第17話 燃え尽きた男
「あんたがロジャースか」
「そうだ。そう言うお前はトキ・ウキョウだな?そんでもって、そこのデカいのはデレク・ダンディリオンだろ」
「大正解だ」
三人は挨拶を交わし話し込んでいる様子だ。しかし俺は、ブラスモンキーの乾いた瞳から目を反らせずにいた。
こいつは人を殺して喜ぶ野蛮な化け物だ。でも、俺はこいつを少し尊敬している。俺との勝負に誇りを賭けて挑んでくれた、つまり、俺を認めてくれたからだ。
だが決着をつけたのはロジャースだった。俺が弱いばっかりに相手の真剣さを台無しにしてしまった。
生き残れればそれで良かったはずなのに。
「強くなろう」
「なんか言ったかチビ助」
「いや、何でもないです。帰りましょう」
森を出るころには辺りがすっかり暗くなっていた。今回の狩りでは俺の居る第一棟の被害が大きかったようで、包帯だらけのゾンビのような囚人たちがうめき声を上げながら監獄まで歩いている。
「貴様らは比較的軽症に見えるな。あの猿以外とは戦わなかったのか?」
ロジャースの問いにトキさんが代表して答えた。
「いや、サイレントベアや狼とも戦ったし、囚人にも襲われたな」
「……化け物どもが」
「俺は長く生きているからな。ただそれだけさ」
「ところでロジャースよぉ、あんた第三棟の看守だろ?」
「そうだが?」
デレクさんは背中を丸めてロジャースに耳打ちした。
「あんたの管轄に使えそうな奴はいるか?」
「まぁ、いるにはいる。だが囚人たちの縄張り争いのせいで、別の棟の者とは関わりづらいんじゃないか?」
「クックック、第一棟のお山の大将が死んでくれたんでな、そこんところはなんとかなりそうだ」
「なるほどな…」
へぇ、あのスキンヘッド、偉そうにしているとは思ってたけど本当に偉かったのか。
第一棟にはスキンヘッド、残る四棟にもそれぞれリーダー格の囚人がいるのだろう。だがアイツの性格から推測するに、話が通じる者達だと思わない方が良さそうだ。
「貴様ら、運動場でいつも一人で座っている囚人を覚えていないか?髭も髪も長いヤツなんだが……」
「ああ、奴か。それなりに古株だ。デレクよりは長いぞ」
「よく覚えてんなぁトキ!んで、そいつはどんな奴だ?」
「奴の名前はヤウク・ステファノ。罪状は外患誘致罪だ」
「が、外患誘致罪!?」
思わず大きな声を出してしまった。確か、日本では死刑になる程の重い罪のはずで、判例が出たことがない、つまり誰もやったことが無い犯罪だけど……。
「ああ、奴の二つ名は激震ヤウク。筋金入りのテロリストだ」
「へぇ、やるじゃねぇか」
デレクさんは感心して髭を撫でているし、トキさんはニヤリと笑ってなにか考え事をしている風だ。
いくらなんでも本物の犯罪者はマズイだろ、この二人は常識を持ってないのか!?
「あ、あの!テロリストはマズいんじゃ……?」
三人とも、きょとんとした顔で俺を見た。なんだ、そんなに変な事を言ったか?
「カズ、俺達が計画していることを言ってみろ」
「ええと、脱獄して、王家に復讐を……」
「つまりテロだ」
「あー……」
なぁ~んだ、お仲間だったか。
「話の邪魔してすいません。続きを……」
デレクさんがニヤニヤと俺を見ている。
「どうかしました?」
「いや、お前さんよ、真面目な奴かと思ってたが、けっこう面白いよな」
「そ、そうですかぁ?」
「ま、なんにせよ交渉はカズ、お前の役目だ」
「ええ!自信ないですよ」
「お前のスキルを使えば造作もないだろ」
「ま、まぁそうかもですけど…」
「おいおい、猿相手に喧嘩売った男とは思えねぇぜ?頑張れよチビ助」
「はい……」
俺達には二週間の労働免除期間が与えられた。山狩りを終えた二日後、筋肉痛の体を引きずりながら俺一人で運動場まで行った。
心細いが、二人は結構な大怪我をしているんだ、俺が頑張らなきゃな。
「さーて、どこかなーっと……」
お、案外近くにいたぞ。髭と髪の色は茶髪で、長すぎてあまり顔が見えない。取りあえず計測を使ってみるか。
身長176㎝、体重70㎏。中肉中背ってところかな。そして彼は、今何を考えているんだ…?
スキルで読み取れた感情は寂しさ、虚無感、諦念。これだけじゃなんとも言えないけど、簡単な相手じゃなさそうだ。でもやるしかない。
「今日も寒いですね」
「……」
「隣、失礼してもいいですか?」
「なんだ、お前は。失せろ」
「あはは。いやぁ、珍しくまともそうな人がいるなと思ったので、つい」
「……ちっ」
立ち上がろうとするのが分かった。急げ、何か彼の心を引き留めるセリフを言うんだ。
「一人は辛いですよね。そして、自由を奪われるのはもっと辛い」
「そんなもの、誰が優劣を決められる」
立ち上がってしまった。ここで無理に引き留めるのはよした方が良いだろうな。
「あなたならわかってくれそうな気がしたんですけどね」
「はっ、知った風な口を……」
強烈な不快感と葛藤を読み取った。そして、グリンデル王国に対する感情を薄っすらと感じ取れたが、すぐに消えてしまった。
彼自身で感情に蓋をしているのだろう。
「こりゃ、時間かかるかもなぁ……」
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