第6話:それでも私は清楚路線で行きたい!!!


「えーっと、ミヒロちゃん」


「は、はい?」


 伊藤健一さん? っていう人を助けてから事務所に戻ると、私は田中さんから事情聴取を受けることになった。

 あ、あれ? もしかして私、配信で言っちゃいけないワードとかうっかり言っちゃったのかな? で、でもそんな変なこと言った覚えはないし……な、なんだろう?


「さっきのダンジョンでは私たちのことを助けてくれてありがとう。おかげで死なずにすんだよ」


「そ、そんな大したことしてないですよ! アレぐらいなら私、目をつぶってでも倒せますから!」


「え、ええ……」


 ん? 私、また変なこと言っちゃった? 田中さん口をポカンと開けて呆然としてる。うう……こ、これって、もしかしたら私、期待に応えられてないのかな?


 も、もしかしてクビ!? わ、私の配信者人生早速終了!? そ、そんなのやだよ、あんな田舎になんか戻りたくない!!!


「ご、ごめんなさい田中さん! わ、私に落ち度があったら全て直します、だ、だからクビにしないでください!」


「え!? い、いやいやクビになんかしないよ!」


「で、でも田中さんも、カズサさんもなんだかさっきから私を見る目が変というか……」


「……まぁ、それは間違いでもないかな」


「ひゃあ!?」


 や、やっぱり変な目で見られてたんだ! ど、どうしよう……な、何が変だったのかな? 声とか? ちょっと変わった声だねって言われたりもするし……で、でもそれは田中さん私の強みだって言ってくれたよね。じゃ、じゃあ何が……。


「いや、私たちが驚いているのはだね。ミヒロちゃん、めちゃくちゃ強くない?」


「つ、強い?」


「そうだよ、あのS +級のモンスターを一撃で倒せるなんてめちゃくちゃ強いじゃん!」


「あ、あれぐらいなら誰もで倒せるんじゃ」


「ふぇ?」


「え?」


 私たちは見合わせるように、お互いの言ってることがなんとなく噛み合っていない違和感を感じていた。

 わ、わかんないよ……な、何が違うの!?


「ミヒロちゃん、多分勘違いしてるけど……あのモンスター、普通倒せないよ。あれ倒せる人は清楚とは言えない気がする……」


「……うえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」


 反射的に声を出してしまうぐらい、私の身体中に衝撃が走った。あ、あれを倒せる人は清楚系じゃない……そ、そんなはずないもん! あ、あんなの私のおばあちゃんだってかるーく倒せるぐらいの雑魚だもん!


「そ、そんなわけないです! あ、あんなの雑魚じゃないですか!」


「雑魚じゃなーい!!! み、ミヒロちゃんは一体どこの惑星から来たのかな!?」


「ち、地球ですよ! じょ、冗談はほどほどにしてください田中さん」


「ああ、本当に自覚がないんだ……」


 田中さんは手を頭に当てて愕然とした様子を見せていた。そ、そんなにあのモンスター強いの? 

 で、でもおじいちゃんもおばあちゃんも「あれぐらいは軽く倒せるようにならんといかんよ、ミヒロ」って言ってたし……。


「ミヒロちゃん、少なくとも世間一般の感覚でキミは……やばいぐらい強い。少なくとも、ダンジョンの中では清楚とは言い難い……かも」


「そ、そんな……」


「うーん、日常だと清楚なんだけどねぇ……どーしたもんかなぁ。ちなみにミヒロちゃんは清楚路線がいい?」


「も、もちろんです! もしかしたらみなさん違うっていうかもしれないですけど……それでも私は清楚路線でいきたいです!」


 だってみんなからチヤホヤされたいから!!!


「うーん……ま、いっか! 配信的にも取れ高あったし、何よりミヒロちゃんの意思が一番重要だからね」


「た、田中さん……あ、ありがとうございます!」


 一時はどうなることやらと思ったけど、案外綺麗にまとまった。よかったぁ……これでまた配信ができる。うう、早くまたダンジョンにいって配信したいなぁ!


「お、おい大変だ2人とも!」


「ど、どうしたのカズサ?」


 慌てふためいた様子で、カズサさんがスマホの画面を私たちに見せる。なんだろう……こ、これって掲示板?


———

【超逸材】自称清楚系新人配信者「磯部ミヒロ」、うっかりS +級モンスターをワンパンしてしまった模様


899:名無しさん

俺らのジャンヌ早くまた降臨してくれえええええええええ!


900:名無しさん

ミヒロちゃん早く見たすぎてもう我慢の限界です

———


「い、伊藤健一のアンチ……ちょ、超厄介な奴らがミヒロのことめちゃくちゃ気に入っちゃったんだけど!?」


「えええええええええええええええええええええ!? あ、ちょっと待ってチャンネル登録者数もミヒロちゃんだけすごい勢いで伸びてるんだけど!?」


「え、え、え、え!?」


「……よし、早速配信するよミヒロちゃん!(この集金チャンスを逃すわけにはいかない!!!)」


「ええええええええええええ!?」

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