夢屑の探索

河津漱石

第1話

「まてまて、どこに行くんだいロッピー!」


ここはとある時空の狭間。

そこには太陽という概念はなく、朝も夜も訪れない不思議な世界。


漆黒が世界を染めているのかといえば別にそういうわけではなく、まぶしすぎるのかといわれれば別にそこまで明るいわけでもない。

物を見るぐらいなら困らない程度の明かりが辺りには満ちていた。


その奇妙な空間の中、一風変わった繁華街が存在していた。


立ち並ぶ建物の特徴には一貫性がなく、様々な国、様々な場所でみられるであろう形・様式の構造物が立ち並びまるで建築物の展覧会が開かれているかのようだ。


そこでは人の形をした何かと人でない形をした何かたくさん存在した。


外見はほわほわとしていて生物と呼べるかもわからない。

でも生物のように独特な動きをしていることは見て取れる、だから生き物なのかもしれない。


そんな存在が街のいたるところに見られ、その不思議な存在は特徴的な街並みに不思議と溶け込み、風変わりな営みをなしていた。


そんなその奇怪な街の道とほわほわの合間を縫うようにして、とある銀色の物体が駆け回る。


二足歩行で三頭身の銀色の物体。


銀色の物体は丸みを帯びた箱にお椀のような頭がついていて、二本の丸みのある棒状の腕と二本の脚があり、それらをがしがしと使ってその街を駆け回る。


そしてその後を追いかける一人の可愛いらしいおさげの少女。


少女が着るには不釣り合いな大き目のコートを身をまとい、肩には大き目のカバンを斜めにかけている。


少女が息を切らしながら道を走るたびに、束ねた髪と大き目のコートが風になびいていた。


「ハアハア、あと、ちょっと.....!」


少女は覚悟を決めるようにせわしなく振る手を固く握り、小さな眉間にしわを寄せる。


走りながらその勢いのままにかがみこみ力を溜めた後、その体をめいいっぱいに使ってジャンプした。


「......ってい!!!」


少女は頭から滑り込むようにして目の前の銀色に飛び込む。

そしてそのしなやかな両の腕をめいいっぱい使い、すぐ前を駆けていた銀色の物体の拘束に成功した。


「つっかまえた!」

「アア、ツカまッチャっタ」

「もう逃がさないよ、ロッピー」


対象をガシりと抱きかかえた少女は、長いこと走り回っていたからか髪は跳ね、服は土埃で汚れてしまっていた。


身動きの取れなくなったそのロッピーと呼ばれる物体は、動けないことを理解したのかガシガシと動かしていた四肢の動きを止めていた。


「もう......一体なんで逃げたんだい?」

「エ?......エッとネ、ウンとネ」

「ふんふん?」

「ヒカり、ヒカりガネ」


そう言うとロッピーは腕のようについている銀の棒を使って、ある方角をさした。


「......光?」


少女はそれに併せて指さす方を見る。

その先にあったのはこの奇妙な街の住人と、それらが住まうであろう建物のような建造物だけ。

ロッピーが言う光とやらはどこにも見つからない。


「......何もなくないか?」

「......アレ?アれレ?」


ロッピーはさっきまで見ていたものを探すようにきょろきょろとあたりを見回す。

その様子を見た少女は少しの間目をつぶり、すぐまた開ける。


「うん、まあとりあえずちゃんと立とうか」


座り込んでいた少女は胸に抱えていたロッピーを地面に優しく置く。

そして服についた汚れを払いながら膝に手をついてよいしょと立ちあがる。


「サッきネ?ソコにアッタンだヨ、ホントだヨ?」

「ああ、そうかもしれないね。」


そう返しつつ少女は辺りを見渡すと、周りにいくつかのふよふよがとどまっていた。いくつかの視線がこちらに集まっていることに気が付く。

どこか居心地が悪くなってくるような気がした。


「......なんか、私走り回っておなかが減ってきたよ。提案なんだけど、ここらでどこかお店にでも入るのはどうだろう?」

「エ。ウ、うン」


返事をしつつ首をかしげていると、自分もきゅるきゅると体が鳴っていることに気が付く。

走り回ったからだろう、自分の中のオイルが大分消耗していた。


「ここに来るまでにそれらしい看板がかかっているところがあったね、ひとまずそこに行ってみようか。」


少女はロッピーに向けて優しく手のひらを差し出す。


「さ、行こう?」

「......うン」


少女が差し出した手に、ロッピーは冷たく指もない金属の手を合わせた。


「星の......」

「?」


少女は前を向きながらぼそりと何かを言いだそうとした。

言葉に少しつまったかと思ったら、顔をロッピーのほうへと向けた。


「星の夢屑、今度は見つかるといいね。ロッピー」


「......うン。ソウダね、フィー」


フィーはにっこりとを笑顔を浮かべる。

二人はしっかりとその手を結び、空いたお腹を満たすべく目的の店へと向かった。

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