人生
家への帰り道。
すれ違う、小学生
すれ違う、小さなこどもと手を繋いだ母親
すれ違う、杖をついたおばあちゃん
すれ違う、車をやめて自転車を漕ぐおばさん
すれ違う、電話をしながら歩く大学生
何故か、胸が苦しくなる。
戻りたい。戻りたいな。もう一度、やり直したい。
そんな言葉が私の脳裏によぎる。
でも、もう戻ることなんてできない。
分かっていることなんだ。分かっていることなのに、
それでも、それでも、
『戻りたい』
私の蝋燭が訴えてくる。
「時間がない。時間がない。」と。
目を開くと、白い天井、ふかふかのベットで横たわっていた。
ああ。
本当に、時間が、ない。
家への帰り道なんて、今の私にはない。
隣を見ると、泣きながら私にくっついている大きくなった娘がいた。
娘の隣をみると、すれ違った小学生の赤いランドセルが置いてあった。
棚の上に置いてある写真を見ると、私と自転車が写っていた。
その隣の写真を見ると、私がスマホで電話しながら歩いている。
今、考え直してみると、なんやかんやで、楽しい人生だった。
「あ…り、が。と……う。」
もう、『戻れない』。
でも、最期は楽しい人生だったって、そう思えたのだから。
私は、幸せ者だ。
蝋燭の炎が微かな風に吹かれ、
静かに、
音たてることなく、
消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます