第49話 魔力暴走のトラブルお任せください
あれからフウカも落ち着いて暴走することはなくなった。
なんとなく、一緒に暮らすことになるかと思ってたけど、そこは自然の一部である精霊らしく、一つの場所にとどまったりはしないらしい。
世界中に出現できるので、今もどこかで元気にやっていることだろう。
今までと同じく、たまにこの森に現れてルピナスと遊んでいる姿を見ることもある。
「あれだけ良い子なのに、魔力が暴走するとあんな風に暴れてしまうんだな」
魔力の暴走とは恐ろしいものだ。
「体内の魔力をなんとか消費しようと強大な魔法を使おうとするからの。あの精霊の場合じゃと、それが破壊を伴う魔法となってしまったようじゃ」
「それなら、フウカが暴走したから、たまたま危険な存在になったってこと?」
例えば、いくら規模が大きくなろうと他者に害のない魔法とかなら、暴走しても問題ないのかもしれないな。
「たまたまというか、ほぼすべての者が暴走したら危険になるぞ? 結界と回復が得意なアリシアの後任でさえ、暴走したら周囲の生物を過剰に回復させて肉体が奇形になったり、そこら中に強固な結界を張って侵入不能になったりと、害がないとは言い切れんからのう」
「それはこわいな。やっぱり、暴走なんてしないに越したことはないか」
「うむ、それに暴走中は本能のままに行動するからのう。強力な力を持った理性の無い生き物なんぞ、危険に決まっておる」
ふと思ったのだが、そんなに危険だというのなら俺が治せばいいんじゃないか?
「魔力の暴走で困ってる人ってどれくらいいるのかな?」
「ふむ……それなりには多いと思うぞ? 精霊のように完全に理性がなくなるほどではないが、暴走寸前でとどまっている者であれば、それこそこの森にもけっこうな数がおるはずじゃ」
「フウカのときみたいに、俺がなんとかするっていうのはどうだろう」
シルビアだけでなく、ソラとアリシアも少し考えこむそぶりを見せた。
いい考えだと思ったんだが、そう簡単にはいかないのかな。
「できるかどうかで言うと、できると思います。あれだけ危険な状態だったフウカさんを元に戻せたんですから」
たしかにフウカは俺から見ても危ない状態だったからなあ。
普通はあそこまで暴走するってことはないようだ。
「ですが、治療するということは、あれほどではなくとも暴走状態の者に触れなくてはいけないのですよ? アキト様が進んで危険な目に遭うというのは……」
「そのときはソラとシルビアが守ってくれるし、怪我したらアリシアが治してくれるでしょ?」
この世界にきてから特に役に立てていなかったけど、せっかく俺にできることができたのだから、可能なら苦しむ人のために何かをしたい。
俺のわがままでしかないのだけど、みんなは仕方がなさそうに最後は承諾してくれた。
「まあ、主様が面倒ごと首を突っ込むのはいまさらじゃしな」
俺、そんな風に思われていたのか。
不服そうな顔が伝わったのか、シルビアは言葉を続けた。
「普通のオスはメスの世話になって、自分でなにかをしようなどとは滅多に考えんぞ?」
ライオンみたいだな。いや、これはライオンに失礼か。
希少だからとちやほやされた結果、男は女に甲斐甲斐しく世話されて当然の世界なのか。
「まあ、主様が望むのであればやってみるといい。妾たちはいつでも力になろう」
「そっか、ありがとうみんな。悪いけどしばらく俺のわがままにつきあってくれ」
特に嫌がることもなく、皆俺に協力をしてくれることとなった。
結局頼りっきりになるのは悪いけど、厚意に甘えさせてもらうとしよう。
「つきあうだなんて……つまり、私とアキト様が夢にまで見た男女の関係に……」
アリシアだけは本当にわかってくれたのか怪しいが、まあ大丈夫だろう。
……この妄想というか暴走も俺がなんとか止められないだろうか。
「うひゃあっ!!」
手を握ってみたけど、例の気持ち悪い感覚はこちらに流れてこなかった。だめみたいだな。
「ど、どうしたんですか? ついに私に触りたくなったんですか? で、ではどうぞ!」
だから両手を広げて俺を迎え入れようとするのはやめてね。いい加減、本当に抱きつくぞ。
妥協案として、頭をなでると気持ちよさそうにしたので、これでよし。
「妾、たまにアリシアがずるいと思う」
アリシアをなでていると、ソラを抱きしめながらなでることになって、あとはいつものようにソラを堪能するだけとなった。
「そういえば、魔力が暴走してそうな者に心当たりがあるぞ」
その様子を眺めていたシルビアが、ふとそんなことを思い出したかのように言った。
「ほら、あの勇者の小娘を倒してたオーガたちがおったじゃろ」
ああ、あのときソフィアちゃんに集団で勝利していたオーガたちか。
「あやつら、ほぼ戦闘欲求しかなくなっておったし、元来オーガという種族が成長するにつれて本能に逆らわなくなるから魔力の暴走を引き起こしやすいはずなんじゃ」
じゃあ、この森にいるオーガたちもすでに暴走状態にあるかもしれないのか。
しかし、フウカのときと違って種族単位で行動していて、それらのほとんどが暴走状態とか危険そうだな。
「ちなみに、オーガたちと戦いになったら、シルビアやソラなら勝てる?」
「当然じゃ。あんな小娘どもに負けるほど妾は弱くないし、神狼様に勝てる者など主様以外は知らぬ」
俺の場合、戦闘力とかじゃなくてソラが懐いてるってだけで、勝つというのはまた違う気がするが、それはいいか。
「それなら、一度オーガたちの様子を見に行きたいな。ソラ、シルビア、ついてきてくれる?」
「うむ。主様に手を出そうとしたときは、返り討ちにしてくれよう。安心するが良い」
ソラもシルビアも特に異論はないらしく、俺たちはオーガの集団を探しに森の中を散策することにした。
◇
「アリシア大丈夫かな」
ソラといっしょになでていたせいか、ついいつもソラにするように俺のもてるすべての技術を使ってアリシアを本気でなでてしまった。
そうしたら、なんかとろけたようになって返事すら返ってこなくなったので、仕方がなくアリシアには留守番してもらっている。
ルピナスがアリシアのことを見てくれるようだけど、あれはどれくらいで回復するんだろうか。
「むしろ、あれほど執拗になでられ続けても平然としておる、神狼様がおかしいと思うぞ」
ソラだもんなあ。もう俺になでられることにもすっかり慣れていてもおかしくない。
思えば、最初のころはソラも気持ちよさそうに脱力してた気がする。
……もしかして、俺のなでる技術では満足できなくなってきているのでは? まずい、新しい技術を習得しないと、このままではソラに飽きられてしまう。
「ソラ、俺に飽きないでくれ」
前を歩いていたソラを抱きしめると、ソラは俺の頬を舐めてくれた。
よかった。まだ俺はソラの飼い主のままでいられるようだ。
「ま~た、いちゃついておる……」
そう呆れないでくれシルビア。俺にとってはかなり重要な問題なんだ。
「そこの人間! 私と戦え!」
後ろから急に声をかけられる。
振り向くとそこには、いつか見たときと同じく赤い肌をしていて頭に角が生えた少女がいた。
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