第5話
いきなりのゲームオーバー。
あまりの理不尽に俺涙目である。
「……」
「晶ちゃん、涙目無言でこっち見るのやめて。なんで奥に行くのよ」
「ゾンビ避けたかったんだもん!」
『ド下手かわいい』
『炎上芸草』
『中の人リアルJSか?』
そのまま涙目で最初のセーブポイントまで行く。
……10回くらい
「じゃあ次」
紫苑が言った瞬間、スマホのタイマーが鳴った。
「あ、時間だ。ごめんねみんな! 晶ちゃんの家の門限が来ちゃった」
『門限……え? 待って。リアル未成年?』
『リアル女子小学生?』
『声がロリ系なだけで中身は30代主婦だと思ってたのにー!!!』
「最後のお兄ちゃん名前おぼえたですわーッ!」
訳:てめえぶっ殺すぞ!
『どうかこれで許してください……』
五万円……。
え?
「ま、まて、はやまるな。お兄ちゃんたちも絶対やめてですわ!」
ずさー!
小銭の滝が流れていく。
「あー、もう! やめろつってんだろ! このおバカ!!!」
『ロリの罵倒助かる』
それでいいのか! あざっす!
『これで駄菓子でも買いたまえ』
買うけどさ! あざっす!
『ジークさいたま!!!』
さいたまさいたまさいたまー!!!
こうしていつものようにグッダグダで終わったのである。
■
次の日。
むしろつぐのひ。
俺はスマホの画面を見て固まっていた。
『菅原晶、リアル
……いや
意味がわからないタイトルがデカデカ出てるのは芸能専門のニュースサイト。
事務所に入ってねえのになにこれ怖い。
頭がフリーズしてると紫苑からメッセージが届く。
『やっぱり法的にアウトなんで事務所に所属してって』
『なんでやねん』
『労働基準法。逮捕されるからアウトだって』
『お、おう、所属するわ』
相手が国家権力じゃしかたない。
ひい爺さんの代の戸籍の偽造がばれたらまずいしな。
でも宇宙人ってのはさすがに盛りすぎだと思うんよ。
たぶん戦後のどさくさに日本人になった外国人だろ。
新潟のおじさん銀髪だし。
沖縄のおじさんは紫だし。
千葉のおじさんは青だし。
俺も親父も染めないと髪の色ピンクだしな。
埼玉ではよくあること、よくあること。
「じゃ、社長そっちに行くから。おじさんとおばさんの都合がいい日指定して」
「なんで? 俺だけじゃダメなのか?」
「国家権力」
「オッス、了解ッス!」
オレ国家ニ従順。
「じゃあ、聞いとくわ」
「お願い」
通話が終了後、動画投稿サイトの『不倫復讐ゆっくり解説動画』を見てる母親に話を切り出す。
「お母さん。いま紫苑のバイト手伝ってるんだけどさあ、会社が手続きしてくれって。いつ空いてる?」
「うーん、いつでもいいけどー」
「親父もいてくれって」
「じゃあ日曜日かな」
「了解。紫苑に言うわー」
「何の仕事するの?」
「芸能」
「へー、ぬいぐるみショー? お父さんもやってたなあ。人気あったんだぞー」
なんかちゃんと伝わってないような気がする。
まあいいか。
「それでお給料いくらもらえるの? お手伝いだから時給500円?」
テキトーなこと言ってるなこのクソババア。
「まだもらってないからわからない。紫苑に聞いてみる」
メッセージを送る。
すぐに返事がきた。
「了解ッス! 給料? 二回分だと百万円かな」
へー。
「お母さん百万円だって」
「このガキャアッ! なにしやがった!!!」
おかん、いきなりヤンキーモードでマジギレ。
「動画配信者的な?」
「まさか……マイクロビキニ配信……」
だ、誰が陰キャエロ自撮り女子やねん!!!
「お、男のマイクロビキニ配信して誰が喜ぶ!!! バカじゃねえの!!!」
「あんたのルックスなら男の方が逆にウケる!!!」
「親の口からそんなセリフ聞きたくなかったよ!!! 声だけの出演だっての」
「えっちなボイス?」
「断じて違う!!!」
「ま、いいわ。信じてやろう。いまのところはね。日曜に会いましょ」
いいのか?
とりあえずメッセージを送っておく。
『母親がぜんぜん信じてねえ。タスケテ』
『うちもそうだった。社長さんが行けば大丈夫だと思うよ』
そんなもんなのかなあ。
親父が帰ってきて会うことに決定。
親父は母親のなすがままだった。
「親父、会ってくれてありがとう。受験前なのにバイトして悪かったな」
「ふ、賢太郎。家庭の平和の秘訣を教えてやろう。育児と教育には母親の計画に口を出さないことだ!!!」
「弱ッ!!!」
「それは冗談として、いいんじゃないか? おまえ放っておくと永遠に勉強してるじゃん。息抜きしないと死ぬぞ」
「俺のなんて、やってる内に入らないと思うけど」
みんな「苦しい。つらい」って言ってる。
睡眠時間削って受験勉強やってるって話だ。
俺は、絶対に、睡眠時間だけは、削らない!!!
たとえ志望校に落ちようともだ!
「好きな子と好きなことできる期間なんて人生の中で一瞬しかないんだ。ちゃんと、今のうちにくだらないことで時間を浪費しておけ。後悔するぞ」
「だ、誰が好きな人じゃい!」
「いいから、いいから。父さんだって母さんのバイクに乗せてもらったりとか今でも楽しい思い出だ。母さん、幼女誘拐の容疑で警察に捕まったけど」
両親の昔話はなるべく聞かないことにしてる。
闇しかない。
「大学のときも父さんが車の免許取った記念にドライブ行ったり。幼女が運転してるって白バイに何回も止められたな……」
聞きたくねえ。
「とにかく話を聞こう。どうしてもやりたいことなんだろ?」
「お、おう」
「ただ俺から言いたいのは、女性に気を持たせるようなことはするな」
「ああ、そんな卑怯なことはしない」
貢がせたりとかするわけねえだろ。
投げ銭だってあんな量やめて欲しいわけでな。
「卑怯だからするなって言ってるんじゃない。命がいくつあっても足りないからだ。いいな、そういうのだけはやめておけ」
そう言った親父の目の奥は闇しかなかった。
ストーカーバトルが本当なわけ……ないよね?
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