5本目(2)自ら積極的に

「……」


「び、びっくりした……」


 笑美が胸を抑える。


「………」


「こ、この人は?」


 笑美が司に問う。


「ああ、2年の因島晴義いんのしまはるよしくんです」


「この部屋におるっちゅうことは……?」


「ええ、セトワラの会員です」


 司が頷く。


「なんですみっこに座っとんねん」


「拗ねているんだと思います」


「拗ねている?」


「もしくは嘆いているのか……」


「嘆いている?」


 笑美が首を捻る。


「呟きに耳を傾けてみましょう」


 司が笑美を促し、因島に近づく。


「……せっかく話題を振ったのに、拙者をよそにみんなで楽しそうに盛り上がって……」


「ん?」


「ふっ、これも陰キャオタクの悲しい運命でござるか……」


「う、うん?」


「……嘆いている方でしたね」


「あ、嘆いているんや⁉」


「自分が色々話をしたかったのに、みんなが予想以上に盛り上がって、因島くんのことをほったらかしてしまったので……」


「そ、そうなんか……」


「拙者はいつもこうでござる……」


「……嘆いている暇あったら、もっと積極的にならんと」


「!」


 因島は驚いた顔で笑美を見る。


「とりあえず発言せんと、みんなも耳の傾けようがないやんか」


「な、なるほど……」


「ほら、こっち来て会話しようや」


 笑美が因島を教室の真ん中に手招きする。


「も、もうしわけないでござる……」


「初めて会うよね? ウチは凸込笑美」


「い、因島晴義でござる……」


「よろしくな、因島くん」


「よ、よろしく……」


「それで?」


「え?」


「因島くんの好きな漫画はなに?」


「あ、ああ、『〇生獣』でござる……」


「ああ、ミギーが出るやつやっけ?」


「そ、それでござる!」


 因島の顔が明るくなる。


「ちょっと気味悪い話なのかなと思ったら、ミギーと主人公のやりとりが面白いんよな?」


「そ、そうでござる! サスペンスものとしてだけでなく、いわゆるバディものとしても楽しめる側面を持っているのが、あの作品の魅力なのでござる!」


「ウチはあれが好きやな、『〇スノート』」


「ほう……」


「……の7巻までやな」


「ほうほう! 分かってらっしゃる!」


「まあ、第二部も悪くはないんやけどな……」


 笑美が腕を組む。因島が呟く。


「……『ジェバンニが一晩でやってくれました』」


「それやねん! ジェバンニ、漢字の筆跡を数十ページも真似出来るってなんやねん、それこそ新世界の神やろっちゅうねん」


「ははは!」


「アニメは何がええの?」


「やはり、『ま〇マギ』でござるな……」


「あ~『魔法少女まどか〇ギカ』?」


「そうでござる」


 因島が頷く。


「3話は衝撃的やったな~」


「あれは度肝を抜かれたでござる」


「ビビったな、あそこからグッと引き寄せられたもん」


「好きなアニメはなんでござるか?」


「ウチ? う~ん……『天元突破〇レンラガン』かな~」


「ほう、なかなか渋いチョイスでござるな!」


「『お前が信じる俺でもない』」


「『俺が信じるお前でもない』」


「「『お前が信じる、お前を信じろ!』」」


 二人が台詞をハモる。笑美が笑う。


「いや~あそこが燃えるねんな~」


「ふむ……では、ゲームは? 拙者は『〇ークソウル』シリーズでござるな~」


「ああ、あのヒリヒリとする緊張感がたまらんよな~」


「まったくもって」


「ウチはあれかな~『〇が如く』シリーズ!」


「ほ、ほう……」


 やや予想外な答えに因島が戸惑う。


「あの名台詞がええんよな~」


「名台詞?」


「『なにぃ?』」


「そ、それは名台詞でござるかな⁉」


「主役の声優さん、海外のイベントでそれを一番リクエストされたらしいで」


「そ、それは知らなかったでござる……」


 因島が呟く。


「……出来とるやん」


「え?」


「自分から積極的に会話出来とるやん」


「あ……」


「その調子でいったらええねん」


「いや、これはたまたまというか……」


「会話の頻度を上げたらええやん。そしたら上手くいく確率は上がるやろ」


「それはなかなか陰キャにはハードルが高いというか……」


 因島が頭を掻く。


「そうやって陰キャとか言って、自分を自分で型にはめたらしんどいやろ?」


「‼」


「もっと自由に生きようや」


 笑美が両手を大きく広げる。


「自由に……」


「司くん、今度のネタライブ……」


「え、ええ、因島くんと組んでもらおうかなと思いまして……」


「よっしゃ! 一緒に頑張ろうや!」


 笑美が笑顔で因島に語りかける。

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