ヒーローの初期

 親と一緒に図書館へ来ると、5歳の子どもは司書にねだった。

「ヒーローマンの絵本ください」

「いいけど、今貸出中で古いのしかないよ」

「いい! パパ、ママ、読んで!」

 親はニコニコしながら、よく見かけるヒーローマンを思い浮かべる。シンプルでかわいい、ヒーローの絵。

(たっくんはヒーローマン好きだな〜)


 親はわが子に読み聞かせてやろうと、古びてボロボロの本を開いた。

 絵の中で、人々がマッチョなヒーローに縋っている。

『ヒーロー助けて。F国の連中がうちの町を襲ったの』

『俺の家も』

 ヒーローマンは一言、『なに? けしからん』


 と言うが早いが、次のページでは、F国民を殴り倒していた。

 背後で、彼に縋っていた人々が、ニタニタと略奪や殺人をしているのには気づかず。


「パパ、ママ、これどういう意味?」

 子どもは無邪気に尋ねてくるが、親は蒼白だった。

 近くにいた司書が、朗らかに解説する。

「初期のヒーローマンは、人間の欺瞞を描く系の路線でしたからねえ」

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