クラスごと異世界に召喚されたら固有スキルがハズレ?&痴漢免罪で投獄された件について~同房が初代勇者だったので一緒に脱獄して復讐します~

猿ヶ瀬黄桃

第1話 崩壊の始まり

「おい、どうなってんだよ…」「どこ?ここ……」「だ、誰だアイツら?」

 落ち着け、落ち着け俺。ドッキリに巻き込まれたのか、それとも俺の頭がおかしくなったのか?


「俺の名前は太刀山一志、戸倉高校二年三組、ええと、趣味は漫画と――」

「お待ちしておりました、勇者様方」


 いかにも聖女様って感じの女の子が俺達に向かって、声高らかに言った。どうやら俺の頭は正常に働いてるらしい。そして異世界に、召喚されたらしい。


 聖女様とその脇に立ってた小太りの王様が言うに、俺達は魔王を撃退するため勇者として召喚された。そして、俺達には固有スキルってのが備わっているらしい。


「では、次の方」

 神官が持っている水晶に触れるとそのスキルが何なのか分かるとのことで、俺は列の後ろの方に並んでいる。


「ねえ、ねえ太刀山君。どんなスキルが貰えたんだろう?これで僕らも…ぐふふ」

「お、おう。強いのだと良いな」

 アニメや漫画の話を良くする飯田だ。なんか悪い事を考えてる顔だけど、まぁ俺も男だ。強さってのには少し憧れる。


「やっぱ誠司はすげぇわ、いかにも勇者って感じじゃん!」

「いやぁ、スキル聖剣だなんて俺にはもったいないよ」

「えー、あーしは星川君にぴったりだとおもぉけどー」


 出た、バスケ部キャプテン一軍リーダーとその取り巻きだ。

ヤンキーモドキとふわふわした喋り方のギャルモドキは、それぞれ西村拳太と藤沢涼花。


「私のスキルは、治療術師?誠司君、私ゲームとかやらないから、どういう物か良くわからないんだけど……」

 星川と幼馴染、でもってクラスの良心である花形美沙が首をかしげている。


「おい、飯田ぁ!!」

 西村が威圧するように言った。

「ひっ、はい!」

「お前どーせ詳しいんだろ?キモイし」

「ちょっと拳太君!止めなってそんな言い方!」

「…チッ、わーったよ」

「教えてくれる?飯田君」

「あ、ふへ、ええとスキルの名前から予測するに――」


「次の方~」

 よし、俺の番が回って来たぞ!どうやら他の皆も良いスキルが貰えたようでテンションが上がってるみたいだ。俺も強いスキル貰って活躍しちゃったりして……。


 水晶玉の上に手を置いたら、頭に情報が流れ込んで来た。どうやって使うのか、どういう効果があるのか、そして名前も。


「……固有スキル、計測。物の長さや重さを一目見ただけで計る能力、だと?」

 ま、まずい。どう考えてもハズレじゃないか!

「いやったぁ!漆黒魔術だって!?僕にピッタリだ!」

 飯田が大喜びしてる。ピッタリかは分からんが。

「太刀山君はなんだった?いや待って当てさせてよ。そーだなぁ、純白魔術とかだったりして!僕と君とで魔王を倒すんだ!」

「……計測だってよ」

「な、に?もう一度言ってくれるかい?」

「計測。重さや長さが解るんだって……」

「そ、そんなぁ!それじゃハズレスキルじゃないか!!!」

「おい大声で言うなってば!」

 クラスの皆の視線が俺に集まった。

まずい、知らない世界で孤立したら生き残れる自信なんて無い。ど、どうしたら。

「ハズレって、太刀山らしくていいじゃんかよ、ぎゃははは!!」

「おい拳太、よすんだ。もしかすると予想外の使い方ができるかもしれないだろ。なぁ太刀山、俺に詳しく教えてくれよ!」

「う、う……」

 言いたくない。嘘を吐くべきか、いや飯田に喋っちまったしそれは無理だ。どうにかして切り抜けなきゃ、どうにかして……!


「太刀山君、私、これからは皆で協力しなきゃいけないと思うの。そのために教えてくれない?お願い!」

「…重さとか長さがわかる、らしい、です……」

 終わった。花形に頭を下げられたら言うしかないじゃないか。


 皆、俺のスキルを知って陰口を叩いてるのかヒソヒソと喋り始めた。特に女性陣の目線が痛い。

「おい誠司!やっぱハズレだぜ、ハハハ!」

「た、確かに、こればっかりはどうしようも…」

「待ってよ、もっとよく考えれば使い道が見つかるかもしれないじゃない!」

「じゃぁさ~ミサリン、例えばなによ~。あーし全然思いつかんし」

「え、ええっと……」


頼む花形、君が最後の希望だ!俺に発言権は無いんだ、頼む。

「大工さん、とか……?」

 神殿が静まり返った。だれも彼女の天然発言に何も言えないみたいだ。


「まじ~?ミサリン性格わっる、あーしちょい引いたわぁ」

「え、ええ?なんで?どうして皆笑うの!」

 クスクスと、神官までもが笑ってる。飯田の目線が俺を蔑む物に変わった気がする。ああ、怖い。これから俺、どうなっちゃうんだ……?


「皆さん!どうかお静かに!」

 聖女の凛とした声で皆が静かになった。一発でこれって凄いな、教師に向いてるんじゃないか。

「太刀山一志様」

「は、はい!」

 彼女は美人と言うより、もはや美術品に近い印象だ。緊張してしまう。

「本当に、スキルの名前と効果は先程あなたが言った通りなのですね?」

「はい」

「間違いありませんか?」

「……はい。あの、固有スキルなんですよね?みんなと同じ、なにか特別な……」

「残念ながら、計測は我々この世界の住人も持っているスキルです」

「そ、そんな!でも、誰でもってわけじゃないんじゃ……?」

 聖女は申し訳なさそうな顔で俺に真実を告げた。


「あなたの隣に立っている神官も、持っています」

「え」

「計測保持者は50人に一人ほど居ます。ああ、本当に申し訳ありません。私達の手違いであなたをこの世界に連れてきてしまったのかも…」


 う、嘘だ。皆の見る目がどんどん、人を見る目じゃ無くなってく。

俺が何したっていうんだ。俺が悪い事したんじゃないだろ!

 俺はこの先一人で、誰からも尊重されずに生きてくのか?


「あ、あの、俺はこれからどうなるんです。俺の衣食住は保証してくれますか?身の安全も!」

「ええ、出来る限りの事はします」

「お、お願いです、誰も頼れないんです。誰も……」

「落ち着いてください太刀山様!」

聖女に詰め寄る自分を抑えられない。

「あなたが、召喚したんでしょ?」

「はい…」

「そうだ、じゃあ俺だけ帰してくださいよ!」

「できません」

「なんで!」

「魔王を倒すまでは帰ることができないのです。そう歴史書に記されています」

「んな無責任な!!!」

「キャッ!」

 聖女の肩に掴みかかった俺を星川が突き飛ばした。


「太刀山、頭を冷やすんだ!」

「冷やすったってさ、星川。もう、冷えてるよ。これ以上ないくらい」

「う…そうか。すまない」

「謝らないでくれよ…」


 さっき以上に女性陣の見る目が厳しくなった。神官たちが聖女に駆け寄って、俺を睨みつけている。

「勇者太刀山よ!次テレーズに触れたらば、承知せぬぞ!今回だけは許してやる」

 遠くから王様が叫んだ。彼女の名前、テレーズっていうんだ。でも知ったって意味は無いだろう。俺は、一人なんだから。


「それでは、勇者諸君に暮らしてもらう宿舎に案内する。少々狭いかもしれんが、我がグリンデル王国が出来る限りのもてなしは尽くすつもりだ」

 皆で王様達の後ろをついて行った。当然俺は最後尾だ。


「狭いって、これがか?」

「日本だったら星三つじゃすまないぞ……」

 バカでかい洋館の前にメイドらしき女性たちが数十人並んでお辞儀している。

俺達は40人クラスだが、部屋は余裕で足りそうだ。

 女子は一階と二階、男子は三階と四階に個室が与えられていて、俺の部屋は三階の階段近くだった。 


 運ばれてきた夕食の味はしなかった。きっと夜空も美しいんだろうけど、ただの光ってる石にしか見えない。

 ふて寝しようにも、頭の中が混乱してそれどころじゃない。

「俺は、どうしたら、どうしたら生き残れるんだ!」

 こんなスキルで魔王を倒すのに役立てるわけがねぇ。

「お、終わり――」

「太刀山君、起きてる?」


ノックと共に、花形の声が聞こえた。

正直楽しく雑談する気分じゃないが、無視するのも気が引ける。ドアを開けよう。

「な、何か用ですか?花形さん」

「ええっと、あの。ちょっと話さない?」

「は、はぁ……」

 断るのも面倒くさいので、花形と一緒に洋館の外に出た。

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