異世界に転移させられたけど、全員を裏切ってみたいと思う
鴉杜さく
第1話 刃物好きな俺
昔から「刃物」が大好きだった。
母が夜ご飯を作っているときに電話で席を外した。
そのときに、包丁が気になった。
子供用の台を引っ張りキッチンまで行き、包丁をゆっくりと持ち上げ少し使い古され汚れている銀色に輝く刃物にこころ奪われた。
暫くして母が戻ってくると血相を変えて腕を掴んだ。
びっくりして持っていた包丁をまな板に落としてしまった。
静かな空間にはその音はよく聞こえた。
それからしばらくはキッチンに近寄らないでと懇願された。
刃物への恋心は留まることを知らなく、身体が成長するにつれてその気持ちも大きくなっていった。
小学校。
図工の時間にカッターと鋏を与えられた。
それをうっとりと恍惚とした表情で見つめるものだから先生には心配され、同じ班の子には引いた眼で見られた。
そして中学生になったとき。
この国に「銃刀法違反」というものがあることを知った。
でも、文房具のカッターや鋏ならそれには該当しないのではという思考に至った俺は持っていく必要がない日であってもその二つを持ち歩いていた。
調理実習で包丁をもってニコニコすると女子から不思議そうな顔や少しだけ赤くなった顔を向けられることがあった。
中学に入ってからませた餓鬼どもから告白をされていたが、俺は刃物に恋していたために全て断っていた。
友達の男子はそれを笑ってみていた。
だが、高校入試が近くなると母と父に刃物を取り上げられた。
どうしてだと訴えると母は俺に言った。
「他の子どもだったらスマホを禁止するところなのだけれど、あなたがお熱なのは刃物だから結果が出るまでは絶対に触らせません」
と言われた。
そして学歴主義の父を納得させるために頭のいい学校を受けさせられることになったが、生憎と俺は頭がいいみたいで父の言っている高校にはすぐに受かった。
結果を伝える日に家庭科室に呼ばれ、一番最初に結果を伝えられた俺は帰るときに先生に「おめでとう」と言われ、適当に流して帰ってしまった。
やっと刃物を触れることに嬉々としていたためであった。
俺とつるんでいた友達も同じ高校で、受かっていた。
そして入学式後に教室で自己紹介があったが、俺は自分を紹介というのがどうにも苦手であった。
だから名前だけ言った。
「刃動です。長谷川 刃動です」
とだけ言って座った。
担任の教師は慌てていたっけ。
それから数か月して高校は集団行動がないって聞いたのに、みんなつるんでいて馬鹿だなと眺めていたりした。
仲のいいやつはとっくに同じようにだれかよくわからないような奴とつるんでるし。
そうため息を溢したとき、光が足元から見えた。
脳が危険だと発するが、俺はわくわくしたんだ。
だから誰かが逃げろと叫ぶ声も恐怖に染まっていく声もどこか興奮した声も無視して大事な刃物だけを胸に抱いて、目を閉じた。
「起きて。起きて。起きて!!!」
その声で一気に意識が覚醒した。
パチリ。
そこにはもういつもの友達。
「いおり……?」
高校デビューと称して髪の毛を金髪に染めた彼。
寝起きの今は目に毒だ。
「まぶしい。まだ寝る」
そう言ってごろんと寝返りを打った。
そこで気づいた。
(ここ、どこだ?)
周りにはクラスメイト。
隣には俺を心配そうに見つめる伊織。
「覚えてるか? 俺たち教室で足元が光って……」
そういえば、そうだった。
靄がかかった頭がすっきりした。
手元を見ると刃物は大事に握っているようでそれにほっと息を吐きだした。
それを見た伊織は何を思ったのか頭をぐしゃぐしゃと撫でてきた。
頭を押さえながら自分より幾分か高い身長の伊織を見上げる。
なんか身長高いの腹立ってきたな。
なんとなくで、足をぶみっと踏んでおいた。
伊織は「なんでぇ~!!?」と叫んでいたが大丈夫だろう。
それよりも今はここがどこかだけでもはっきりとさせなくてはならない。
あたりを見るがいささか暗い場所。前がよく見えない。
自分が横たわっていたのは大理石のような材質の石の黒い床だ。
そして周囲には何本もの柱が立ててあり威圧感を感じる。
周りにはクラスメイトがちらほらと横たわっており、まだ目が覚めない者や起きたはいいものの呆然としている者。
そしてテンションがあがって興奮している者まで多種多様であった。
ここの出入り口は一つだけ。
大きな扉。
その向こう側には人がいる。
「伊織。ここどこだと思う?」
「現実的に考えるなら誘拐とか。非現実的に考えるなら異世界転移とかどうよ」
多分伊織の予想は当たっているだろう。
こんな建物見たことも聞いたこともない。
大きな建物であれば少しは聞いたことがあるはずだし、それがないというのであれば異世界転移。
だけど、本当にそんなことが起きるのだろうか。
今の現状は情報が何もなく、危険な状態であると考えるべきだ。
そうしている間にクラスメイトが大体起きたようだった。
そして見計らっていたかのようにしずかな空間に突如コンコンとノックされた。
たった一つの出入り口。
そこを全員で見る。
いやなピリピリとした緊張感が漂う。
誰かが息をそっと吐いた。
それは俺だったのかもしれない。
それすらわからないくらいの緊張感が俺たちを覆い隠した。
数秒後、ガチャリと扉が開いた。
まず目に入ってきたのは、小さな体。
床について尚余りある長い白髪の髪。
そして何も期待していないような絶望の蒼い瞳。
裸足でペタペタと部屋に入ってくる。
その子は首に首輪をつけられ鎖が歩くたびに地面と擦れてチャリと音を立てていた。
急いできれいにしたかのような取り繕った清潔感。
服も安物だろうと容易に想像できるような服。
普段は声をあげることが多くはないのだろう。
久々に使う声帯に違和感を覚えながら発した声。
「……はじめ、まし」
て、という前にせき込んでしまった。
けほっ、けほっと立て続けにせき込み心配で近くに寄って行ったクラスの一人を手で制した。
それから何も言わず、人差し指を立てるとその指の上に水の玉のようなものが出来た。
それを彼女は自分の口に運ぶとゴクリと嚥下した。
「はじめまして。私があなたたちを召喚しました。型番号21198番。個人判別名スレーです」
それから自己紹介をした。
召喚。そして先ほどの魔法のようなもの。
この二つを見せられ、説明されると導かれる答えは一つ。
俺たちは異世界転移された。
これが集団幻覚ではなければ。
そしてこの少女の様子。
奴隷か何かだろう。
後から入ってきた騎士からは嫌な威圧感を感じる。
監視、だろうな。
彼女は挨拶だけをすると逃げるかのようにこの部屋から出て行った。
それからいろいろな検査をされた。
能力値であったり、職業であったりを報告させられた。
まるで弱みでも握られている気分だ。
ステータスについてだが、それぞれ個人の好みや嗜好に似た、もしくは近いものがステータスとして宛がわれているようだった。
称号という欄にはそれぞれ太陽神の加護やら草神の加護やら英雄やらついていた。
俺は刃物が大好きなだけあって能力もそっちに似ているもので助かった。
ただ、称号欄の『英雄を喰らう者』っていうのがよくわからなかったけど不穏だったため報告していない。
クラス連中の中には勇者と英雄がいるみたいで、騎士は少しだけどよめいていた。
勇者と英雄は大きく違う点があるのだとか。
それぞれに合った方法で能力値を上げていく訓練をするから覚悟しておけ、とだけ言われた。
俺達にはそれぞれ部屋が与えられた。
俺は伊織と同じ部屋だ。
この世界は、魔王に支配された国なんだとか。
魔王は定期的に魔物を送り込んできていて、それが段々と増えてきているのだとか。
そして魔王は暴虐。人間界にひとたび足を踏み入れると破壊の限りを尽くして満足すると帰るのだとか。
後に残るのは破壊され尽くした民の領地のみ。
そしてその魔王を倒すために俺たちは呼ばれた。
の、はずだが。
これは本当のことなのだろうか。
全てを疑っていかなければ。
これが情報操作されていても俺たちは気づくことが出来ない。
なぜならこの世界のことを知る術が騎士や俺たちを召喚したこの国の人たちのみと現状はなっているためである。
だからすべてのことに対して疑ってかからなければならないのだが、このことに対して気づいているのは残念なことにいない。
みんな頭お花畑だからかな。
そしてあの少女。
怯えた瞳。傷つけられたからだ。
考えなければならないことが多すぎる。
今日は眠ろう。
そして布団にダイブするとそのまま深い眠りについた。
夢を見た。
皆が倒れていて、伊織が俺を恐ろしいものを見るかのような目で見るんだ。
どうしてそんな目で俺を見るんだ。
拒絶するかのように唯一の大切な刃物で俺を見る目を斬りつけてやった。
目から血が噴き出て痛みに目を押さえていた。
それが酷く愛おしくて、手を伸ばした。
そこで目が覚めた。
夢のせいなのか。息が荒れていた。
外は明るくなり始めていた。
ため息を溢して汗ばんだ額を覆い隠した。
妙にリアリティーのあるあの夢をただの夢だと一蹴できないのはなぜなのだろうか。
とにかくと、となりのベッドでスヤスヤと眠っている伊織を起こさないようにこっそりと部屋を出る。
だだっ広い廊下を裸足で歩く。
俺が歩くたびにペタペタと音がする。
階段が何か所にもあって降りていくと玄関だろうか。
そんな場所にたどり着いた。
まだ誰も起きていないのか、人の気配はしない。
そのまま外に出る。
近くに井戸のようなくみ上げるタイプの水場があったので、水を拝借した。
それを頭からかぶり、汗を流す。
髪の毛が濡れてぽたぽたと水滴が落ちてくる。
しばらく髪の毛を切ることを面倒くさがっていたら、こんなにも伸びた状態でこんなものに巻き込まれるし本当最悪だ。
うざったい前髪をかきあげると、部屋に戻るために建物に入った。
そのまま来た道を戻り、部屋に入る。
伊織はまだ眠っているようだった。
部屋にあったタオルを勝手に拝借して髪の毛を拭く。
水滴がタオルに吸い込まれていき、髪の毛から水が滴ることはなくなった。
それから色々と確認しなくてはならないと思い、スマホをポケットから取り出す。
確かに刃物が大好きすで現代人においての重要な文明の利器をあまり使わないが、持っていることには持っているのだ。
電源ボタンを押すも反応がなく、首を傾げる。
「それ充電ないだろ」
後ろから声をかけられて驚きビクッとしてしまったが、この部屋にいるのは俺と伊織だけだ。
「びっくりした~。驚かせないでよ~」
「悪い悪い。お前スマホ一週間前から触ってないから多分充電切れてるぞ」
そう言われてやっとそういえばと思い出した。
そうだ。俺は充電が面倒くさくて充電の切れたスマホをそのままにしていたのだ。
それから、ほらと伊織のスマホを渡された。
「やりたいことあるんだろ? いいよ貸してやるよ」
「伊織。iPhoneってさ電源ボタン高速で押したら緊急で連絡つくんでしょ? それ繋がらないの?」
「あ~それ井上が昨日寝る間際に思いついてやってたけど、何も起きなかったよ」
井上……誰だ。
誰かは知らんがクラスの誰かが試してダメだったのか。
それよりも、と伊織は俺の手を掴んだ。
「昨日、寝ちゃってたからご飯食べなきゃでしょ? 行こ?」
手を引かれるのはさすがに恥ずかしいので手をすぐにポケットに突っ込んで伊織の隣を歩いた。
「それにしてもさ刃動のステータスぴったりすぎない~?」
「そうだねぇ~。バックパックは便利だけど、古今東西ありとあらゆる刃物を作り出せるのは大満足だよ」
それに関しては本当に大満足だ。
そして各ステータスは大幅に伸ばされている。
俺は俊敏と器用さ、隠密がずば抜けて高かった。
レベルが1にも関わらず騎士の人たちを超えてしまっているぐらいだ。
伊織はパワーがずば抜けており、なぜかと考えたときこいつそういえば身体鍛えていたなと思い至った。
自分に合わない能力が来ても持て余すだけだし、助かったといえば助かった。
でもな、と手のひらを開く。
英雄を喰らう者というのはどういうものなのかが皆目見当がつかない。
英雄の称号をもらっていたのはと、ちらりと隣を盗み見る。
伊織が英雄、クラスの中心的人物、鮫島 恒星が勇者の称号をそれぞれもらっていた。
今後何かのきっかけで変わっていくのかもしれない。
それは今は胸の内にとどめておこう。
二人で歩いていると無事、食事をする場所にたどり着いた。
そこには既にクラスのほとんどの人がいるようだった。
クラスの人数を把握しているわけではないから全員なのかは分からないが結構な人数がいるため多分そうだろうと思う。
そこに騎士の人が来た。
「昨日いなかったものも、いるようだから説明を再度させていただく。今日から訓練をそれぞれの能力に合ったものを組んだ。それを1か月で仕上げ、ダンジョンに潜ってモンスターを倒してもらう。そして魔王を倒せるぐらいの戦力をつけてもらえると助かる」
魔王、ね。
俺たちは期待はされていない。
本当に期待されているのは、伊織と恒星のみだ。
だから生き抜けるぐらいの力を獲得すればいい。
初日である今日はそれぞれ好きに能力を行使してもらうと。
自分のキャパを知るために大量に能力を行使してくれだとか。
そして城の中にある幾つかの訓練場に俺たちは割り振られた。
なぜか実力者どもの恒星と伊織と一緒なのは納得できないが。
「あの~。なんで鮫島くんと伊織と一緒なんですか。彼らはそれぞれ特殊な称号持ちだから一緒なのは理解できますが、俺はなぜここに」
「君は刃動くんだね。君の能力は危険が伴う。それゆえに最強戦力があるここに配置させてもらっている。異議は?」
「ないです」
まぁ確かに、ありとあらゆる刃物を作り出せるのは使用者がしっかりとした実力者だった場合、それは化けるからな。
そして、俺は刃物に恋をしているぐらいの刃物好き。
ある意味監視対象だろうな。
というわけで、彼らの刃物が戦場で破壊された場合、俺が供給することになった。
そして俺は自分の手から刃物が生まれていく光景に感動を余儀なくされている。
今作っているのは、手ごろな果物ナイフ。
包丁。
そして刀。
刀にも種類がある。
短刀、打刀、太刀、大太刀、薙刀。
脇差も。
最初から大きいものは作るのは厳しいかと思い、短刀から練習している。
俺はこの世界に来てよかったと今は思っている。
みんながどう思っているかは置いておいて。
この刃物が大好きだという気持ちを誰にも邪魔されず、誰にも否定されることのないこの世界が今は助かっている。
もしも、魔王という者の討伐を無事完遂することが出来たとして、そのあとはどうなってしまうのだろうか。
やっぱり殺されてしまうのだろうか。
それとも現実世界に帰されるのだろうか。
そうだとしたら、俺はこの国の人たちだけではなくこの世界そのものに反旗を翻さなければならない。
もしかしたら俺は伊織すら裏切ることになるのかもしれない。
そうなったとしても、俺はこの世界にとどまっていたい。
それぐらいこの世界は俺に夢を見させてくれる。
でも夢を見るためにはある程度強くならなくてはならない。
よくいうだろ。
好きなことをするために嫌なことも苦しいこともしなければならないって。
そういうこと。
まぁ、俺実をいうと刃物の扱いに関してはピカイチなんだけど。
言うつもりはない。
聞かれてないってのもあるけど、自分の大事な手札を見せびらかすほど馬鹿なことはないと俺は思っているからな。
母親が俺を武術系の道場に俺を通わせていたせい、というかお陰で武器関係はある程度扱うことができる。
あとは、俺が刃物が好きなら扱えるようにならなきゃって言ってしばらく扱うためにいろいろ研究していた時期があるからかな。
だからと一番大事なナイフを手元でクルクルと回す。
騎士の人に見られたら大変だけど、あの二人に今は手一杯だからこっちを見向きもしない。
あと一つ気になるのは、この世界には魔法というものがある。
だが、それには『詠唱』と呼ばれる精霊と会話するための言葉が必要だ。
それを省略することはできるが、限界まで省略しても1節は必ず言う必要がある。
そして、その詠唱というものは大きな魔法ほど省略することが難しくなる。
無理やり省略を行うと魔法が制御を失って暴発してしまうのだとか。
そのため、この魔法はここまでの省略という指針が出されているのだとか。
だが、それを無詠唱ですることは可能なのではないのかと俺は考えている。
会話の手段として『詠唱』という手を使用しているだけであって、会話が出来れば何でもいいだろう。
それに、あんな中二病じみた詠唱は出来るだけしたくはない。
ため息を一つ溢すと、クルクル回していたナイフを傍に置いてそのまま刃物を作る作業を再開させた。
ずっと大きくはないものの、作っているのにキャパがやってこない。
もっと大きい物なら来るのだろうか。
でもなぁ、と視線の先にいる伊織と勇者様を見る。
騎士の訓練が余程キツイものなのかずっと息が上がったままだ。
騎士の人はこちらをちらりと見ると手をたたいた。
会話は離れすぎていて聞こえないが多分休憩だろう。
壁際に二人が歩いて行ったから。
騎士の人はこちらに来ると、数メートル先で止まった。
理由は俺が作った刃物があちこちに落ちていて危ないためである。
「これ仕舞え」
「はい~。バックパック」
ブラックホールのようなものにこれらの刃物をしまって、最後にそばに数本置いていたナイフを仕舞おうとすると「それは使うからそのままでいい」と言われた。
そして、ナイフだけ残っている状態になると騎士の人は近寄ってきた。
「今からあの的に向かって、ナイフを投げてみろ」
「うぇ? 俺がですか?」
「あぁ」
バレたのかもしれないなぁと思いつつ、手癖でクルクルしないように気を配りながらナイフを投げる。
それは綺麗に的の中心、つまり人間でいう急所へと吸い込まれるようにナイフを突き刺さった。
これでいいのかと、俺よりも幾分か身長の高い騎士を見上げる。
頭は隠れていて分からないが雰囲気で驚嘆していることに気づき、そこで失態に気づいた。
なぜ、下手に投げなかった。
これでは、ナイフを使ったことがあると言っているようなものではないか。
何か弁明を。
いや、なにか今言うほうが怪しく見えないか。
でも、何も言わないのもちょっと。
と少し焦りつつどうしようかと思案していると騎士の人が動いた。
「……初めてナイフを投げるのか?」
「……いえ、向こうの世界ではナイフを投げて遊べる施設があって行ったことがあって少し得意なんです」
内心冷や汗だらだらである。
でも、納得はしてはいないが今はいいと思ったのかそれ以上追及はしてこなかった。
「ところで、キャパは来たか?」
「それが、一向に来なくて……」
それを言うとふむ、と思案するようなしぐさを見せた。
「あれほどのものを作ってなおキャパが来ていないのか。もしかしたら、その能力にキャパがない可能性がある」
「キャパがない……?」
「稀にある。キャパが一切ない能力が。それの可能性がある。まぁこれに関しては様子見だな。……この後は魔法の訓練をするから用意だけしていてくれ」
それだけ言うとこの部屋から出て行った。
伊織と勇者様を見ると二人も出て行った。
多分休憩だからだろう。
監視がついていない可能性は否定出来ないが、まだ出来ると決まったわけじゃないからいいよなと自分を納得させるとナイフが真ん中に突き刺さっている的の前に立つ。
脳内で具体的なイメージをする。
雷がパチパチと弾けて、あのナイフが避雷針のように。
そこまで想像すると近くから「あはは!」「うふふっ」と小さな子供のような声が聞こえてきた。
なんだと、目を開くと小さな妖精のような姿をした者が目の前にいた。
紫にパチパチといいながら飛来していた。
その姿を視認しつつ、集中力を切らすわけにはいかずそのまま手で銃のようなものを撃つかのように手の形を取ると、そのままナイフに向けてバンっと撃った。
すると、非常に弱弱しいが指先からパチパチっと電気が放たれた。
弱すぎてナイフまで届きはしないものの、無詠唱でできると証明することができた。
一気に集中力を使ったためか、汗が額から流れ落ちる。
それに構うことなく、今度は手を銃ではなく指を鳴らしてみる。
パチンッといい音が鳴る。
すると先ほどよりも威力の高い魔法が放たれた。
バチバチッと鳴るとそのままナイフにあたり、その周囲が丸焦げになってしまった。
バックパックからシャベルを取り出し、そこの土をこっそりと埋めておく。
その作業をし、休憩の為にゴロンと横になると3人は入ってきた。
二人は気づくことがなかったが、騎士が「少し焦げ臭い……?」と言ったものだから焦った。
そのまま二人はまた訓練。
俺も混ざって魔法の訓練をしたりで、その日は終了した。
そして、みんなで食事をとりに行った。
扉を開くと、殴り合いになっていた。
「は?」
「うっせぇなぁ!!!! ぶっとばしてやる。殺してやるよ!!」
隣の二人は急いで止めに行った。
俺は別にどうでもいいと少し離れた場所で食事をとり始めた。
その間もみんなは殴り合っているし、別にどうでもいいが。
伊織も勇者様も急に正義感ていうのが芽生えたのか、今までなら絶対に口を挟まないのに止めてるし。
本当に気持ち悪い。
自分が一番偉いとでも思っているみたいで。
その鬱憤を吐き出すかのように硬いパンに嚙みついた。
異世界に転移させられたけど、全員を裏切ってみたいと思う 鴉杜さく @may-be
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