9本目(1)四字熟語

                  9


「さてと……」


「むう……」


「フム……」


 セトワラの部室に屋代と因島とオースティンの三人が集まっている。


「今日はお忙しいところ集まってもらって感謝する……」


「い、いえ……」


「別に構わないデスガ?」


 屋代の言葉に因島とオースティンが答える。


「……というわけで」


「はい」


「イエス」


「早速始めようか」


「い、いや、ちょっとお待ちあれ!」


「どうした因島?」


「それはこっちの台詞でござる! 何を始めるおつもりでござるか⁉」


「言ってなかったか?」


「何も聞いていないでござる!」


「ふむ……そうか、それは失礼した……」


「い、いえ……」


「では始めよう」


「説明は⁉」


「やっていくうちに分かる」


「大雑把!」


「ハハハ! 屋代パイセンはちょっとアバウトデース」


「ちょ、ちょっとどころではないでござろう……」


 笑うオースティンを因島が呆れた様子で見つめる。屋代が咳払いをひとつ入れる。


「こほん……では説明しよう」


「お、お願いするでござる」


「君たちは漫才をする上で大事なことはなんだと思う?」


「え?」


「大事なコト?」


「そうだ……因島?」


「え、えっと……活舌でござるか?」


「それも大事だな……オースティンはどう思う?」


「フィジカル?」


「え?」


 屋代が首を傾げる。


「ネタによってはステージを走り回りマスカラ……」


「ああ、なるほど、それも大事だな……因島、他にないか?」


「お、面白さでござるか?」


「まあ、それも大事だな……オースティン、他にはどうだ?」


「パッション!」


「ええ?」


 屋代が再び首を傾げる。


「何事も情熱が大事デース」


「ま、まあ、それもそうだな……だが、お前らは忘れているな」


「ホワット?」


 オースティンが両手を広げる。


「漫才をする上で大事なこと……それは『語彙力』だ!」


「ご、語彙力?」


「ああ、そうだ」


「それは分かったでござるが、どうして拙者らがここに……」


「僕とお前らで語彙力勝負をしようじゃないか!」


「な、何故に⁉」


 屋代の申し出に因島は困惑する。


「ハハハ! 面白そうデース! 是非ヤリマショウ!」


「ええっ⁉」


 あっさりと了承したオースティンに因島はさらに困惑する。屋代が声を上げる。


「では……四字熟語対決だ!」


「よ、四字熟語対決?」


「ああ、テーマに沿って、思い付いた四字熟語を言い、もっともテーマにふさわしい四字熟語を言った者の勝ちだ!」


「は、はあ……」


「では行くぞ……まずはカッコいい四字熟語!」


「ええ……」


「僕から行くぞ! 『電光石火』!」


「ならば、ミーは『一騎当千』!」


「あ、と、取られた! えっと、『生殺与奪』……」


「……因島、それはカッコいいか?」


「昨日、『〇滅の刃』を見返していたもので……パッと思い付いたのはこれだったでござる」


 因島が項垂れる。オースティンが口を開く。


「一人で千騎を相手にする……とっても勇ましいデース」


「ふむ、確かにな……ここはオースティンに譲ろう」


「イエス!」


 オースティンがガッツポーズを取る。


「では続いて……賢い四字熟語!」


「か、賢いでござるか?」


「僕から行くぞ! 『才気煥発』!」


「ム……『空前絶後』!」


「え⁉ えっと……て、『天元突破』!」


「……二人とも、賢いだぞ?」


「違いマスカ?」


「違うな」


「オーウ……」


「空前絶後でサ、サン〇ャイン〇崎殿が頭をよぎって、彼の好きなアニメのタイトルを言ってしまったでござる……」


 頭を抱えるオースティンの横で因島が膝に手を当てる。


「ふむ……ここは僕の勝ちで良いな?」


「ええ、問題アリマセン……」


「では次は……かわいい四字熟語!」


「か、かわいい⁉」


「僕から行くぞ! 『百花繚乱』!」


「『花鳥風月』!」


「え、えっと……『勇気凛凛』!」


「……オースティン、やはりそれは違うんじゃないか?」


「そうデスカ? でも、パイセンのも違う気がシマス」


「そうか?」


「ええ、それはどちらかと言えば、優れた人が沢山出るという意味デース」


「そう言われるとそうだな……では」


 屋代とオースティンが因島を見つめる。


「え?」


「勇気凛凛……リンリンの響きが良いデース」


「これは因島に軍配だな」


「『〇いかわ四字熟語』を読んでおいて良かったでござる……」


「続いて!」


「ま、まだやるでござるか⁉」


 よく分からない勝負は続く。

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