ですか?」
重そうなシルバーの鎧、無駄に大きな剣を差し込みゴールドで派手に装飾された盾を持つ勇者。
勇者は怪しむこともなく俺の目の前まで駆け寄ってくる。
「…………」
俺は下を俯きながら無言を貫く。
「ちょっと、ボロボロじゃない! あなたどこから来たの?」
ウィザードの女が俺のみずほらしい姿を見て思わず手を口にあてる。ついてきた仲間たちも俺を同情の目で見ている。
今回はイージーゲーム。
「僕は……ドラゴンに村を焼き払われてここまで一人逃げてきたんです……」
「なんと……! ドラゴンが……!?」
「はい……金も食料もなく、走り続けていたらここで力尽きてしまって……」
「可哀相に……この辺は魔王軍のモンスターも多いし、魔王軍にも属さず悪さをするチンピラみたいな輩もいるようなんだよ。危ないから早く――」
「そう、勇者でもない、魔王軍でもない。誰の味方でもないチンピラギャング集団がいるってね」
「……?」
ごめんな、勇者一行。
俺は右手を静かに挙げた。
「おせぇよ千里!! とっくにオークなんざぶっ倒してんだよッッ!!!」
「……!?」
座り込む俺。目の前に唖然とする勇者一行。
その後ろに、大きな棍棒を持ったアル。
「オニ族!?」
「120万ゲットォォォォォォォォオオオオオッ!!!!!」
アルの叫びと共に、勇者一行は大きな棍棒に一気になぎ倒される。
俺は立ち上がり、倒れた勇者の盾を掠め取る。
「ぐあぁっ、盾が!!」
「ごめんな! でも俺がホームレスなのはマジなんだ!」
驚きと衝撃で立ち上がれずにいる勇者一行を横目に、俺とアルは全力疾走で森の中へと消えていく。勇者が立ち上がった時には、俺たちは既に森の奥へと進み追いつけない距離に来ていた。
「ひゃっほーう! 今日は宴だな、千里!」
「アル……戦利品で得た金はもう"エルフキャバクラ"に貢がないでくれよ……?」
「うるせぇ! 俺たちみてぇなモンはなぁ、豪快に使ってナンボだろうがよ!」
「心の底からチンピラだ……」
俺は人間。日本に生まれ日本に育ち、今は異世界で暮らしている。
半年前にあの件があって転生してから、コイツと一緒に過ごしている。
そして、今日オークを討伐しながら勇者一行から盾を強奪した。
そう。
俺は勇者でも魔王軍でもない。
辺境のギャングに転生してしまったのだ――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます