12 夕食

 はじめて会ったディーのお祖母さんはディーのお母さんのお母さんで、ぼくがいうのもヘンだが、聡明そうで、かつ一癖ありそうだ。

 もっともそのときの食事の席では、終始ニコニコしていて、特に口数が多いということはない。

 出された食膳は、家族に高齢者がいるせいか、みなあっさりした味付けで、素材の味がほど良く引き出されている。メインは肉ではなく焼き魚――おそらくワラサ(サワラの間違いじゃないよ!)――で、シソの葉を敷いた皿の上に盛り付けられている。ホウレン草とみじん切りしたニンジンと舞茸の炒め物は、訊いてみると、油を使わず、たまたま食材売り場にあった手羽先用の鶏肉の脂身だけで炒めたものだとわかる。お味噌汁の具はシジミで、味噌自体はやはり薄めだったが、香りが立っている。他には、小鉢に里芋の煮つけがあり、これがきんぴらゴボウと和えられている。後は、五石くらいが混ぜ合わせれた、玄米に近いご飯。

「これだけじゃ、あなたには足りなかったかもしれないわね?」

 とディーの母親が尋ねるので、

「いえ、充分です!」

 と、ぼくが答える。

 実際、ゆっくりと食したこともあって、出された量だけでお腹は満足だ。

 食後のデザート――っていうか、お茶請けになるのか?――は、丸く抜いた豆腐をチキンコンソメか鶏がらスープの元と醤油で薄く味付けした寒天の中に入れたお菓子のようなモノ。これを細く刻んだ茗荷でいただく。際立った味はしないが、さっぱり感が引き立つ一品だ。

 こうして並べてみると、いずれも、ものすごく手間をかけた料理ではないけれども、食感に対するセンスの良さが発揮されていると納得できる。この人の書く脚本ならば読んでみたいかも、と思わせるような……。

 食後しばらくディーの家族と会話していて、気づいたことがある。この家の人たちは、たとえば、ぼくに関する話題で、父親のこととか、母親のこととか、兄弟姉妹はいるのか/いないのか、といった情報に、ほとんど関心を示さない、そんな種類の人たちであるとわかったのだ。多くの人たちの中には、いわゆる低級なゴシップや、その人本人とは直接関係がない、知らなくても特に会話に支障が生じない情報を、主にその場の勢いでしつこいくらいに尋ねてくる者がいる。隠しているわけではないので、尋ねられれば答えるが、そういった感じの質問は、個人的には、あまり好きではない。『そんなこと、いまの自分に関係ないじゃん』とか、そういった気分にさせられる、といえば気持ちが伝わるだろうか?

 その点、ディーの家族は、お節介じゃないというか、他人の領域に土足で足を踏み込まないというのか、その辺りを良くわきまえている人たちなんだな、と強くぼくに思わせる。そしてそれがわかってからは、気分的に本当の意味でリラックスできて、ついで嬉しくてかつ晴れやかな気分になることができたんだ。

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