第2話 俺、メインじゃない!?

「なんだ? 私はこんな奴呼んだ覚えないぞ」


 美しい女性が俺に向かってそう言った。

 大きな目に通った鼻筋、小さな唇。

 白銀の髪。

 スラリとした肢体に絹の衣をまとっている。


 はぁ……胸が大きい。


「こんな醜い男を呼んだ覚えはないのだが……」


 俺の顔を見て、眉根を寄せる美女。


「こんなデブを……」


 これが言葉責めってやつか……

 背筋がゾクゾクして来た。


 ……って、新たな性癖を発見してる場合じゃない。


 冷静に辺りを見渡す。


 真っ白な世界。

 そして、空中に浮か魔法陣。


 ここはいわゆる、俺のいた世界と、異世界を繋ぐ境界と言った場所だろう。


 つまり、俺はこの女神のさじ加減で、何らかのスキルを与えられ、異世界に転生するのだ。


「何かの間違いだ。そう。私が召喚を失敗するはずがない」


 だが、美女は俺の顔を見て何度も、首を横に振る。


 こうまで存在を否定されるとかえって気持ちいい。


「あの……いいですか?」

「ん?」

「俺、ハーレムな世界に行きたいっす」

「その顔では無理だ」

「うう……」


 転生したらカッコいい男になりたい。

 それか、真っ白い肌のエルフとか。

 まぁ、どっちも不純な動機だが。


「お!」


 美女が目を見開く。

 その口がオーと開く。

 彼女の視線を追うため、俺は後ろを振り向く。

 魔法陣の真ん中が黒く渦巻いている。

 その中から人が、ぬぬぬ、と出て来た。


「あ、鮫島ぁ!」


 ビックリした。

 俺の後輩、鮫島明だ。

 さっきまで一緒にサーバルームで仕事してた。


「ん? ここどこ?」

「鮫島~!」

「あ、嶋野さん」


 魔法陣の真ん中に座り込んでキョトンとする若手。

 そやつの両肩を俺は、ムンズと両手でつかんで、ゆすった。


「俺達、これから異世界ライフが始まるぞ!」

「え! ええ!?」

「デスマーチも納期も無い、英雄譚の旅に出るぞ!」

「なんすかそれ?」


 こいつは俺と違って、オタク趣味が無い。

 アウトドア派のイケメンだ。

 俺はアニメのDVDを観るが、こいつはサブスクでトレンディードラマ(言葉が古い)を観たりする。

 コミケでエロ同人誌を買う俺。

 その頃、リアルで女を抱くあいつ。

 だから、俺の気持ちが分からん。


「いたっ!」


 俺は尻餅をつく。

 美女が俺を両手で弾き飛ばし、俺がさっきやったみたいに鮫島の肩を掴んでゆすっている。


「おお! 勇者よ! よくぞ来た!」

「え?」

「この世界を救えるのはあなただけです」


 美女は鮫島に抱き着かんばかりの勢いだ。


「は? 嶋野さん、何すか、このおねーさん」


 俺に訊かれても困る。

 てか、羨ましいぞお前。

 美女がたまったものを吐き出す様に、叫ぶ。

 顔を真っ赤にして、涙目で。


「私は女神セリア! 世界を魔王から救う勇者を召喚するのが役目。そして、あなたからは勇者のオーラを感じる!」

「何すか、お姉さん。まじ、目がヤバいっすよ」


 さすがだ、鮫島。

 こんな美女が息の届きそうなくらい近くにいても、一切動じないなんて。

 現行の世界でもリア充のお前にとって、異世界でハーレム何て必要ないんだろう。


「う~む。つまりこう言うことだ。鮫島。どうやら、お前がメインで、俺はついでらしい」

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勇者召喚に巻き込まれた社畜おっさん。早速パーティから追放されて、ゲーム序盤で死ぬモブとして転生したのを自覚。聖女に転生した同僚が同情、剣聖スキルを授けてくれた!~無双して、ざまぁして成り上がる物語~ うんこ @yonechanish

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