5本目(3)ネタ『新たな教科』

「はい、どーも~2年の凸込笑美で~す」


「2年の因島晴義でござる……」


「『セトワラ』、今回はこの二人でお届けします、よろしくお願いしま~す」


「お願いするでござる……」


 借りた講堂内に拍手が起こる。ひと呼吸おいてから笑美が話し出す。


「いや、因島くんね……」


「拙者になにか落ち度でもあったでござるか⁉」


「それ! 拙者とかござるとか、なんなん⁉ 忍者の末裔なん⁉」


「忍者というか侍のつもりでござったが……」


「ああ~そっち⁉」


「まあ、仕方ないでござる。どちらかと言えば所詮は日陰の者でござるからな……」


 因島が俯く。笑美が慌てる。


「ああ、悪かった、ウチが悪かったって! せっかくだから楽しい話をしようや」


「楽しい話?」


「せや、高校生らしくね?」


「ああ、それならばちょうどいい話が……」


 因島が姿勢を正す。笑美がポンと手を打つ。


「お、聞かせてもらいましょうか」


「……大学受験というものがあるでござるな」


「耳が痛い話やな!」


「ほとんどの方にとって避けては通れない話でありますから……」


「まあ、そうやけども……ウチらまだ高2やで、高2の春! ちょっと早すぎない⁉」


「次々回、つまり拙者らの代で、大学入学共通テストに新たな教科が追加されるのです」


「え⁉ ホンマに?」


「本当です」


「そ、それは全然知らんかったな~」


「今の内から対策を練っておいた方が良いと思いまして……」


「うん、うん、そういうのは早い方がええな!」


 笑美が頷く。


「今日は皆さんとその教科について共に学んでいければ良いかなと……」


「それはもう! 大いに学んでいきましょう! それで因島くん、その教科とは?」


「はい、『異世界』です……」


「はあっ⁉」


 笑美が大声を上げる。因島が左耳を抑えながら繰り返す。


「異世界です……」


「え? 異世界って転生とかするあの?」


「ええ、そうでござる」


「国語、数学、英語、理科、社会……」


「異世界でござる」


「おかしいやろ! なんやそれ! どういうことやねん……」


「このご時世、いつ異世界に転生しても良いように……」


「あれはフィクションや!」


「そうは言っても、もうほぼ追加されることは内定してるでござる……」


「世も末やな……何を勉強したらええねん、見当もつかんわ……」


「そこでオタクである拙者の出番でござる!」


 因島が胸を張る。笑美が再び手を打つ。


「なるほど!」


「拙者のオタ知識をフル動員すれば、出題される問題の傾向が大体つかめるでござる……」


「こりゃ頼もしいな!」


「まず国語!」


「国語?」


「サラリーマン、山田はトラックに轢かれ、異世界へ転生することになりました……」


「ああ、なんかよくある展開やな、知らんけど」


「……この時のトラック運転手の心情を答えなさい」


「重いな!」


「え?」


「なにを入試で反省と後悔の文章書かないとアカンのよ!」


「いや、登場人物の心情を答えよとかそういう問題はあるでござろう?」


「あるけれども、残された側の気持ちって……それはしんどいものがあるわ……」


「国語は一旦置いておくでござるか?」


「そやな、他の科目にしたいな」


「じゃあ、数学!」


「数学か、まあええよ」


 笑美が頷く。


「勇者は魔王を倒し、世界に平和をもたらしました……」


「うん」


「国王さまはお礼に姫を妻として迎えて欲しいと言ってきました……」


「まあ、それもよくある感じやな、知らんけど」


「しかし、勇者のパーティーには、恋人同然の女騎士、仲の良い女魔法使い、友達以上の関係である女武道家がいました……」


「あ、ああ……?」


「足して……良いものでしょうか?」


「知らんわ! なんやそれ! ハーレム作ってええかって相談か⁉ どこが数学やねん! 倫理の問題やろ!」


「数学も難しいでござるか?」


「むしろ気悪いな!」


「では英語!」


「英語?」


「以下の単語を日本語に訳しなさい」


「ああ、オーソドックスな感じやな……」


「まずは『スキル』」


「えっと……技術!」


「『ギルド』」


「組合とかそんなんやろ?」


「おお、全問正解でござるよ!」


「なんかクイズ大会みたいなノリやな……」


「では、以下の文章を日本語訳しなさい」


「文章問題か……」


「I who was worthless was ousted from the party, but became a ruler of this world by the unique skill "strongest". It is already late even if said that I come back 」


「え? え?」


「答えは……『役立たずの俺はパーティーから追放されたが、ユニークスキル“最強”でこの世界の支配者になりました。戻ってこいと言われてももう遅い』です」


「そんなもん分かるか! なんか翻訳とは別のセンスが求められているやろ!」


「じゃあ、社会!」


「社会ね……」


「多発する異世界転生を問題視した政府は……」


「現実とフィクションの区別がついていない問題文なんよ……」


「ある法律を定めました、次の三つの内どれでしょう?」


「設定がまずイカレているからな……三択問題か?」


「①不純異世界交遊の禁止」


「田舎の高校か!」


「②勇者の迷惑なナンパ禁止」


「地方の海水浴場の看板か!」


「③トラックの夜間のスピード制限」


「③だけ妙にリアル! 正解は③! って、トラック業界大変やな⁉ もうええわ!」


「「どうも、ありがとうございました!」」


 笑美と因島がステージ中央で揃って頭を下げる。

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