第4話 未来―日本

 「大丈夫ですか・・・?」

目を覚ますと、白いワンピースを着た女性が私を見ていた。綺麗な人だ、と私は思った。

「綺麗ですね」

綺麗・・・?私は今まで自分の事を綺麗と言われたことはなかった。自分自身でさえも綺麗と思ったことはなかった。ある時は、粉まみれになったこともあった。またある時は、血まみれになったこともあった。さらに、下水まみれにもなったこの私の事を、綺麗と言ったのだろうか。

「水のように光を反射して、綺麗・・・」

その女性の純粋な目に見つめられて、私は恥ずかしくなった。血なのか下水なのか分からない強烈な臭いを放つ服で身を隠した。

「辛いことがあったんですね」

私は涙が出そうになった。彼女になら、自分の正体を明かしてしまってもいいとさえ思ってしまうが、私は堪えた。かつて擬態能力の優れた私は“特殊捜査官”としてあらゆる任務をこなしてきた。悪事を企む宇宙人と戦ってきた私は何があっても自分の正体は明かさなかった。今の私の任務は、自然豊かなこの星で体を休めることだった。その時、私は身の毛がよだつ波動を感じた。これは逆らえない。最後の最後で、任務は失敗に終わりそうだ。今までの過酷な任務が頭を駆け巡った。これが走馬灯というものか。辛い事ばかりだったが、それが私の生涯だった。意識が途切れる前に白いワンピースの女性の笑顔が見えた。この女性には不思議な力があると感じた。この女性に会うことが任務だったのかもしれない。風が吹き、女性は飛びそうになる麦わら帽子を押さえた。女性は見回すが、さっきまでいた宇宙人はいなくなっていた。

「あれ?」

しかし、宇宙人がいたところに、木の芽が生えていた。

「新しい命を授けてくれたんですね。樹の妖精さん」

その女性、シンメンヒナギクは笑顔で木の芽を見ていた。

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