港区お嬢さま系Vチューバー(埼玉生まれ埼玉育ちの幼馴染み)が俺に泣きついてきたんだが
藤原ゴンザレス
第1話
バカが俺に泣きついてきた。
「けんちゃん、けんちゃん!!! 港区生まれのタワマン最上階育ちってどう演じればいいの!?」
ぴえーんと中学3年の俺に泣きつく図体の大きい高校1年生。
小豆色の学校指定ジャージの上下で泣きつくその姿……バカの極みである。
信じられるか?
こいつこれで俺より一つ年上なんだぜ。
「……ばかなの?」
我ながら冷淡すぎる言葉が口から漏れた。
それもしかたない。
この幼馴染み佐久間紫苑。
埼玉生まれの川口育ち。
駅前の築40年
で、俺は子どものときに紫苑ちの隣の部屋に住んでたわけだ。
いまはすぐ隣の新築マンションに引っ越したが。
父親は地元の接骨院の先生だ。アロマテラピーとかもやってる。
週に一度、夫婦で近くの公民館でインドの武術を教えてる。
クソ胡散臭いおっさんだ。俺も生徒だけど。
埼玉ローカル偏差値55。朝の東京方面混むから嫌という理由で選んだ県内公立高校の女子高生。
部活はプロレス研究会。
プロレスやるんじゃなくて放課後動画見てるだけのやつ。
なぜか周囲は文芸部だと思ってる。
好きなものはゲームとプロレス。
好きなゲームはFPS。ただしPVE専。
嫌いなものはセロリ。ロリは好きなくせに。
好きな音楽は動画投稿サイトのおもしろ歌詞のオリジナル曲。
必殺技はピープルズエルボー。
学校では黒髪ロングの清楚系優等生ぶってる。けしからん胸囲のくせに。
卒業式明けの休みに埼玉ヤンキーみたいな金髪に染めて外出禁止に。
泣きながら親を罵倒するあいつをビデオ会議で慰めた。ウケる。
高校入学時に軽音部に入部。
そのときにギターとアンプ、スピーカーセットを親に買わせるがわずか10日で逃亡。
クソ不器用で弾けなかったんだって。
キレた両親にバイトで弁償する毎日。クソウケる。
まとめると、おっぱい。
こいつのどこにお嬢さま成分、ある?
「冷静に言うのやめて。地味に効くから」
「で、なによ?」
テーブルに頬杖をついてそういう俺は蘭童賢太郎。
どいつもこいつも覇気がなく目が死んでると言いやがる中学3年生。
クソ忙しい受験生である。
東京の学校絶対主義者の両親に駅前の全国チェーンの進学塾に通わされる日々を送っている。
それなのに高校生の幼馴染みに泣きつかれる。
そんな日々を送る、かわいそうでいたいけな男子である。
全員入るのが強制されてる部活動は美術部の幽霊部員。
運動とかやってられっかよ! ぶぁーか!!!
好きな音楽は落ち着いた曲。
バラードとか。
紫苑に言わせると辛気くさい曲だとよ!!!
悩みは中々伸びない身長。これだけはどうしようもない。
まとめると埼玉の青い稲妻。ウルトラクール系男子。
女子に間違えるのだけはかんべんな。
「あのさ、笑わないでね……」
「なんだよ……その態度」
お前はなにやっても笑えるわ。
とは言わない。怒られるから。
「どうした。この幼馴染みに言ってみろ」
「あのね、わたしね。Vチューバーなの!」
「はあ?」
一瞬、頭が真っ白になった。
ずるいぞ!!!
俺に何も言わないで面白そうなことしやがって!
「あれか? Vチューバーって酒飲んでリバースしたり、女児の中の人が身長180センチのおっさんだったり、浣腸してから耐久ゲーム配信するんだろ!? 一億円くらい給料もらえるんだろ!?」
「おおむね当たってるけど違う! あとでけんちゃん登録してるチャンネル見せてね! お母さんに
おま、いきなり密告かよ!
「いつオーディション受けたん? ずっと家にいただろ!」
「家でリモートでオーディション受けたの!!!」
「くっそ! 一人で面白いことしやがって!!! 俺も混ぜろ!!!」
「けんちゃんのいつもドブのように曇ってる目が輝いてる! あ、それ約束ね。 じゃなくて! そうじゃないの! 聞いて」
「あんだよ、はよ言え」
「キャラなの……」
「きゃら?」
「港区出身お嬢さまキャラでデビューしちゃってさ! それで相談したくて!」
「貴様ぁッ!!! 港区だと! 海の近くだと!!! 我が埼玉県民の誇りを忘れたのか!!!」
「けんちゃんがキレた!」
さいたまポーズでまくし立てる。
「わかるか! 埼玉県はね。残念じゃなければならないの。いつも池袋にいて、海に狂喜乱舞して、結局地元の山田うどんやるーぱんで無駄な時間を潰してなきゃいけないのよ」
「じゃ、じゃあ港区民は?」
「さ、埼玉県民の俺に……貴族階級の生活を想像しろ……だと!」
「だよねー。わからないよね……」
うんわからない。
「だけどどうして港区お嬢さまなんてキャラを選んだ?」
ゴリゴリの埼玉県民だろが!
「だって、だってぇ、お嬢さまっっぽいねって言われたからぁ!」
見事なまでの世迷い言だ。
しかたない。
現実を教えてやろう。
「風が語りかける」
「うまいうますぎる……はッ! とっさに十万石まんじゅうのCMを」
「ふはははは! それは埼玉ローカルCMだ! どうやっても港区民じゃねえ!」
「なんて……こと……じゃあ、じゃあ!」
「お、おう、妙なためはいらんからはよ言え」
「一緒に出て!!!」
「は?」
紫苑の目はぐるぐるしていた。
いまだったらSAN値チェックに引っかかるに違いない。
「けんちゃんだったら男の子だってわからないよ!」
「喧嘩売ってんのかな? だ、誰が顕微鏡で見なきゃわからん身長じゃ!!!」
「だって声だって高いし」
「いや待て。いくらなんでも声変わりした男だぞ。さすがに秒でバレるわ!」
「してないじゃん! いいから! 出て!」
紫苑はプンスカしてる。
え、なにその理不尽。
あと声変わりはした。
高い声だけどした。
そこだけは譲れない。風邪だったとか言うな。
で、結局、その日の夜に配信することになったわけだ。暴君おっぱいの決定で。
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