第10話
報告が終わった。
今度はメシを食わねば。
そういうときにはこれ。
完全栄養食!!! お湯を入れてかき混ぜるとカレーになるヤツ!!!
あと昨日の夕食の残りを適当に。
電子レンジで残りものを温めて、カレーにお湯を投入。
お湯の残りでインスタントスープも作る。
ネットで買った100個で1000円のオニオンスープ。
スープカップに粉を入れお湯を注ぐ。
オニオンスープの食欲をそそるにおいをかぎながら、グルグルカレーを混ぜる。
徐々に乾燥した米が水分を吸ってとろみがついてくる。
フタをして三分放置。
温めた昨日のコロッケとスープをつまみながら待つ。
スープがなくなるころカレーが完成。
少々量は少ないが、タンパク質が添加してあるせいか満足感はある。
味はがんばってる。カレーではある。
食べながらぼけっと動画配信サイトを見る。
『菅原晶罵倒まとめ』
え?
『罵倒切り抜き』
はい?
『みんなの晶ちゃん 罵倒たすかるちゃんねる』
……お、おう。
まだ3Dの設定すらしてないのにこれである。
ちょっと怖い。
見るのやめとこ。
マネージャーが言ってこないから大丈夫だろ。
昼を食べたら勉強。
アプリで問題を解いて解説動画を見てると夕方近く。
メッセージが来る。
『そろそろ終わる』
ちょっとはやくね?
『部活は?』
『いいのいいの』
いいかげんすぎると思いつつ用意。
制服はクリーニングに出してるのでファストファッションの黒スキニーはいて、よくわからんモダンアート柄のシャツ、二ヶ月ほど前に紫苑がくれた目からビームを出すペンギンのスカジャンを羽織って外に。
冷静に考えると、あいつ……この頃から結構金持ってたな……。
バイトしてるから! で、ごまかされてきたが、よく考えるとあの頃からVTuberやってやがったのか。
バスで高校に向かう。
なまじ稼いだせいで運賃を高いと思わなくなってきた。
中三でこれはまずい。
金銭感覚が狂わぬようにせねば。
バスで15分ほど行くと埼玉具麗斗高校前に着く。
学校名にツッコミ入れねえからな。
バスから降りて校門前に行くと帰りの生徒がたくさんいた。
「ちょっと、あの子誰? 髪ピンク!」
「ピンク髪の子かわいい」
「やだ小さい!」
おわかりだろうか?
この『かわいい』は愛玩動物への『かわいい』と同義である。
決してモテたわけではない。
クラスの連中も同じだ。
珍獣をからかってるだけだ。
勘違いすんな俺。
すると運動着でスポーツ刈りのゴリラ軍団がやって来た。
体育会系だろうか?
「ねえキミ。誰かの
女に間違えられるのはいつものことだ。
だから否定しない。
「1年の佐久間紫苑を探してるんですけど」
にっこりほほ笑む。
するとガチムチの男子生徒がソワソワし始める。
「あ、あの佐久間の!!!」
「お、おい、妹もすげえかわいくねえか!!! 髪の毛ピンクだけど」
「たぶん軽音やってるんだろ! あ、妹ちゃん。どのバンド好き?」
冷静に考える。
「暁歌音?」
答えたら手を差し出してきた。
暁歌音。
最近チャートを総なめしてる歌手だ。
透明感のある圧倒的な声。
うん、好きだ。
「心の友よ!!!」
手を握るとなぜか抱きつこう手を出してきて……。
お、おいやめろ!
男に抱きつかれてもうれしくねえ。
「おやめなさい!」
聞いたことのある声がした。
後ろを見ると薔薇が。
薔薇が舞っている!!!
「それはうちの子ですわ。先輩」
紫苑だ。
俺が薔薇だと思っていたもの、それは飛んできた落ち葉だった。
げ、幻覚だと!!!
俺が度肝を抜かれてると紫苑はほほ笑んでいた。
めっちゃほほ笑んでいた。エレガントに。
あ、キレてるわこれ。
「あ、ああ、悪い。つい同志がいたものでつい興奮して。あ、妹ちゃんもごめんな」
ガチムチ兄貴たち。
めっちゃ顔が赤くなってる。
わかるわー。紫苑顔いいもんな……。
「あ、大丈夫ですよ」
俺が答えると紫苑も頭を下げる。
「こちらも勘違いしてしまいましたわ。うちの子、顔がいいので」
「あ、ああ。たしかにそうだな。怖がらせてすまなかった」
ガチムチ兄貴が頭を下げた。
この茶番に怒らない。いいヤツだな。ガチムチ兄貴。
「じゃ、行くわ。悪かったな」
「いいえ。こちらも勘違いしてすみません。ごきげんよう」
紫苑はやたら上品にほほ笑む。
ガチムチ兄貴たちはハートを射抜かれたみたいな顔をしていた。
ガチムチ兄貴たちは照れながら行ってしまった。
紫苑は背筋を伸ばして前で手を組んでいる。
なにこの風紀委員系のお嬢さま。誰?
紫苑のアバターだけど俺知らない人だよ。
「けんちゃん。知らない人についてっちゃダメよ」
猫被ったスマイル。
ほんと誰だこいつ。
紫苑だけど。
「じゃ帰ろ」
紫苑とバスに乗る。
その感もすごいお嬢さまぶっていた。
いつもの「お菓子買っていこうよー!」がない。
座り方もなんだかお嬢さまっぽい。
バス停についた。
紫苑はキョロキョロ周りを見回す。
同じ学校の生徒がいないことを確認すると大きくため息をつく。
「けんちゃん、けんちゃ~ん。猫被るの疲れたよ~。コンビニ寄ってお菓子とドクペ買おうよ~。お姉さんがおごるからさ~」
紫苑は締まりのない顔でシャキーンとした。
お、おう。高校生ってたいへんなんだな。
コンビニでお菓子を買う。
俺はスナック菓子と炭酸ジュースを。
紫苑はスナック菓子とチョコレート、それにおっさんが買いそうな乾き物をぽんぽんカゴに放り込む。
「おっとドクペ」
癖の強いあのジュースを買い込む。
「あと夜食のカップラ」
ラーメンも入れる。
「太るぞ……」
思わず俺が言うと、紫苑は遠い目をする。
「大丈夫。親父の教室にずっと通ってるし。代謝もいいから」
「それは知ってる。俺も通ってるし。だが摂取カロリーをオーバーすればあっと言う間にデブデブになるぞ!」
「あー! またそういうこと言う! いいよね、けんちゃんは。なにやっても太らないし」
「見た目変わらないのに重さだけ増減するけどな」
「それでいいじゃない。だって見た目が変わらないもの」
目を高速で泳がせながら、紫苑はさらにお菓子を詰め込んでいく。
さきほどの高嶺の花感は消滅していた。
「さー、お菓子も買ったし! 行くぞー!!!」
「え? 紫苑、配信するの? 俺のアバターの設定は?」
「んだんだ。けんちゃん配信するべ。終わったら設定しよ」
完全にリラックスモードで紫苑は言った。
まーいいけどさー。
「ホラーゲームだけは絶対やらねえ」
「えー……」
絶対やらない!!!
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