第26話

 母親に清水の家に電話してもらう。

 SNSのクラスの保護者グループから連絡できてよかった。

 さすがに「ストーカーを捕まえたら清水だった」とは言えない。

「家の近くで具合悪くなって動けなくなった清水を保護した。気を失ったので病院に連れて行く」というもっともらしい話にした。

 うちは駅前なので駅の近くは全て近所。

 つまりおかしな所は一つもない。

 実際、近くの総合病院に電話して時間外で受け付けてもらえた。

 清水の母親が向かってるらしい。

 しばらく待っていたら医師が来て血液検査。

 実際貧血だったので都合がいい。

 検査結果が出たころに清水の母親が到着。

 うちの母親は保護者の間では有名らしい。

 ほら、ド金髪だから……。

 で、清水は頭も打ってなさそうだけど、意識がないので一晩入院。

 支払いを待つ間、清水の母親とうちの母親が雑談してる。

 清水の母親は娘と違い声のデカい人だった。


「うちの小春。昔のアイドル好きでねー、もういやになっちゃう!!!」


 懐かしのドルオタか……。

 クラスにも親の影響で昔のメタル好きとかいるもんな。

 いまさらだが……むごいことしてしまったかもしれない。

 まさか伝説のアイドル高橋恵の正体が40歳のおっさんだなんて……。

 しばらく雑談して解散。

 まー、親父のことを言いふらすにしてもストーカーしてましたとは言えない。

 それに高橋恵がオッサンだなんて、誰も信じない。

 本人出したら余計に信じてもらえない。

 なので後で仲間に引き入れるつもりだ。

 家に帰ると紫苑が待っていた。


「どうだった?」


「よほどショックだったみたいでさ。まだ意識がない」


「あちゃー……でも悪いの清水さんだしね」


 結局の所、パンドラの箱を開けた方が悪いのである。

 好奇心は猫を殺す。

 ストーカーさえしなければ現実を知ることはなかったのである。

 でもさ……こんな現実ありえねえっての!

 高橋恵の息子でも思うわ!!!

 次の日、結局ウヤムヤになったまま学校へ。

 清水は二時限目から登校してきた。

 昼休みになると校舎裏へ連れてかれる。

 当然、俺に告白かと大騒ぎになる。

 学校内で内緒の話は無理だろう。

 衆人環視というか、窓から全校生徒が見ている。

 さすがに細かい会話は伝わらないが、なにを話してるかくらいはわかる。

 ここで仲間に引き入れるのは難しい。

 どうする俺!!!


「結婚を前提につき合ってほしい!!!」


 うおおおおおおおおおおっ!!! と歓声が上がる。

 だが俺は困惑していた。


「ふぁ?」


 いや待て。

 なに言ってんの?

 どうしてそんな結末が出るの?

 しかもいつもとは違う大声。

 大声出せたんかい!!!


「ダメ?」


「いや待て清水。お前は昨日のショックでちょっと混乱してるだけだ」


「……なら子どもだけでもほしい」


 ふぁ?


「どういう意味ッスか?」


「蘭童くんの子どもをアイドルにする!」


 しゃきーん!

 じゃ、ねえよ!!!

 なんだよその爆弾発言。

 しかもまた「きゃあああああああああああッ!」とい歓声。

 ギャラリー黙ってくれませんか?

 俺の脳が沸騰しちゃうよー!!!

 すると清水は小声になる。


「……高校に入ったらスターライトと布施さんの探偵事務所でバイトすることになった。マネージャーとプロのストーカーを目指す」


「ちょ、二番目」


「間違えた。プロの探偵」


「わざとだろ!!!」


 味方……に引き込んだのか?

 内部に爆弾抱えただけじゃ……。


「大丈夫。シングルマザーになる覚悟はある」


「そんな覚悟しちゃだめー!!!」


 そういうのは結婚してからでいいの!!!

 お願いだから、もっと健全な方法で俺を攻略して!!!

 クラスの男子どもが「キス! キス! キス!」とはやし立てた。


「ぶっ殺すぞてめえら!!!」


 拡声器くらいの音量で怒鳴るが、バカどもはやめない。

 うわーん、いじめだよ~。

 するとそのときだった。


「やめなさい!!!」


 真田だ!

 真田が来てくれた!!!

 よくやった!

 唯一の良心枠!!!

 ズカズカとやって来た真田は俺と清水の間に割り込む。


「賢太郎が困ってるでしょ!!!」


 観客が「ヒューヒュー!!!」とはやし立てる。


「蘭童くんは困ってない。これは運命。それに私は恋愛関係じゃなくて肉体関係を望んでる」


 清水が胸を張る。

 ……あれ?

 背がちっちゃいのに結構ある?


「もっとダメでしょが!!!」


 こっちは平らで安心できる。

 観客どもは最高に盛り上がっている。

 どうしよう。俺そっちのけで戦闘が始まりそう。


「じゃあ、真田さんは蘭童くんのどういう所が好きなの?」


「ど、ど、ど、どういう所って……って違う! 好きだから邪魔してるんじゃないっての!!!」


「なぜ……顔真っ赤?」


「真っ赤にもなるわ!!! ばばばばば、バカじゃないの!!!」


「私は好きだが? 特に顔」


 ですよねー。

 親父の若いころそっくりですもんねー。

 清水ならそう言うと思った。

 なおこの好きは恋愛ではない模様。


「わわわ、私だって! 女の子みたいな顔してるけど男らしいし……」


「きゃあああああああああああッ!」と歓声が上がった。


「真田。清水のペースに乗せられてるぞ」


「はっ! そうじゃなくて不純なのはいけないと思う!!!」


「不純? オスとメスがいてメスが発情したのだから不純ではない」


「はははははは、発情!!!」


 ぷしゅーっと真田の顔が真っ赤になる。

 い、いかん!

 真田が限界だ!!!


「さ、真田! 落ち着け! 清水はそんなにレベルの高い話してない!!!」


「あわわわわわ、はははははははは、発情……」


 真田が壊れた!!!

 もうだめだとあきらめた瞬間。


「お前ら! なに騒いでる!!!」


 とうとう体育教師が介入。

 遅いよ先生!!!


「また蘭童か!!! いいよなモテて!!!」


「いきなりひがみかよ!!!」


「うるせえ! こちとらラグビーだけで学生生活終わったんじゃ!!! 学生の恋愛なんぞ絶対邪魔してくれる!!!」


「がんばってくださいねー!!!」


 理由がクソオブクソだが邪魔してくれるのはありがたい。


「いいから解散しろ! 蘭童! お前のことだけは許さない!!!」


「死ね!!!」


 こうして告白はウヤムヤになったが……。

 すごく疲れる……。

 助けて紫苑。

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