第20話
なにかおかしい。
学校に行く途中、視線を感じた……というレベルではない。
めちゃくちゃジロジロ見られている。
学校の前には他校の生徒までいる。
これが女子ばかりなら「俺モテ期来ちゃった♪」と喜んだだろう。
問題は男子の方が多かったということである。
「おおー!」
とか、
「きゃー!
とか言ってる。
しかも許可もなくスマホで撮影される。
それも複数、いや、全員に。
イラッとするわ!
一列に並べて端からビンタしたい。
喜びながら撮影して晒すバカが出る気がするからやらねえけど。
ムカついたので奇行に走るか。
タコ踊りしながら学校になだれ込……おっと真田がいる。
怒られる。やめておこう。
しかたないので普通に歩いて校門へ。
「よう真田」
と余裕を見せつつ、小さな声で。
「……助けて」
と意思表示。
真田はこくんとうなずく。
「はい賢太郎! 挨拶!」
「はーい、ファースト写真集今月10日に発売予定みんな買ってね……って違うわ!!!」
芸人気質があだになった。
思わずやってしまった。
そしたらみんな笑う。思いっきり撮影しながら。
殴りてえ。
「やっぱ芸能人じゃん」
「行こ行こ」
「実は女の子って噂本当かな?」
撮影者たちが帰って行く。
ネタを信じてんじゃねえよばか。
渾身のギャグだったのに俺がバカみたいだろ!
「はい帰ったわ」
「ありがとな真田」
「どういたしまして」
学校に入ると職員室に呼び出される。
事態をよくわかってない教頭ブチ切れ。
「なんだそのふざけた髪型は!!!」
「地毛ッス! つうか入学前に地毛だって言う証明書出しましたよね!!!」
「……え? そんなふざけた地毛あるはず……あるのか」
「あるんすよ。先祖が戦後のどさくさに日本に密入国したロシア人らしく、遺伝でストロベリーブロンドに。で、タレント事務所に勧誘されまして」
宇宙人説は絶対に信じない。
「お。おう、悪かったな」
「異論があれば事務所の弁護士を通して……」
「いや俺が悪かった」
このやりとり何度目だ?
学習能力のない奴め。
「で、何の用ッスか?」
「あ、忘れてた。今日のあの騒ぎは何だ!?」
「いやあ、美しいって罪ッスね」
「ふざけてるのか!」
「俺だってわからんのですよ! 急に斜め上にモテモテになるし! ただでさえ女顔なのに肌はつるんとするし! 筋肉はつかねえし! 歌声はアホみたいにでかくなるし! 幼馴染みはおかしいし……あれはいつもか」
紫苑がおかしいのはいつものことだ。
「お、おう、思春期の体の変化か……」
「ほぼ変身だろが!」
という茶番を通り越して徒労しかない聴取をされる。
親に報告で終了。
でもそも親が「いきなりモテ期来るから気を付けろ」である。
言っても無駄じゃねえの?
で、授業を受けるじゃん。
他のクラスの連中が俺を撮影するじゃん。
ムカついたので女子に制服借りて、というか俺用に持ってきた女子がいるから借りて着るじゃん。
授業中に教師に写真撮られるじゃん。
もうやけを起こして休み時間に撮影会開くじゃん。
なぜか他の学年まで来るじゃん。
収拾つかなくなったから講堂で撮影会するじゃん。
グラビア風ポーズしまくるじゃん。
調子にのって側転、バタフライ、そのまま簡単な方の側宙チートエアリアルやるじゃん。
それで旋風脚に飛び後ろ回し蹴り。
「おっしゃー!!!」
片手を上げて雄叫び!
歓声が上がる。
いい話風に終わらせた。
で、午後は普通に授業。
で、いつものように真田と帰る。
「あううううううう」
「どうした真田?」
「なんであんたそんなキレイになってるのよ!!!」
なんでそんな顔真っ赤にしてんのよ。
と思ったが言わない。
「真田氏、マジで言っていいっすか?」
「さなだうじって……まあいいわ。言いなさい」
「髪伸ばしたらこうなった」
「……ばかなの?」
「そう思うだろ。俺もそう思う」
「病院に行った? なんかの病気かも」
「それがガキのころから定期検診してるんだよね」
「それでお医者さんは?」
「特に異常ないって」
「それ大丈夫なの?」
「まー、おかしいのは髪の毛だけだし。声も声変わり終わったんだろ、たぶん」
「そのアニメ声で!?」
「いつかコマンドーの声優の人みたいな声になるって!」
「それまだ変わってないじゃん!」
「やめて現実から目をそらしてるんだから!」
「おじさんはなんて?」
「うちはそういう家系なんだと」
「結局それかい!」
「母方のヤンキー家系に似たかった!」
「それは嫌だなあ」
「なんで?」
「いいの!!!」
女の子難しい。
で、学校から帰ると案件が待っていた。
なにを言ってるかわからねえと思うがいきなりである。
「案件決まりました」
という要件のみのメッセージがだけが来た。
なんだこれと思ってると紫苑が家に突撃してきた。
「けんちゃんけんちゃん! 案件来たよ! 今度新規参入する屋形船の会社だって! 二人で出てって!」
え?
リアルで?
「顔バレしたらどうすんのよ?」
「美少女が映ってAIによる生成疑惑で炎上するだけじゃない?」
「中の人が貫通したらいけない!!!」
それだけはダメだ!
「けんちゃん、なにその無駄なプロ意識! 普通に顔出ししてるの多いよ。それにこれ来てるし」
「なにこれ……ティラノ……またか」
いつかイ○ンで着たティラノスーツである。
「運営は俺をどうしたんだ?」
「うーん、マネちゃんが言うにはね。もう、顔出してもらちゃった方がいいって。それだけ顔がいいとバレるの時間の問題だし」
「顔だけでそこまでならんだろ」
「歌あるじゃん」
「あ、そうそう、それだ!」
俺は母親が激安ショップで買ってきたワイングラスを出す。
「え? なになに?」
「紫苑には見せていいってさ」
俺は机に置いてスプーンで軽く叩く。
その音から「エー」と声を出し、だんだんと高音にしていく。
だんだんとグラスが揺れていく。
声が高くなるとだんだん揺れの大きさが増していき……。
ぱーん!
割れた。
「嘘……凄い!」
「完全に宴会芸だけどな」
「っていうか完全に女子の音階」
「だまらっしゃい!!!」
俺はどこに向かうのだろうか……。
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