オバケのお菓子

オバケのお菓子について

クマなのに、猫のお店の支店長代理について。

「猫のお菓子屋さん支店長代理 ʕ•ᴥ•ʔウルスス・マリティムス」


 一度聞いただけでは覚えられない舌を噛みそうな名前は他でもない、ひらがなのくまぱんちゃんの本名です。

 支店長のミケちゃんが書いてくれた似顔絵付きの名札を見ながら、くまぱんちゃんはハァ〜と溜め息をきました。



 ミケちゃんに丸め込まれて、わけもわからないまま支店長代理になって、はや一ヶ月。

 当初の約束ではミケちゃんがお寝坊した日の単なる代理だったのに、いざふたを開けてみると、ミケちゃんが寝坊した日もしない日も何やかやで毎日出勤しています。もっとも以前からほぼ毎日お店には遊びに来ていたので、同じといえば同じなんですけれどね。

 お客さんたちも猫のお菓子屋さんなのに、クマが支店長代理をしていても何の疑問も抱きません。


 

「支店長代理! 支店長代理!」

「ほら、来た」


 くまぱんちゃんは、また溜め息をきました。ミケちゃんがくまぱんちゃんのことを「支店長代理」というときは、多事多端の前触れ。ただでさえ、こきつかわれているのに、それが更に忙しくなるのです。


「あのね、あのね」

「おかえり、支店長。はい、お水」


 息急き切ってお店に戻って来たミケちゃんに、くまぱんちゃんはお水を差し出しました。


「ありがとう、支店長代理。それでね、それでね。オバケが、オバケが」

「オバケ?」

「そう、オバケが出たの」

「どこに?」

「猫のお菓子屋さん!」


 くまぱんちゃんも、そのことは知っていました。お客さんたちの間で、もっぱらの評判です。


「ああ、それね」

「あら」


 くまぱんちゃんがあっさりうなずくと、ミケちゃんはガッカリした様子です。


「怖がりのくまぱんちゃんなら、オバケが出たって言えば、すごく驚いて怖がると思ったのに」 

「おあいにくさま。猫のお菓子屋さんの本店で、お化けのお菓子特集をやっているのは、とっくに知っているよ」

「やだ、なんで? さっき、あたし、お客さんに聞いたばかりなのに」


 それでミケちゃん、さっそく本店に偵察—— もとい、視察に行って来たのです。


「寝坊助の支店長と違って、ぼくは毎日、出勤していますからね。お客さんの話なんて、たちまち耳に入りますよ」


 寝坊助と言われて、ミケちゃんはちょっとムッとしました。が、今は言い返している場合ではありません。寝坊助なのは何といっても真実ですし、弁解の余地はありません。それより、支店長としては、一刻でも早く対策を練らなければなりません。

 これから夏本番、オバケ本番の季節です。商売上手の三毛猫なのを見込まれて支店長に抜擢されたミケちゃんとしては、すでに行列の絶えない本店の「オバケのお菓子」に負けてはいられないのです。早急に、支店でも「オバケ」のキーワードを取り入れ、本店以上に話題にならなければなりません。


「支店長代理! これから、この夏のオバケ対策の緊急会議よ!」


 鼻息荒いミケちゃんに、「どれだけ、こきつかわれるんだろうな」と、くまぱんちゃんはまたまた大きな溜め息をくのでありました。




※猫のお菓子屋さん本店のオバケのお菓子特集

https://kakuyomu.jp/works/16816452220652521266/episodes/16818093075789539873

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