第151話 ご実家はどの辺りにあるの?

 電車に乗ると、既に乗客がいっぱいだった。

 さすが帰省シーズン……早いうちから予約しておいてよかった。

 俺は初めて帰省するから、どれほどのものかっていうのはテレビの画面越しでしかわからなかったけど、なるほどこれは侮ってたらダメなやつだった。早い段階から予約を促してくれた那月さんには感謝しないとな。

 俺たちの席を見つけ、俺は自分と那月さんのキャリーバッグを上にあげ、那月さんに窓側を譲ると、那月さんは笑顔で「ありがとう」と言って座った。

 俺はちょっとだけ間を置いて、ドキドキしながら那月さんの隣に座る。

 夜……自宅のリビングダイニングのソファでは、隣に座って何気ないおしゃべりをするのが定番になっているんだけど、やっぱりいまだに慣れないなぁ。

 那月さんを見ると、窓から駅のホームを見ていて、窓に映る那月さんの表情は笑顔だった。

 ほどなくして駅のBGM、そして笛の音が聞こえて、電車がゆっくりと動き出した。

「でもまさか、地元が同じだなんて、改めてびっくりだよね」

「う、うん」

 数日前に聞いたのだけど、俺と那月さんの地元……降りる駅は一緒だった。些細な偶然に驚きと嬉しさがあった。

「祐介くんのご実家はどの辺りにあるの?」

「駅から出て山の方に進んだところなんだけど、えっと……」

 俺はポケットからスマホを取り出し、地図アプリを起動。登録してある実家を表示させて那月さんに見せた。

「ここなんだけど」

「……どれどれ?」

「っ!?」

 那月さんが俺のスマホの画面を見るために、俺と腕を密着させてきた。

 突然のことに一瞬で頬が熱くなり鼓動も早くなる。

 最近はお互いに触れたり、手を繋ぐ機会もあったけど、俺は那月さんに触れるという行為にいっこうに慣れる気がしない。自分から触れたこともあったけど、その度に勇気が求められる。

 那月さんはドキドキしてないみたいで流石だなぁとかちょっとくらいドキドキしてくれてもいいのにって思いながら那月さんを見ると、那月さんはほのかに頬が赤くなっている……気がしなくもない? いや、気のせいか。

 とか思っていると、那月さんの眉が下がってしまった。

「私の実家とは逆方向なんだ……」

「あ、そうなんだ」

 俺もちょっと残念かな。

 逆方向ということは距離があって、おいそれと那月さんに会うことができないから……。

 那月さんは少し残念そう(?)に「うん……」と言いながら、俺から体を離し、スマホを操作している。

 それからすぐに俺の方を向いて、チョイチョイと手招きをしてきた。

「?」

 こっちに来いって意味なんだろうけど、一体なぜ?

 俺はちょっと戸惑いながら那月さんを見ていたのだが、那月さん……今度は自分のスマホを指さしている。

 そしてようやく那月さんの意図を理解した。

 つまり、那月さんはさっき自分がしたように俺にスマホを見ろと言っているのか。

 自分から進んで那月さんに触れようとしたことが少ないから緊張してしまうけど、那月さんはそれを許してくれているし、俺も那月さんに意識してもらいたいって思ってるから、日和続けていたらそれも叶わなくなる。

 だから俺もちょっとは積極的にならないと……!

 俺は小さい声で「失礼します」と言い、肘掛けを使って腕同士を密着させた。

 心臓がバクバクいってる。自分から距離をなくし、相手に触れるってやっぱりめちゃくちゃ緊張するな。

 那月さんの顔を見る勇気があれば良かったんだけど、生憎と無理だった。こんな至近距離で好きな人の顔なんて見たら、俺が那月さんを意識しまくりなのがバレてしまう。

 いずれはバラさないといけないにしても、帰省が始まった瞬間にバレたんじゃこの先気まずくなるからな。

 だから俺は那月さんのスマホだけを見るように意識する。スマホから意識を離して不意に左に視線を移してしまえば、那月さんの大きな胸を見てしまうから……。

「ほ、本当に逆方向だね」

「うん……」

 ここで俺は那月さんから離れて那月さんの顔を見た。ちょっとしょんぼりしてるけど、やっぱり綺麗だなぁ。

 でもまぁ、自転車を使えば多分二十分もあれば行ける距離だから、会えないこともないか。

「俺、自転車あるから、那月さんに何か困ったことがあったら行くよ」

「え? でも祐介くんだって用事があるんじゃ……」

「お墓参りと友達と会うくらいで、あとは家で過ごすつもりだから、多分暇してるのが大半だし……」

 久しぶりに父さんと母さんに会うから、家族の時間を取りたいのと、不用意に出てしまったら、アキとリョウ以外の……あだ名と噂を流した奴らに出くわしそうだから……。

「だから、遠慮なく呼んでよ」

「……うん。ありがとう祐介くん」

 那月さんの優しい微笑みにドキドキしたが、なんとか平静を装った。

 それからは楽しくおしゃべりしながら過ごし、あっという間に地元の駅に到着した。

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