第1話 学食で昼食を ~ リハーサル前に

 十月の終わり、そろそろ十一月になろうとしていた。大学の教室を稽古場として使っている。普段の練習に来ている部員は一年生から四年生まで三十人程度。

 今回の十二月の舞台に出演する部員は三年生が主体となり一年生から四年生まで二五人の予定である。

 そして舞台に係わる部員は道具班十二人、衣装班十六人、舞台運営スタッフ八人のスタッフ総勢三六人。舞台出演者、スタッフ合わせて六一人。これにプロのスタッフとして演出家の宮原一美みやはらかずみ、舞台照明は青野舞台照明の青野陽介とスタッフが五名程、音響は新東京サウンドウエーブの竹内壮一たけうちそういちとスタッフは二名程と十名程度のプロのスタッフに来てもらうことになる。これだけでもキャストとスタッフで百人近い人が携わることになる。

「舞台はみんなで創るもの」などと言ってはいるが、やはり、客から見れば、主役が舞台を引っ張っていくように見えるのは明らかである。だから『舞台で主役を張る』ということは舞台に係わるキャスト、スタッフ、そして観に来てくれる客……すべての人に納得してもらえるスターでなければならない『この人のために、この役をしている』『この人のために裏方をしている』と係わる人すべてに納得してもらえる役者でなければならないという暗黙の了解のようなものがある。


 今回の舞台は三部構成である。それぞれ一部、二部、三部の場面の途中で止めることなく、三部すべてを通してのリハーサルとなる。

 本番の舞台では二部と三部の間に十五分程度の休憩時間を入れて舞台全体の上演時間は約二時間くらいになる予定だ。

 今日は稽古場を当日の舞台と同じ状況に想定してのリハーサルとなる。衣装も道具も本番通りのものを使って通すリハーサルである。

道具スタッフは富山洋一とみやまよういちをはじめ全員揃っている。衣装スタッフも三上多香子みかみたかこをはじめ全員がスタンバイしている。舞台監督の市原誠いちはらまことも運営スタッフに指示を出して役者の動きのチェックやタイムキーパーにチェック箇所の確認を取る。

 スタッフは皆、台本にメモを取りながら本番に備えられるよう入念な準備をしている。


 リハーサルは午後二時から始まる予定だ。恵人けいとは午前中の早い時間から来ていた。慈代やすよと行動を共にすることが多い恵人は三年生と同じ行動になることが多い。三年生は主要なキャストを演じるため、他の学年が集まる前にミーティングをすることが多い。キャストだけでのミーティングもあるが舞台が近づいてきたこの頃は、いつもスタッフ、キャスト全員でミーティングをしている。場所は教室や学食や日によって場所は様々だ、今日は学食の一角でミーティングをしていた。

そんなわけで恵人も学食の近くの席で飲み物を飲みながら時間をつぶす。そうしているうちにミーティングも終わったようで、恵人のところに慈代やすよがやってきた。

「お昼ごはん食べた?」

「まだ食べてない」

「え? もしかして私たちに気を遣って食べてなかったの?」

「そういうことでもないけど」

「そう、一緒に食べよ。今日は結構、長丁場になるよ。リハーサル全部通して、その後、ダメ出しっていう流れになるから。この前の劇団の稽古場みたいにはいかないと思うの……」

 慈代と恵人は一緒に昼食を食べた。隣で晴美はるみうらら清田きよた桐原きりはらたちも食事をしていた。

 雅也は道具班の富山洋一とみやまよういちや衣装班の三上多香子みかみたかこ、舞台監督の市原誠いちはらまことと食事をしている。雅也は気さくというか、いろいろな人に気を遣いながら行動しているのがわかる。後輩の恵人から見ても本当に見習うところが多いと感心させられる。


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