第7話 浜松城

時は少し戻る




ここ三方ヶ原の徳川本陣に襲い掛かる 山県昌景軍と合流した馬場信春軍


本陣前で立ち塞がる  槍の名手で知られる本多忠真であるが、圧倒的な数の暴力の前では


数名の足軽を道連れに 力尽きる


本陣より打って出た 夏目吉信、鈴木久三郎であるが、またたく間に制圧される


この時点で三方ヶ原の合戦は武田の圧倒的な勝利であるが 徳川家康の首級を捕ってこそ


武田の3年間に及ぶ鬱憤が晴れるというものである


(3年前の武田、徳川連合による駿河侵攻後の領土問題などのいざこざが鬱憤の原因となる)


「馬場殿、家康は曳馬城(浜松城)へ逃げ帰ったようですな 今から向かえば 陽のあるうちに攻められましょう」


「山県 お館様には、伝令を出しておく すぐに向かうぞ! お館様とは、向こうで合流じゃな」


間もなく還暦という馬場信春であるが、未だ最前線で戦い武田四天王に数えられる益荒男である


その横を甘利信忠の騎馬隊が徳川家康を追うために浜松城へと駆ける


「お二人方! 家康の首、この甘利が頂きます!!」


「甘利!! ワシの分も残しておけよ!!!!」がっはっはっは 豪快に笑う 馬場


「甘利が行くのであれば、徳川も終わりであろう 山県よワシらは城へ逃げ帰る残党を狩りながら向かうとしよう」




ルイはと言えば 山県昌景の護衛に専念していた 


「山県。。様の兵は、強いんだな 俺の出る幕がまったくなかった」


「ワシの軍が強いのでは無い 武田の軍が強いのじゃ お館様は軍神であるからな」


「お館様?」


「甲斐国守護 武田信玄様じゃ」


「そんなに凄い殿様なのか。。。会ってみたいな」


「ハッハッハ お主も武功を重ねれば、いずれお会い出来よう」


戦も一段落ついた気軽さからか 山県も饒舌になっているようだ 浜松城へと向かう道すがら


ルイは、山県から この国の政情や近隣諸国の情勢などの情報を聞き出す 


どうやら、朝廷や幕府の力が弱まり 歴史上類を見ない戦乱期に見舞われているようだ


なぜか、自分の血が熱くなるのを感じる 根っからの戦闘狂である


「そうなると、織田信長と言うのがお館様の最大の敵ということか。。。?」


「ふむ 上杉謙信も居るが、今は一向一揆に手を焼いておる」


しばらくお館様の武勇談に興味深く聞き入りながら歩く 当然周囲の警戒は怠らずに


前方の林に視線を凝らす 視力も強化しているため 障害物が無ければ1キロ先の人の顔を判別もできる


「山県様、あそこの林の手前 赤い甲冑の兵が28人死んでる 敵の姿は。。。無いな 安全だ」


「あの先の林だと!? 1km以上あるでは無いか 誠に見えているのか??」


「見える範囲で28人だ、先ほどの甘利という者も死んでいるな 斥候が戻ってくるぞ 聞いてみろ」




「山県様!ここより1km先 甘利殿を含む騎馬隊28名討ち死 敵は馬を奪い浜松城へと向かっております」




「すまぬが5人ほど連れて遺体を林の中に隠してはくれぬか? 士気に関わるのでな」


斥候にそう命ずると 首から下げた数珠を握り目を閉じる


「甘利殿 許せ 仇は必ず取るゆえ」




「それにしてもルイよ お主は千里眼か?」


「そんなには見えない ハッハッハ その単位で言うと、見るだけなら2里だな」


「馬鹿なことを申すな 2里も見える者がいるものか」


「わかるよ 強化しているからな 聴力も強化している 1里先の鳥の羽ばたきも聞こえるぞ」


「強化だと? 修練ではなく?? やはり物の怪か!?」


「その物の怪モンスターを倒すのが俺たちの仕事だ! 失礼だぞ」


「ふむ と言うと陰陽氏のたぐいか。。。?」


「俺は、自分にしか強化を掛けることは出来ないが エヴァなら他人にも掛けることができるぞ」


「それが真であれば、斥候などいらんな」


今度は逆に自分の身の上を山県に話しながら 歩をすすめる




例の林を抜けたところで、馬場信春が馬首を並べてくる


「戦闘があったようじゃな」


「甘利殿が討ち取られました。。。」


「あの甘利がの。。。本多忠勝か榊原康政といったところか? いずれにしても徳川は、今日までよ!!」


「馬場殿が言われると 徳川が気の毒になって参りますなハッハッハ」


「ところで、お主にずっと付いてる、その小僧は何者じゃ?」


「陰陽氏の類のようで 奇妙な術を使いまする」


「ほー、占い師か? この戦は占うまでもなく 我が方の勝ちじゃがなガッハッハ」


興味を失ったのか、後方の自分の部隊に帰っていく


「あそこに見えるのが、浜松城か? 門も全部開いているぞ?」


「なんじゃと!!」




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