ねんねこの歌の日

 その日、街は核で破壊し尽くされた。

 泣き崩れた女の人が、黒焦げの子供の死体を大事そうに抱え、子守唄を歌い続ける。

「ねんねこや。ねんねこや」

 片付けに来た若い兵隊が、その歌に聴き入った。


 数十年後。

 老軍人が、路上でギターをポロポロ鳴らす。

 ねんねこや、ねんねこや、と歌いながら。

「この歌は被爆地のお母さんが……」

 歌についての説明もして。

 集まってきた人々は、老人の話に涙し、つられて口ずさんだ。


 さらに数十年後。

 口伝えで歌は広まった。

 ミュージシャンも芸能人も一般人も、ステージだのテレビや動画だのカラオケだので歌い出した。

「ねんねこや。ねんねこや」

 お母さんのエピソードも紹介された。


 さらにさらに数十年後。

 戦争を起こした為政者が、核のボタンを押そうとした日だった。

 ねんねこや。ネンネコヤ。NenNekoYa。

 世界中の人々が、一斉に歌い出した。

 あまりにうるさかったので、為政者はボタンをうっかり落とした。

 核のボタンは壊れた。

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