第5話 蛍の光


 この前、田舎の祖父母の家に泊まりに行ったときのことなんですけど。

 夜にテレビ番組でアイスの売れ筋ランキングをしているのを見たら、無性にアイスが食べたくなってしまって……自転車で5分のところにあるコンビニに買いに行くことにしました。


 コンビニに行く途中に、田んぼの間を流れる小川に架かった小さい橋……そうですね、軽自動車1台が通れるくらいの幅の橋の上を渡るんですけど、ちょうど川沿いにホタルが飛んでいるのが見えたんです。

 私が住んでる場所では見れないので珍しくて、道の端に自転車を止めて橋の上からホタルの光をしばらく眺めていたんです。


 ふと、少し離れた一ヶ所に光が集まっていることに気づいたので近くで見たくなって、畦道に降りて川沿いを歩いて行きました。

 ホタルが集まっているところまで歩いて、これだけホタルがいるってことは、よほど水が綺麗なんだろうなあと思ったので、試しに小川の水に手を浸したら、ヒヤリとしてとても心地よかったです。


 そのとき、ガシャンと音がしたのでビックリして立ち上がって、音がしたほうに顔を向けたら、街灯の下に停めていた自転車が、横倒しに倒れているのが見えました。

 しっかりとスタンドで固定していたので、なんで? ってびっくりしました。


 車が滅多に通らない道とはいえ、いつまでも横倒しになっていると危ないと思って戻ることにしました。

 名残惜しくて、最後にもう一度だけ光の群れを見ようと振り返ったんです。

 だけど、あれだけ集まっていたホタルの光は、一つも見えなくなっていました。ひとつも、ですよ。


 さすがにおかしいと思って、スマホのライトをオンにして辺りを照らしてみました。

 夜目は利くほうなので、光ってないだけで隠れているホタルを見つけられるかなと思って。


 そうしたら、畦道の上に小さな石がライトの光で浮かび上がって見えました。

 よくよく見てみるとなにか文字が彫ってあるようだったので、なにが書かれているのか確認してみたくなりました。


 近付いて光で照らすと、『麻鞍ヶ原古戦場跡』という文字が浮かび上がって見えました。


 この道を通るのは初めてではないのですが、川沿いまで降りることが今までなかったので、こんな史跡があるなんて思ってもみなかったです。


 家に帰って祖母に見てきたことを話すと、昔は死んだ人の魂がホタルになって現れると言われていたそうです。「だから、妙にホタルが集まっている場所には近寄らないほうがいい」と注意されました。

 なにが「だから」なのか、いまいちピンとこなかったので理由を聞いてみると、こう教えられました。


「死んだ人の魂といっても色々だけど、ホタルの光は、恨みを抱えて死んだ人の魂だと言われているから」



 振り返ると消えていたあの緑色の光は、本当にただのホタルの光だったのでしょうか。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る