アンチ・ファンタジー・ガール
みょー
序章 本の虫と《そら》からの使者
第1話 本の虫、未知との遭遇
私はファンタジーが嫌いだ
剣も 魔法も 魔物も
否、
私は
ここは剣と魔法の世界。
大地は魔力に満ち、そこに住む人々は体内に魔力を有している。日常に魔法が存在し、生活や文化に深く根付いている。
魔力のない人間など存在しない…そう誰もが確信しているこの世界にただ一人、生まれてこのかた何の魔法も使えない少女がいた。
私はリイレ。17歳。おそらくこの世界で唯一、魔法が全く使えない人間。そのせいで周りに馴染めず、逃げるようにこの辺境の地で一人暮らしている。
「寂しくない」といえば嘘になるけど、孤独を忘れさせてくれるものは沢山持ち合わせていた。
本だ。
この世界は魔法が前提で回っている。いやそう認識しているのは魔法が使えない私だけ、彼らにとってはあって当たり前の、いわば衣服のようなもの。社会から弾き出されるのは想像に難くない。
そんな裸の私が“世界”を体験することができるツールこそ、本なのだ。
そこには様々な人がいて、様々な考えがあり、様々な心がある。ページをめくるたびに溢れ出る情報が、私の空っぽを満たしてくれる。
追い出されて辿り着いたこの場所も、想いに耽るにはもってこいのいい所だ。
草木のざわめき、時折聞こえてくる風の音や鳥のさえずり、思わず伸びをしたくなる澄んだ空気、夜になると満天の星空が広がる、のどかな場所。
そんな辺鄙な所にポツンと残っていた古本屋。そこが私の住まいになっている。
随分古い木造の建物で、床や柱などから時々嫌な音が聞こえてくるが、私の日々の掃除のお陰で悪くない住み心地だ。…って勝手に住み着いてる奴が何言ってんのって話だけど。
一番高い棚に手を届かせるには脚立が必要なくらいの背丈の本棚がズラリと並び、そこには収まり切らない本で溢れている。
「さーてと、今日は何を読もうかな」
そう本棚を前に呟き、背伸びをしたその時、
ドッゴーン!!!!!!
平穏は終わりを告げた。
こんな大きな音を聞いたのはいつぶりだろう。少なくとも今住んでいるこの地で聞くことはまず無かった。
耳鳴りだろうか、そう考えながらふと窓をのぞき外の様子を伺う。
一瞬、思考が完全に停止した。
大地は大きく凹み、そこから土煙があがっていた。明らかに異様な光景。
魔物だろうか。もちろん私に戦う術などない。この辺りにある建物はここだけ。絶対に狙われる。
「早く逃げなきゃ!」
急いでドアの方へ向かい、ノブに手をかけたその時、
コンコン
「⁉︎」
ドアから音がする。ノックの音だ。
私はみるみる血の気が引いていくのを感じた。恐怖で体が震えている。
しかしカンストした恐怖は、逆に私を冷静にさせてくれた。
魔物がノックなどするだろうか、と。
住居にやってきたということは人に用があるとみていいだろう。では目的はなんだろうか。襲いたいのなら無理矢理ドアを開ければいい。“それ”が求めているのはおそらく「対話」だ。
いや、まだ“それ”が魔物と決まったわけじゃない。もしかしたらさっきの轟音を聞きつけた魔法協会の魔導士が助けにきてくれたのかもしれない。
意を決してドアを開ける。
誰もいない。
全身の力が抜ける。
このドアも古い、おそらく風に当たってきしむ音がノックのように聞こえたのだろう。
しかし安心はできない。先の轟音と大地に空いた穴の原因は依然不明である
「逃げる準備しなきゃ…」
ドアを閉めようとしたその時、
「ほーらぁー足元をみーてごらん♪」
声がする。その気の抜けた歌声につられて、そのまま視線を下げてしまった。
バタンッ ガチャッ
急いでドアを閉め、カギをかけた。
確かに、何かいた。
私の膝くらいまでしかない背丈のそれは、丸いフォルムに手足がそのまま生えてる衝撃的なビジュアル。頭には触覚のような突起があり、体色は黄色。まず魔物に違いない。
ただ、私はそれを見たことがなかった。
ここには何冊もある魔物事典、それらを何度も読んできて、そのほぼ全てを記憶している私が、だ。
「もしかして新種の…」
そう考えていた矢先、ドアの向こうから
「無視すんなーー!!」
バキッ ガチャッ
「ひゃっ!」
叫び声と何かが壊れる嫌な音に、思わず私は情けない声を出してしまった。
そいつはカギを壊し、無理矢理ドアを開けてきたのだ。
「もしもーし、あれ?おかしいな、言語は通じてるはずなんだけど…」
私は腰が抜けてしまって、そいつと同じ目線になっていた。
冷静になって見てみると、愛玩魔物のようで可愛い。大きくつぶらな瞳、薄紅色の頬、口からはペロッと舌が出ている。ただ状況が状況なので、依然緊張状態は続く。
「おおっと失礼、自己紹介がまだだったな。
オレの名は “てへぺろ” 販売訪問に来た。」
そう言うと彼は軽く会釈した。
もうどこからツッコめばいいか分からないし、ツッコむ気力もない。
そんな私をよそに、彼は続ける。
「いやぁーここが地球ね〜…噂にゃ聞いてたがこの星の文明水準は最悪だな。惑星バリアも宇宙ステーションもねぇときた。この有様じゃ全自動卵割り機すらねーだろうな。そんな原始的な星じゃ、言語という概念がなくても無理はないか。」
「地球」「この星」「宇宙」…この世界では聞き馴染みのない単語が矢継ぎ早に飛び込んでくる。そんなバカな…
「あ、あなたは何者なの…?」
今出せる精一杯の声で聞いた。
彼は私と意思疎通できることがわかり、さっき言っただろと言いたげな怪訝な顔を見せたあと、
「オレは “てへぺろ” フーリック銀河第10番惑星カオモージ星から科学兵器を売りに来た!」
それは私があの轟音を聞いてから感じていた最悪の想定のななめ上を行った。
最初に言った通り、私は
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