第96話 〝ま〟ぬけの剣の可能性

「まあ、最初はそんなもんだ」


「はい、すみません……」


 精霊たちの力が込められた指輪も、一人で作れるようになった。

 そんなある日、ついに剣を作るのを手伝わせてくれると先生が言ってくれた。

 俺は二つ返事で、剣を作る作業に入ったのだが……甘く見ていた。


 めちゃくちゃ大変だった。

 熱で柔らかくした金属同士をくっつけるも、力の入れ方が悪いのか失敗する。

 変に叩いてしまったのか、金属がもはや取り返しがつかないように変形する。

 なんだこれ、ちゃんとした形を作ることさえ難しすぎる。

 最後に整形をしたが、それでさえ指輪のときのようにうまくいかなかった。


「でも、みんなのおかげで、これでもかなり楽なはずなんだよな」


 常に熱にさらされているのに、ヒナタのおかげで熱さは感じなかった。

 熱をヒナタが制御しているので、火の勢いはフウカが制御してくれている。

 重いハンマーで何度も叩いているのに、チサトのおかげで、疲れはほとんどない。


「お前は本当に、精霊様たちに好かれているからなあ」


「だからこそ、もっとまともな結果を残したいんですけどね」


「焦るな。少しずつ進めばいい」


 さすがに、これは一人でなんとかできる問題でもない。

 しばらくは、先生と一緒に作業しる必要がありそうだな。


「息抜きに、これの魔力ちょっと減らしてくれねえか」


「あ~はい。それくらいなら簡単に」


 なんでも、使用者が長年使っているため、許容量を超えた魔力が蓄積された剣らしい。

 そういう剣は、暴発の危険性から廃棄するのが普通なのだが、俺はいつもの要領で魔力を外に流せる。


「相変わらず、とんでもないことをあっさりとやってのける。う~ん、やっぱりうちの店に欲しいな」


 先生に褒められるのは嬉しいが、さすがにこの森を出るつもりはない。

 外が危険だからというよりは、俺もこの森での生活が気に入っているようだ。


「わかってますって、あんたの旦那はとらねえよ。神狼様」


 ソラが俺と先生の間に座ったので、先生はソラにそう断った。

 先生は勘違いしてるようだけど、多分相手にしてほしくて、俺の近くにきただけだぞ。


「ところで、そんな優秀な弟子に一つ頼みがあるんだが」


「そんなお世辞を言わなくても、先生の頼みなら聞きますよ」


「世辞ってわけじゃねえんだけどな……お前、自己評価が低くねえか?」


 そうは言っても、周りの人たちと違って、そこまで秀でた能力ないからね俺。

 低いというよりは、正当な評価だと思う。


「まあ、その辺は普段お前の周りにいる人たちが、なんとかするとして、お前ならこれなんとかできねえか?」


 先生がそう言って取り出したのは、なんかマーブル状に黒と紫と赤と緑が混ざった変な刀身の剣だった。

 毒々しいというか、禍々しいというか、なんか呪いの装備って感じがする剣だ。


「それ、さわっても平気なやつなんですか?」


「私が今さわってるだろ。平気なやつだよ」


 先生は、気楽な様子で俺に剣を渡した。

 ……なんか、さわってるだけで気持ち悪いんだけど、この剣。

 平気とはなんだったのか。


「おう、さっそく魔力が抑えられていってるな」


「なんですか? この剣は」


「魔剣だ」


 魔剣? 魔法の剣なら、さっきみたいに先生からお願いされて、魔力を抜いてる。

 じゃあ、これもさっきの剣の仲間ってことか?


「魔剣は、魔力を吸いすぎて、もはや本来の機能を使えなくなった剣じゃ」


「おう、さすがは竜の王様だな。宝剣の類には詳しいみたいだ」


「宝なの、これ? こんなにやばそうな見た目なのに?」


 なんか、頼まれたわけでもないのに、勝手に魔力を外に流していってしまっている。

 それほどまでに、魔力がぱんぱんに溜め込まれていたんだろう。

 あれ……なんか、見た目が綺麗になっていってないか、これ?


「さすがは私の弟子だ。こんなことできるの、世界にお前しかいねえよ」


「これは……すごいのう。魔剣化の解除までできるのか、主様は」


 驚かれているけど、いまいちすごさがわからない。


「魔力のせいで使えなくなってたすごい剣を、俺が使えるようにしたってことでいいの?」


「まあ、そんなところだ」


 メンテナンス専門の技師にでもなったほうがいいのだろうか。

 しかし、見た目からまるっきり変わるもんなんだな。

 毒々しい色は、透明で綺麗な刀身に変わっていた。


「じゃあ、これが報酬だ」


「多くないですか?」


 なんか、見るからにたくさん入ってそうな、革袋をいくつも渡される。

 中にはぎっしりと金貨が……

 どうせ、この森から出ないから、俺は金をもらっても使い道ないし、無理に報酬を払わないでいいんだけど。


「多くねえよ。魔剣を直せるなんて、お前にしかできないことだ。使い道がなくても受け取っておけ」


「それじゃあ、ありがたくもらいますけど」


 作業内容に比べて、もらえる金額が多すぎると、ためらってしまうのも仕方がない。

 先生から拒否は許さないという態度が伝わってきたので、俺は大人しく報酬を受け取ることにした。


「私は一旦国に帰って、この剣を女王様に渡してくる。お前は精霊様たちと鍛冶の練習をしとけ」


「はい……えっ、女王様の物だったんですか、それ?」


「女王様のっていうか、国の宝だな。それを直したお前の功績はとんでもないもんだぞ? 女王様が会いたがるんじゃねえかな」


「えっと……そっちの国にはさすがに」


「わかってるよ。うまいこと言っとくし、お前の生活の邪魔はさせねえよ」


 先生は苦笑いしながら帰っていった。

 剣作りに失敗したから、俺にできることがあるって元気づけてくれたんだろか?


「もうちょっとがんばってみるか、フウカ、ヒナタ、チサト、よろしくね」


 精霊のみんなは、嫌な顔一つせずに協力をしてくれた。

 結果は、まあ……素人だしな。これからに期待だ。


    ◇


「これまで、どんな職人でもできなかった悲願が、そんなあっさりとだと?」


「ああ、本人は大したことしてないって、言ってたけどな」


「いやいや、おかしいだろ。お前の弟子なんだろ? ちゃんと常識教えてやれよ」


「あれは筋金入りだからなあ。多分教えたところで、低い自己評価は変わらねえぞ」


 いっそのことこの場に連れてきて、女王の驚いた顔を見せてやりたかった。

 そうでもしないと、あいつは私の言葉さえ信用しねえからな。


「はあ……まあいいが、そいつのこと隠しておいた方がよさそうじゃねえか?」


 それは私もそう思う。

 だが、女王よ手遅れだ。


「ツェルールで噂になってるぜ。私の弟子は」


「ああ、例の……そいつかよ……」


「だから、こんなとんでもないことをしでかしたとなると、その男のしわざじゃないかと考えるやつも出るだろうな」


「もういい……その男をちゃんと守れよ、ノーラ」


「私が守らなくても、あそこは世界一安全な場所だよ」


「おかしいな話だ。安全とは真逆の場所のはずなんだけどな、禁域の森は……」


 それはそうだ。

 私だって、アキトに会うまでは、生きた心地しなかったからな。

 本当に、よくわかんねえ弟子だな。あいつは。

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