第170話 男は希少な異世界の未開地に転移したら神になった

「いい加減、諦めろよ。なんなら、お前ら二人だけでもそいつの世界に送ってやるぞ?」


「馬鹿にしないでください。自分たちだけが幸せなら、それでいいなんて言うつもりはありません」


 そうだ。ソラがそんな子じゃないなんて、とっくに知っている。

 この子は自分を犠牲にしてでも、禁域の森を平和な森へと変えた子だぞ。

 そして、いまだって二度と神獣に戻れないと知りながらも、神様へとなったんだ。


 それでも、ダートルに神の力が劣っているせいで、勝ち目はほとんどない。

 結局は神格ってやつのせいだろ。それなら俺にも、一つだけ思い当たることがある。


 カーマルは、ダートルとの会話でわずかながらに神格を取り戻したと言っていた。

 そんなカーマルは、神の力がないはずの先生たちに倒された。


 そして、散り際に言っていた、信仰を集めていたのかという言葉……

 あのときは、イーシュ様の女神としての力への悪態かと思っていたのだが、きっとそうじゃない。

 もしかして――俺自身への信仰で、神の力に対抗できたんじゃないだろうか?


 それなら、色々と腑に落ちる。


 魔武器を直すときにいつもの気持ち悪さはなかった。きっと、魔力じゃなくて神力を排出していたからだ。

 俺が直した武器を再び魔武器にしようとしたが、カーマルは失敗していた。信仰の力だけなら、俺の方が上回っていたからじゃないか?

 先生たちの攻撃がカーマルに有効だったのも、俺への信仰の力が、それぞれの武器に宿ったからじゃないか?


 多分、とても傲慢かつ、素っ頓狂な考えを思いついている。

 ――俺も、神様になれないかな?


 そうすれば……ダートルに通用する武器を、ソラに与えることができるかもしれない。

 だけど、イーシュ様はすでに話さえできない状態だ。

 神になるなんて無茶苦茶なこと本当にできるかわからない。方法さえもわからない。

 誰かに聞くことさえできれば……


 いるじゃないか。いや、いるかはわからないが、もうそれしかない。


「女神様! イーシュ様の姉様たち! 俺を神様にできませんか!?」


 俺の突然の叫びに、ソラとダートルは驚いた顔でこちらを見た。


「な……に、言ってんだお前は! 人間ごときが、身の程をわきまえろ!」


 身の程知らずの人間の妄言に、男神は初めて怒りをみせる。

 でも、知っているぞ。それは俺への怒りじゃなくて、焦りだろ?


 だって、お前言っていたじゃないか。望むなら、俺を神にしてやるって。

 つまり、俺はもう神様になれる資格があるってことじゃないのか?

 今になって、俺が神になるのを止めようとしているのは、そうなったらお前にとって都合が悪いってことじゃないのか?


 ダートルは、薄々ながら俺が神の力もどきを使ったことに気がついていたんだろう。きっと、カーマルを倒した時点でな。


「どけっ! 犬っころ!」


 これまでと違い、余裕のない表情で俺を止めようとするダートルだったが、果敢に襲いかかるソラがそれを止める。


「アキト……様! 女神様たちの、神託を……つなげます!」


 急に聞こえたその声は、女神様たちの声ではなかった。

 それは何度も聞いてきた声であり、俺の愛しい人の一人に声だ。傷つき倒れていたはずのアリシアの声だ。


「ありがとうアリシア!」


 アリシアは、再び気を失いそうな体を無理やり動かし、女神様たちと俺が会話をできるようにつなげてくれた。


『妹がご迷惑をおかけして申し訳ございません! ですが、今は時間がないため、謝罪はすべてが終わってから改めてとさせてください!』


「わかっています! ダートルを倒すために、俺が神の力を使えるようにできますか!?」


『何柱もの神を復活させるほどの信仰……それを集めたあなたは、すでにその資格は十分にあります。ですが、もう人間に戻れなくなりますよ?』


「……大丈夫、です。方法を教えてください!」


 大丈夫、ソラだってそれを承知で神へと至った。

 なら、俺が人間に戻れない程度、なんだというんだ!

 ソラと二人で夫婦神にでもなんでもなって、世界を守ってやろうじゃないか!


『残念ながら、私たちは復活前で直接の力にはなれません。ですが、あなたに集まる信仰の力を使い、神へ昇華する手伝いくらいならできます!』


「お願いします!」


 体の中が温かい力で満ちていくのがわかる。

 やっぱりな。カーマルの神力が体内を通ったときと同じだ。

 これが、神力だったんだな……


『イーシュがあなたを騙したことにより、男神たちは復活しました。すべては、あの子を止められなかった私たちの責任です』


 ああ、そうか。アリシアに神託をした女神様が彼女を止めてくださいって言ってたのは、イーシュ様を止めないと、男神たちが復活することへの警告だったのか。


『男神アキト。どうか……この世界を守ってください』


「任されました!」


 なにも変わらない。見た目も心の中もいつもの俺と同じままだ。

 一つだけ違うのは、ダートルやソラの周囲に、力の流れのような物が見えるようになったこと。

 多分これが神力ってやつだな。


「この糞犬が……」


 ダートルが鎖を創造し、まるで投網のようにソラへと投げた。

 後方へと跳躍しようとするソラだったが、それを読んでいたのか、後方からも挟み撃ちをするように大量の鎖がソラへと向かう。


「趣味の悪い鎖をつけようとするなよ。ソラは俺のものだ」


「ご主人様……」


 やってみれば簡単なことだ。

 カーマルのときのように、神の力を俺を通して外に出す。

 魔力のときは、俺に魔力がないから体内を通して排出することができたが、神力はちょっと勝手が違う。

 俺の中に溢れる大量の神力を使って、体内に侵入したダートルの神力を抑えつけて外に出す必要があるようだ。


「これができるってことは、やっぱり俺の方がお前より神格が上ってことだろ? ダートル」


「調子に乗るなよ! このハーレム野郎が!」


「うらやましいかよ、神様! みんな、俺のことを許してくれるだろうし、平等に愛するつもりだよ!」


 ダートルがそこら中に様々な武器を、道具を、創造する。

 所狭しと現れたそれらは、きっとどれも見た目どおりの道具ではなく、何か特殊な力があるのだろう。

 それらが一斉にめちゃくちゃに動き出して、空間内を埋め尽くす。

 俺だけではない。ソラもアリシアもシルビアもルピナスも、全員を一斉に襲いだした。


「お前は無事かもしれねえけどな。お前の女どもは、そこの犬以外これで終わりだ!」


 大丈夫。初めてやってみるけど、いつもそれを近くで見てきたじゃないか。

 手のひらをかざして、体内を巡る力を込めて、見えない盾のようなものをイメージして、それを作るだけだ。


「ふざけんなっ! そんな、でたらめで無駄ばかりな、力任せの方法で!」


 神力とかいうものがたくさんあってよかった……

 多分、俺のやり方は非常に燃費の悪い、神力を無駄遣いしているようなやり方なんだろう。


「でも、防げた」


「あ……アリシアバリア3号です! いえ、アキト様バリア1号でしょうか!? 見ましたか、シルビアさん! ルピナスさん! アキト様が私たちを守ってくれたんですよ!」


 なんか、後ろが騒がしい……

 さっき倒れたでしょ、君は。でも、よかった。

 きっと、なけなしの力を使って、アリシアは自身とシルビアとルピナスを回復したんだろう。

 怪我はなくなったが、三人とも疲れ果てて動けはしないという状況のようだ。


「ソラ、アリシア、シルビア、ルピナス、ありがとう。いつも守ってくれて……でも、今回くらいは俺がみんなのことを守るよ」


 俺のせいで復活した神様なんだから、俺自身が決着をつけないとな。

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