第38話
告白
私とカノンは夕食もとらずに眠り続けた。
目が覚めたのは日付が替わった深夜一時過ぎだった。
隣のカノンもほぼ同時に目が覚めた。
「俺たちどういう関係で、この先どこへ行くんだ?」
「さあ?」
カノンは私の上から身体をずらし、枕を背中にしてベッドに腰をかけた。
「あなたは大阪に帰るんでしょ?」
「帰らないと言ったらどうする?」
「帰りなさい、あなたを待っている彼女の元へ」
「でもさっき君は『離さないで』って何度も言っていた」
「馬鹿」
私はこころに残るもうひとつの蟠りを解きたいと思った。
今度は躊躇なく言葉が出た。
「亡くなった赤ん坊、君が殺したのか?」
カノンの目が大きく見開いた。
見開いた目はじっと私の目を見つめ続けた。
形容し難いほど美しいカノンの表情だった。
これほどまでに美しい女性の表情を、私はこれまでの人生で見たことがなかった。
彼女の美しさの前では、きっと神はすべての罪を許すだろうと思った。
それくらい堂々とした美しさだった。
どれくらい私たちは見つめ合っていたのだろう。
瞬きひとつしない彼女の目から涙の筋が流れた。
「そうよ」
「なぜ?」
「可哀相な私の赤ちゃん。私も赤ちゃんも何も悪いことなんかしていないのに」
「障害児だったのか?」
「知らない。とても可愛い女の赤ちゃんだったの」
「なぜ殺したんだ?」
「産まれてこなければよかったのよ。可愛い赤ちゃんだったのに・・・、赤ちゃんに何の罪があるというの」
「この世に産まれないほうがいい命なんてないんだ。どうして殺してしまったんだ?」
「もう訊かないで!」
カノンは両手で顔を覆って嗚咽した。
涙の雫が耳をつたってシーツを濡らした。私はあふれ出る涙を吸い取り、そっとキスをした。
「背負って生きていけばいいんだ。心配ない。俺だって自殺した妻への罪をずっと背負って生きていくつもりなんだ。君が犯した罪のことは誰にも言わない。秘密は守る」
カノンは頷いた。私の目からも自然と涙があふれ出た。
「本当は君を守りたいんだ。でも帰らないといけない」
「いいのよ、そんなこと」
本当にこれで終わりなのかも知れないと思うと、彼女と一緒にこのまま次の世界へ行ってしまいたかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます