僕の頭のネジ、その辺に落ちていませんか?見かけたら届けてくれますか?
黒影紳士@泪澄 黒烏るいすくろう
第1話 あっ、ネジ…
すみません、そこの貴方っ!
今、執筆に疲れていて
何も考えてなくて
忘れちつまつた悲しみなんざとフラフラしていたんです。
そうしたら、転んで手を強打し、もう書く気すら無くなったのですよ。
でも、それじゃあ、書き途中の輩が
可哀想で
可哀想で
涙が止まらず
ほら……なんら酔っ払いと変わらない
路上の傍に転がる身となったのですよ
夢を見せて人生うん十年
僕は見せてばかりでからっ欠になりました。
それでもね
こんな僕を慕う幾ばくかの御方もおられるのです。
だから、今は転がった時に撒き散らかしちまったネジ……
一緒に探して貰えませんか
どんだけ吹っ飛んだかも分かりませんが
もう頭が回らなくて
頼めるのは貴方だけなのですよ
あっ、ああ……有難う御座います
こんなろくでもない物書きなんぞの為に
こんな日に
なんて暗がりなんでせうな
遠くの赤提灯の光しかない
優しい貴方は絶世の美女に違いない
否、待てよ
絶世の美男子やもしれない
何方でも構いやしませんよ
こんだけ優しけりゃ
心は美しいのだから
……ああ、有難う御座います。
掌に乗せて貰えますか
後、何本あるかも分かりやしませんねぇ
えっ?最後まで付き合うって?
アンタも変わったお人だ
ところでねぇ
優しさで思い出したんですよ
此方を非難したいくせに
丁寧語と綺麗事を言う奴がいましてね
はっきり言わないもんだから
頭にきたんですよ
そいつは自分がゴタゴタ言っているのに
ゴタゴタを綺麗にすれば
こっちはなあ〜んも言わないと
分かって言いやがった
僕ら物書きには分かるんですよ
コイツはとんだ食わせ物野朗だって
……切れたかって?
そんな無粋は出来ないよ
そもそも嫌いで食って掛かっていると分かるのに
それに切れたら負けたと同じ
そりゃあご丁寧にお返ししましたよ
それが物書きだからさ
物書きじゃない僕に同じ事されたら
多分、ぶん殴っちまったと思うんですよ
強かな奴は嫌いなんでね
そうだ。
あの有名な文豪の太宰治先生だってね
酔い処で後輩にさんざ作品の文句を言われるのさ
けど、ジーッと黙っていたんだと
その気持ちが分からんでも無いのです
帰って大いに泣いたあの気持ちが
小さな人間だと思われたく無い
大人の良識が無いとも思われたく無い
怒ったとしましょうよ
なんて器の小さな人間だ
あれでよく 先生などと呼ばれたものだと噂になる
怒らなかったとしませうよ
なんて気弱で駄目な飲んだくれ先生か
尊敬するには値しないと言ふでせうねぇ
無言が正しい答えなのですよ
詰まるは僕が取った当たり障りの無い答えです
良い大人がわんわん泣くなんて
その方がよっぽど恥じらいだとお思いになるでせう?
いいえ、物書きならばそれに当てる言葉が見当たらなくて泣くのですよ
無口は白紙と同じですからね
辞める気ならぶん殴ってお仕舞いなのですよ。
まだ見つかりませんねぇ……
また見つかったら掌へ届けて下さい
僕は届けるのに疲れ果てた物書きなのです
せめてネジだけでも届けてくれませんか……
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