3本目(3)ネタ『マネージャーと先輩』

「はい、どーも~2年の凸込笑美で~す」


「3年の江田健仁っす!」


「『セトワラ』、今回はこの二人でお届けします、よろしくお願いしま~す」


「お願いします!」


 借りた講堂内に拍手が起こる。ひと呼吸おいてから江田が話し出す。


「マネージャーと先輩の関係に憧れるっす!」


「な、なんや、急に⁉ ビックリした」


「……憧れているっす」


「ああ、任せて、ウチそういうのいっちゃん得意やねん」


「やってくれるっすか?」


「ええよ」


 江田が少し後退して、小走りでステージ中央に戻ってくる。


「先輩、お疲れ様っす!」


「あ! ウチがマネージャーじゃないんや⁉」


「……何がっすか?」


「いやいやごめん、ちょっと面食らって……続けて」


「先輩お疲れ様っす! これ手作りのレモンジュースっす!」


「ああ、ありがとう……手作り?」


 江田が袖をまくって力こぶをつくる。


「レモンを握り潰して作りました!」


「握力エグいな!」


「気持ちを込めたいなと思って……」


「気持ちを込めたとてよ……」


「先輩!」


 江田が気を付けの姿勢をとる。


「おっ、なんやあらたまって?」


「今年こそ全日本カバディ選手権出場目指して頑張って下さい!」


「え⁉ ウチ、カバディ部なん⁉ 女子カバディって、マイナー過ぎひん? ラクロスとかじゃないの?」


「先輩のあの試合を見て、素敵だなと思って……」


「ああ、マネージャーになるきっかけの試合かな?」


「レイダーとしてキャントしながら、アンティにストラグルしたあの瞬間、痺れました!」


「何々⁉ なんて?」


 笑美が戸惑う。


「え?」


「も、もう一回言ってくれる?」


「レイダーとしてキャントしながら、アンティにストラグルしたあの瞬間、痺れました!」


 江田が早口でまくしたてる。


「なんで二回目ちょっと早口になんねん! 分からんねん!」


「あの時のストラグル……最高だったっす!」


「ストラグルした覚えがないのよ……」


「七人のアンティに囲まれて……」


「アンティって人なん⁉」


「はい」


「ちょっと待ってね、一つずつ確認させてくれる?」


「良いっすよ!」


 江田が右手の親指をサムズアップさせる。


「えらい気持ちのいい返事やな。えっと、カバディってあれよね? 確かインドの国民的スポーツよね?」


「違います!」


「え?」


「カバディは格闘技っす!」


「ガチ勢やった! めんどくさいな!」


「訂正してください!」


「ごめん、ごめん、『カバディ、カバディ、カバディ……』って連呼する格闘技よね?」


「ああ、キャントですね」


「キャント出た! キャントは声出すって意味なんかな?」


「レイダーがキャントします」


「ああ、ってことはレイダーも人なんやな、だんだんと分かってきたぞ……ちょっともう一回、ゆっくり確認させてもらってええかな?」


「う~ん……良いっすよ!」


「ちょっと溜めてからの良い返事!」


「まずレイダーが……」


「人がね」


「キャントして……」


「声出して」


「アンティに囲まれながらも……」


「あ、相手のことやな」


「ストラグルします!」


「あ~ストラグルが残っていたか!」


 笑美が頭を抱える。


「先輩!」


「なんや?」


「あの時のストラグル、もう一度見たいっす!」


 江田が胸の前で両手を組む。


「まず、ストラグルを教えて⁉」


「ストラグル、ストラグル……」


「ストラグルコール始まった!」


「ストラグル、ストラグル、ストラグル……」


「いよいよもって意味分からん!」


「……ストラグルしないんすか?」


「あ、ああ……」


「先輩もしかして……」


 江田が口元を抑える。


「うん?」


「ストラグル恐怖症に⁉」


「トラウマ抱えることなの⁉」


「あの時のアンティは確かにすごかったっす……」


「相手ね、強かったんかな?」


「でも、先輩!」


「うん⁉」


「諦めないで下さい! 一度の失敗で自信を失うなんて、先輩らしくないっすよ!」


「なんか励ましてくれてる……それっぽくはなってきたな!」


「もう一度私のハートにストラグルして下さい!」


「おおっと、これは大ヒントや!」


「お願い、ストラグル、ストラグル、ここにストラグル♪」


「! あ~分かった、皆まで言うな……」


「あなたから~♪」


「もうええって!」


「ストラグル!」


「語呂悪いな! タッチでしょ⁉ ストラグルはタッチのこと!」


「キャッチング!」


 江田が笑美の腕を突然掴む。


「えっ何⁉ 怖っ……」


「ストラグル、失敗です。よって……ローナです」


「新しい用語出てきた! もうええわ!」


「「どうも、ありがとうございました!」」


 笑美と江田がステージ中央で揃って頭を下げる。

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