25.悪魔と特服

 コルキッソスから帰ってきて、スフィさんはすぐに研究室に篭ってしまった。


 大聖堂で留守番をしていたユカリは、なぜだか僕のベッドの上で昼寝をしていた。

 スフィさんも、特に何か命令をしていたわけではないので別に良いのだけれど、寝るなら自分のベッドにしてほしい。

 このままにしておくと、ルビーがなんかまた荒ぶりそうだし、と思いユカリを抱き合げると彼女のベッドの上に寝かせてやった。


 僕も色々と疲れた。スフィさんの用事が終わるまで布団をかぶっていようと、ベッドに横になる。


 コルキッソスで見た亜人ショップは僕にとって少々ショッキングだったのもあって、頭も疲れている。

 頭も心も整理しきれないな、とモヤモヤしていたが、その疲れが手伝ってくれてか、すぐに眠りに入ることができた。


 夢も見ることなくぐっすりと眠り、ルビーが部屋に入ってきた音で起きることができた。


「あ、ユイトさん起きましたね。師匠が呼んでます」

 ルビーが僕のことを手招きした。


 それから少しだけムスッとした表情で、僕よりも一足先に起きていたらしいユカリに目を向けた。


「それとあなたも。師匠が買い物したものを試したい、と」


 そういえばスフィさん、あの亜人ショップに足を運んだ後、普通にコルキッソスで買い物をしていたな。僕は何を買っているのか全くわからなかったので、ただただ荷物持ちをしていただけだが、それを使って何かを作りたかったらしく、帰ってすぐに研究室に篭っていたのだった。


「行こっか、ユカリ」


 僕が呼びかけると、ユカリは無言で頷いて、ベッドの上から飛び降りた。

 ルビーとユカリ、僕の三人で部屋を出ると、大広間でスフィさんが待っていた。


「お、来たな二人とも」


 スフィさんは少しウキウキした顔をしていた。スフィさんは僕とユカリにそれぞれ何かを手渡すと、両手を腰に当てた。


「何ですかこれ」

 スフィさんがくれたのは、服だった。


 Tシャツと海パンみたいなパンツだ。


 ユカリの方に渡したのも似たようなもので、黒いタンクトップと僕と同じく海パンみたいなボトムスだ。


「着てみろ」

「え、今ここでですか」

「いやまあ部屋に戻っても構わんが」


 じゃあ、と僕はスフィさんにお辞儀をすると、寝室に戻る。

 ユカリの方はというと、僕が踵を返す頃には既に今着ている服を脱ぎ捨てて、着替え始めていた。

 服の着方もわからない最初はどうしたことかと思ったが、スフィさんとルビーに躾られてか、ユカリも少しコミュニケーションが容易になった様子ではある。


 僕は着替えを終え、大広間に戻った。


 その服は、身体にかなりしっかりと合ったサイズで、この世界に着てから着た服では一番着心地が良かった。

 ユカリも当然着替え終えており、なかなかにスポーティな感じだ。


 ただ、黒のタンクトップ一枚だとユカリの胸が大きく強調されているのが少々目のやり場に困る。


「二人とも着替え終えたな、よし」

 スフィさんは大きく頷く。

「どうだ?」

「かなり良いですねこれ。着やすいし、気に入りました」

「そいつは良かった。わざわざ作った甲斐があったってもんだ」

「え、これスフィさんが作ったんですか?」

「あ、編んだのは私です。師匠が作ったのは布だけ」

 ルビーがぴょんと手を伸ばして主張する。


「あ、そうなんだ。ありがとうルビー」

「ふふ、こないだのお返し、と言ってはなんですけどね。気に入ってもらえると嬉しいですね」

 ルビーは本当に嬉しそうに、耳をぴょこぴょこと動かす。


「よし、じゃあ次は人間態への擬態を解いてみろ」

「はい?」


 せっかく服を渡しておいて何を言っているのかこの人は。


「え、いいんですか?」

「いいから」

「服は脱がないで……」

「いいから!」


 僕はルビーを見た。ルビーも眉をきりりとあげて力強く頷いた。

 まあそれなら……と、僕は身体を変化させる。

 しゅうう、といつものように蒸気を上げて僕の身体が段々と膨れ上がる。


 蒸気が立ち込めてよく見えないが、僕の隣では、ユカリも身体の変化を始めていた。


 二人分の蒸気で、まわりが全く見えなくなってしまった。


 ズシン、と足を一歩踏み出して、悪魔への身体変化をしたことを自身でも確認する。

 蒸気も少しずつ消えて、スフィさんとルビーの姿も再び見え始めた。


「よし! 成功だ!」

 スフィさんは大声で、満足気に手を叩いた。


 成功? 何が? と思ったところで、これまで悪魔化をした時と比べて違和感を覚えた。

 その違和感が何かすぐにわかった。


 僕の肩から膝にかけてまで、鎧のようなものが纏われていた。


「お、おお!?」

 驚いて鎧を触ったり、身体を捻ったりする。

 だが、重さもあまり感じないくらいに鎧は軽く、動くのにも特に支障はなさそうだ。


 僕は隣のユカリを見た。


 ユカリもタウラス化していた。この大聖堂の下でタウラス化するユカリを見るのは始めてで、改めてやっぱり同じ存在だったのだな、と思う。


「ユイトも前に気にしていたろ。巨大化する度に服が破れるのは不便だな、と」

 これからはその心配もないぞ、とスフィさんは宣言した。


「新しいお前たちの服、悪魔専用形態記憶特別服だ!」

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