第11話
「奴は今どうしている?」
立ち上がり、シークに向かいそう問いかけるカイの声は王族としての圧がある。思わず背を正してしまうセレスであるが、問われた本人はいつものように気安い態度のままだ。
「自分はレノーイの王族だ! 第一王子だ! 次期国王だぞ!! だなんて叫んでますよ。だもんで、一応レノーイに書状は送りますけど……まあ、黙殺されるでしょうね」
「認めたら最後、フェーネンダールへの宣戦布告と取られても仕方がないから当然か」
「いやあどうでしょうね? うちみたいなのんびり農耕国家、レノーイからすればたいした脅威じゃないでしょう。むしろ相手にしたくないのはそちらの方ですよ」
「真に相手をしたくないのは我が国……の、後ろにいるリフテンベルフだろう?」
「大国相手にずっといい勝負続けてきたイーデンだって、向こうにしてみれば充分相手にしたくないでしょうよ」
話を聞きながらセレスは懸命に世界の情勢を思い出す。
レノーイとは、何かと周辺国家との小競り合いが絶えない軍事国家だ。そしてそのレノーイと肩を並べる強さを誇る大国リフテンベルフと、長年敵対国であったイーデン。この二国は最近和平を結び、その一つとしてリフテンベルフの王と、イーデンの幼い姫が婚姻関係となった。レノーイはどちらの国とも目立って敵対はしていなかったが、山間部の小国とは言え、大国相手に大敗した事の無いイーデンが結び着くのは面白くないはずだ。
自国であるフェーネンダールとレノーイも敵対こそしていないが友好国でもない。イーデンはそんなフェーネンダールとも姻戚となった。つまりはイーデンを介してフェーネンダールとリフテンベルフも繋がりを持った様なものだ。実際、今日のパーティーにはリフテンベルフからの来賓も多く参加していた。
「……レノーイにとって、アンネ様とカイ様のご結婚はとんでもなく邪……よろしくないってことですか?」
「邪魔って事です」
頑張って言い繕ったのにシークに蒸し返される。セレスは眉間に皺を寄せて睨み付けるが、効果の程は悲しいほどに無い。
「それで、アンネ様が狙われた……ん、です、よね?」
語尾が弱くなったのは、アンネは元よりカイまでも何とも言えない視線をセレスに向けてくるからだ。
「当然アンネ様も標的の一つではありましたよ」
シークに至っては、苦笑の中にもいつものセレスをからかって遊んでいる時と似た色を混ぜ、あげくとてつもなく気になる言い方をしてセレスの気持ちを大きく揺さぶる。
アンネ「も」とわざとらしく強調までされればセレスだって気付かざるをえない。先程からの違和感の正体はこれであったのかとさえなる。
「……わたしが、本当の狙いだったんですか……!?」
ぎゅ、とアンネがさらにセレスを抱き締める。沈痛な面持ちでカイは一つ頷き、シークはパチパチと軽く手を叩きながら「ご明察」と口角を上げる。
「え……えええええええ」
そんな三者三様の態度にセレスは本日何度目になるか分からない間の抜けた声を漏らしすしかない。自分でそう答えはしたが、自分が狙われる理由がセレスにはさっぱり分からないのだから当然だ。
「なんで!? わたし、心当たりなんてこれっぽっちもありませんよ!?」
「あれだけポンポン言い返すし煽り散らせば怒りも買うってもんでしょ」
「あれは売り言葉に買い言葉って言うか! 先に喧嘩売ってきたのは向こうだし!」
セレスだってあんなに反論する気は無かったし、煽るつもりも無かった。だが、セレスの地雷を踏み抜いた上に、その場で花火でもして遊ぶかの様に話を続けられたのだから治まる気持ちも治まらない。
「人のこと勝手に不憫な子扱いするし! 教会のこと悪く言うし! あなたのことだってまるでものすごい悪人みたいに言おうとするし! 悪いの性格だけなのに!!」
「最後のが余計ですね聖女サマ。それが無ければ俺としてはときめくしか無いんですが」
「別にあなたにときめいて欲しいわけじゃないです! 事実を言っているだけです」
「……無自覚こえーなーほんと」
「なにがですか!?」
なんだか周囲の視線が生温い。セレスは少しばかり居心地の悪さを感じてしまうが、突っ込んだら余計に酷くなりそうな気もするのでひとまず流す事にする。
「まあ聖女サマがキレる気持ちも分かりますけどね。頭は悪いくせに他人を不愉快にさせる才能は高かった」
「あなたが不愉快になる様なことってありました?」
「ありましたよ。俺の聖女サマに随分と好き勝手言ってたじゃないですかあの男。後々の事さえ無ければあの場で首跳ねてましたよ」
「だからこわいんですってば!!」
言葉の一部に猛烈に反応しかけたが、それこそそこに突っ込んだら最後どうなるか。からかわれるのはまっぴらごめんだ。そもそも「俺の」だなんて独占欲にも程がある言い方をされてちょっとときめいたというか、心臓がピョコっと跳ねたのが悔しすぎてセレスはいつもの突っ込みで誤魔化す。実際言葉尻が物騒なのだから怖いのは事実だ。
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