恋を招く石 4



「それで、もう片方の『蝶の石』はどちらの畑にあるのでしょうか?」


相談者の雲花(ワンファ)は、占い師の易(イー)先生、もとい女官の雪英(シュウイン)を期待に満ちた目で見つめていた。


「そうですね。結果についてこれから話したいのですが、しかし夜もすっかり遅くなってしまいました」

「はい」



「そこで、私から提案があるのですが聞いていただけますか?」

「提案、ですか?」

「ええ、いつもはこのような提案はしないのですが、今日は占いに時間がかかってしまいましたし……今回は特別です」


「もちろん!お聞きします!」

『特別』と言った途端に、雲花の輝きは一段と増す。雪英はそれを見て微笑んだ。

「ふふ、では…」



「明日の茼蒿(トウコウ)の種まきに、私の弟子も参加させていただけないでしょうか?」


「お弟子さん?」

「はい。彼も宦官ですが、働きは私が保証します」


易先生をやるにあたり、雪英は宦官の服を着て変装し、さらに相談中は声を出来るだけ低くして話すようにしている。そのお陰で後宮内では、易先生は宦官の占い師だと認識されていた。



「どうでしょうか?」

「大丈夫だと思いますよ!人手不足だって医務局の人も言ってましたし」

「それは良かった」


(『人手不足』ねぇ……)


そして雲花は、種まきは午後から、東門の畑に直接集合、汚れてもいい服で来ること、などの事項を教えてくれた。



「あと一つお願いですが、彼が私の弟子だということはくれぐれも内密にお願いします」

「もちろんです!内緒にします!」

「ありがとうございます」



「では、今夜のところはここまでとさせていただきます」

「はい」

「明日になれば、貴方に幸運が訪れているでしょう。どうぞ気をつけてお帰りくださいね」

「ありがとうございます。先生おやすみなさい!」

「おやすみなさい」


期待に胸を膨らませた雲花は、元気な忍び足で倉庫から自室へと帰っていった。

倉庫に残されたのは、残り短い蝋燭一本と雪英だけ。被っていた紗(うすぎぬ)を取った雪英は、足を投げ出して伸びをした。



(あーあ、言っちゃった……)


もちろん弟子などいないため、雪英自身が弟子を演じるしかない。

生意気な双子の弟しか兄弟がいない雪英は、雲花のような素直なタイプに弱いのであった。

素直というか…、馬鹿正直というか……。


彼女の長い溜息に、薄命の火は危なげに揺らいだ。


(また、休みが……)



半月の夜道。

雪英は何も考えずに自室まで戻り、茘枝(ライチ)も食べずにそのまま床に就いた。


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