様子がおかしな彼③

「は、お前、正気かよ……」


 目元を赤く染めた秀次様が悪態をつく。日頃の優等生らしさも、僕にだけ見せた理不尽な悪魔の面影も見えない。

 言葉が出てくるまでにかかった時間を思うと状況を処理し切るのに時間がかかったようだ。

 普段と違う姿を見れて嬉しいと思ってしまう時点で僕はもうダメみたい。


「残念ながら正気なの。自分でも信じられないんだけど、いきなり一方的な別れ話切り出されてこんなことしちゃうらいには好きなんだよ、これでもね」

「相変わらず恥ずかしいやつだなユキナちゃんは」

「茶化さない。嫌いになったわけじゃないなら、別れてなんかあげないから。正式に僕の恋人になって?」


 僕は愛らしくこてりと小首を傾げた。


「ほんと、変なところで潔いよな、お前……」


 未だ赤みのひかない秀次様は呆れまじりで諦めのため息をついた。


 使えるものはなんでも使うに決まってるだろ。オモチャという立場も、仮初の彼女という地位も、ユキナのパーフェクト美少女な姿も、秀次様自身の好意だって、全部必要なら躊躇わない。

 僕はもともとそういう性質たちだったんだ。欲しいものができたんだから、人の目に怯えて縮こまってる方が後悔する。

 そんな僕に戻したのは、秀次様だってわかってるんだろうか。


「違うでしょ。ほら応えてよ」

「はいはい。好きだよ仁科。今度はちゃんと恋人になろう」


 宮下は微苦笑で是と応えた。

 教室で見知らぬ誰かに彼女の話をしている時の顔だ。それが正面から僕に向けられている。

 なんだかたまらなくなって、誤魔化すように「僕も好き!」と机越しに飛びついた。


「へへへ、嬉しい、嬉しいな。まさか本当に恋人になるだなんて思ってなかったから。……それはそれとして今朝のメールは許さないから」

「は、何、急に。こわ」

「埋め合わせしてよね。ユキナは秀次様の所有物オモチャだけど、彼女だったんだから」


 余計に恥ずかしいことになってでももう引っ込みがつかなくなって、ちょっと拗ねたように詰ってみる。変な抱きつき方をしたせいで、しっかり上目遣いだ。羞恥で少し目も潤んでいる。

 我ながらこんなにも可愛いのに、秀次様はストンと真顔になった。


「あのさ、彼氏相手に好きにしていいみたいなこと言うのやめろよ。……今度は身体、求めたっていいんだぞ」

「へぁっ!?」


 ぼふんっと湯気が上がりそうなほど顔が熱い。え、あ、からだ……? そういえば、前にこの店でそんなこと言ってたような……。


 あわてて逃げ出そうと身をよじろうにも上半身はしっかりくっついている。

 僕で遊んでいつもの調子を取り戻した秀次様は、動けないように僕を抱き込んだ。混乱と羞恥で目を回す僕を意地悪く笑って、唇を塞いだ。

 容易くねじ込まれた舌は口内を蹂躙する。慣れない僕にはもうひとたまりもない。

 ようやく解放されたときには、ぐてぐてになってしまってひとりでは立っていられなかった。


「は、お、おま、なにして」

「ごちそうさま」


 息も絶え絶えな僕に反して秀次様はイキイキしている。


「せっかく辞めさせてやったのに、オモチャまで取り戻しちゃうんだな。やっぱマゾなの?」


 なんで僕、こいつのこと好きなんだろ……。


 外面を捨てた姿はいつも通り。僕のよく知る俺様秀次様だ。

 イラっとすると同時に安心してしまったからもう僕の負けだろう。

 せめて宮下も、僕のことで頭の中いっぱいにして、ぐちゃぐちゃになってくれればいい。これからは名実共に恋人なんだから。



 かくして、僕はイケメン優等生のオモチャ改め恋人になったってわけ。

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女装趣味がバレてイケメン優等生のオモチャになりました 都茉莉 @miyana

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