9本目(3)ガールズトーク

「さてと……」


「うん……」


「ふむ……」


「……」


「……?」


 先々日と先の日とはまた別の日、セトワラの部室に能美兄弟と優美と小豆とマリサの五人が集まっている。礼明が口を開く。


「お忙しい中、集まってもらって恐縮だわ……」


「本当ですわ」


 優美が髪をかき上げる。


「え?」


「小豆……」


 優美に促され、小豆が端末を確認する。


「はい、この後、習い事と会食が三件ずつ入っておりますので用件は手短にお願いします」


「予定ビッシリ!」


「ってか、会食三件はやり過ぎでしょ⁉」


 能美兄弟が揃って驚く。マリサが尋ねる。


「それで、用件はなんなのですカ? スーパーノウミブラザーズ?」


「スーパー〇リオみたいに言わないでちょうだい!」


 マリサが悪戯っぽく笑う。


「フフッ、冗談ですヨ」


「まったく……一応先輩なんだけど……」


「……本当にご用件はなんなのでしょうか?」


 小豆が尋ねる。礼光が促す。


「礼明ちゃん……」


「ええ、本日皆に集まってもらったのは他でもないわ……皆……漫才をする上で大事なことってなんだと思う?」


「大事なこと?」


「ええ、そうよ、優美ちゃん」


「〇〇力と言い換えても良いかもしれないわね……」


 礼光が補足する。


「〇〇力……」


 マリサが顎に手を当てて考え込む。


「なんだと思いましたら……」


「え? 分かったの、優美ちゃん?」


「ええ、簡単ですわ」


「それじゃあ答えを聞こうかしら?」


「答えは……『経済力』ですわ!」


 優美は再び髪をかき上げながら答える。礼明が驚く。


「え⁉」


「……『財力』の方が良かったかしら?」


「もっとなんかエグい言い方!」


 礼明が戸惑う。


「違うのかしら? 漫才の会場を抑えるのにもお金が必要でしょう?」


 優美が首を傾げる。礼明が戸惑いながら頷く。


「ま、まあ、それはそうかもしれないけど……」


「必要とあれば、観客の方々も用意できます……」


「いや、それはダメだから!」


 小豆の言葉に礼光が反応する。


「フフッ、まるで見当外れですネ~」


「む……マリサ、貴女は答えが分かっているの?」


「当然ですヨ」


「それならば伺おうかしら?」


「答えは……『発信力』ですヨ!」


「発信力?」


 マリサの答えに優美は首を捻る。マリサは端末を取り出す。


「そう! 今の時代、SNSでの発信力が勝負を分けます! 違いますカ? 礼明チャン」


「当たらずも遠からずと言ったところだけど……」


「?」


 マリサが首を傾げる。礼光が礼明に告げる。


「礼明ちゃん、そういう回りくどい言い方は通用しないわよ……」


「あ、そっか……」


「とにかく! アタシのオンスタグラムのフォロワー数はスペイン語、英語、日本語のアカウントを全て合わせて、数千万人です!」


「ええっ⁉」


「こ、高校生離れしているわね……」


 礼明と礼光が揃って唖然とする。優美が口を開く。


「ふっ、マリサ、それこそ見当外れですわ」


「ム……」


「フォロワーなんて、その気になれば買えるというではありませんか。やはり……」


「いや、経済力もちょっと違うから……」


「いえ……『戦闘力』です!」


「は?」


 礼明が首を傾げる。優美が小豆を指し示す。


「例えば、この小豆……言っておやりなさい」


「はい、私の戦闘力は53万です」


「〇リーザか!」


「大体、何を以っての戦闘力よ!」


 礼明と礼光が揃って声を上げる。マリサが呟く。


「『戦闘力…たったの5か…ゴミめ…』」


「マリサ、そんな台詞を得意気に言わなくていいから!」


 礼明がマリサに注意する。優美が話す。


「……まあ、冗談はこれくらいにして……」


「あ、冗談だったの⁉」


「ええ、それで答えはなんですの?」


「こ、答えは……『女子力』よ!」


「女子力? 近年よく耳にしますけど、そもそも女子力とはなんですの?」


「色々と定義はあるけど……」


「色々ある時点でダメなのじゃありませんの?」


「ぐっ……礼光ちゃん、説明してあげて!」


「ええっ⁉ まさかの丸投げ⁉ しょ、しょうがないわね、女子力というものは確かに色々あるけど……家事が得意!」


「ふむ……」


「後は……香水のいい香りがする! 身だしなみがキッチリしている!」


「ほう……」


「他には……誰にでも気遣いが出来る!」


「はあ……」


「えっと、他には……言葉遣いが美しい!」


「へえ……」


「……とまあ、大体そんな感じよ!」


「なんのことはない、小豆のことではありませんか」


「はい?」


 小豆が若干戸惑いを見せる。


「はっ⁉」


「そ、そう言われると……ま、負けた……」


「おお、意外な伏兵ですネ~♪」


 マリサが笑顔を見せる横で礼明と礼光が揃って膝をつく。兄弟は放っておいてガールズトークがしばらく続いた。

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