第14話 武田信玄
「我が当主、武田信玄公を天女様に診て頂きたいのです わしの見たてですと
この冬(今は12月)を乗り切るのも厳しいかと。。。もし信玄公が死ねば
この国は一層の混乱に包まれることとなります 何卒」
さらに頭を下げる 徳本
「天女? 私がですか? まぁ ある意味では天から降ってきたようなものですが 杖も頂いていますし
良いですよ 参りましょう」
「おぉ ありがとうございます では早速 隣の陣幕へ」
「晴信殿(武田信玄)、天女様をお連れしました」
真田幸隆と軍議中の2人の間に割って入る 徳本
「?? 何を申しておる 徳本先生 確かに天女の如き 美しきおなごであるが」
天女と呼ばれた女性に目を向ける 真田の当主であり 信玄の軍師である 幸隆
「天女様、こちらが我らが当主 甲斐の守護大名 武田信玄公でございます」
病に侵されているに関わらず 異様なまでの威圧感を持った人物を紹介される
「晴信殿、こちらの天女様と縁を結べたことに比べましたら この戦の勝利など些事に等しき事
ちなみにこの戦の負傷者は、すべて天女様が治療してくださいました 皆 すぐにでも戦働きが出来るほどに回復しております」
「爺 杖はどうした? 腰も伸びておるの?」信玄の鋭い視線を受ける
「わしも治していただきました 20歳も若返ったようです この通り」その場で軽く跳ねてみる
「失礼しますね」警戒心を抱かせない声音で
「肺を患っているようですね 苦しかったでしょう」慈愛に満ちた目で、信玄を見つめるエヴァ
座っている信玄に近づき その肩に手を置く ここ数年 常に険しかった信玄の表情が和らいでいる事に
この場に居たすべての者が、安堵し そして顔を綻ばせる
胸の前に杖を浮かせ「【命の鼓動よ 巡れ この者に命の息吹を】」 2人を暖かい光の珠が包む
徳本も珍念もへたり込んで、その光景を見つめる その他のものは皆 瞬きもせずに見つめている
数分が経過する 傷は瞬時に癒せるが 病は時間を要する
「あなた 凄い精神力の持ち主ですね 生きていたのが不思議なくらい蝕まれていました」
信玄の目を覗き込み、治療が終わった事を告げる
「まだ死ぬわけにはいかなかった。。。。ものでな。。。」言葉が途切れ、信玄の目から大粒の涙が溢れ落ちる
立ち上がり 己の身体を見下ろし 両の掌を握り開く また握り開く
「苦しくない? 身体が動く!? 治ったのか!?」陣幕内にかっての太く重い信玄の声が響く
「おぉぉぉ〜」「お お館様!!」 「奇跡だ!!」声を震わせ咽び泣くもの 動くこともできずに惚けるもの
「先ほどは、失礼を致しました 我が主を救って頂きましたこと深く感謝致します」
真田幸隆が深く頭を下げる 両の眼が赤く腫れている
「天女殿 そなたに受けたこの恩義、何で返せばよいだろう?」真剣な面持ちで聞いてくる信玄
「お腹が空きました」頬を赤らめるエヴァ 「「「「はっ??」」」」声を合わせる一同
「ですから、お腹が空いたのですが。。。」朝から何も口にしていないことを思い出す。
「ありったけの味噌と麺を用意せよ 大鍋でほうとうじゃ!」
これほど満ち足りた戦場が過去にあっただろうか 誰もが笑顔で食事の支度に取り掛かっている
徳川との戦での大勝 いくらかの死者は出たものの負傷者は無し 長く患っていた信玄の回復と
厚く垂れ込めていた雲が一気に晴れたような解放感に皆が包まれていた
「幸隆よ 山県の所へ、行かねばならんのだがな。。。」
「保科正俊殿の軍 1000名を率いて先行して頂いております じきに合流するかと」
「槍弾正か それであれば安心か」
「ほうとうも煮えたようでございます あちらで温まりましょう」
すでに大鍋を囲んでいる エヴァと徳本の弟子たち
「わしも食うぞ! このように食欲があるのも久しぶりじゃ」信玄が高らかに笑う
「とても美味しいです このような戦場で温かいものが口に出来るとは しかしこの箸なるものは
よく考えられていますね 携帯にも便利ですし 無ければその辺の枝を削ればいいのですから」
「武田名物ほうとうを気に入られたようで何よりです 箸も初めてということですが上手に使いこなされて」
徳本が髭をしごきながら、エヴァの食いっぷりに目を細める
「このお肉はなんでしょう? ちょっと癖がありますが、この味噌によく合いますね」
4杯目のほうとうをお椀に入れる
「今朝がた仕留めた鹿です 天女様に食べて頂き 鹿も幸せ者です」徳本の天女崇拝が止まらない
「わしも頂くぞ」エヴァの横に腰を下ろす信玄
「お館様、あちらに用意してありますが。。。」信玄の耳元で囁く幸隆
「天女殿の上座でなど食えるか こっちの鍋の方が美味そうじゃ」
若かった頃のようにほうとうを平らげる
「美味い! これほどに美味かったのじゃな。。。」
『わしはまだ生きられるのか』天を仰ぐ 信玄
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