名も無き宇宙人の擬態生活
ソードメニー
第1話 過去―イタリア
ドンッドンッドンッ。宙に舞う粉。台の上で伸びる生地。髭を生やした男が勢いよく生地に向かって叩きつけていた手を休める。水を一口飲んで男は棒に粉を振りかける。私は全身粉まみれになる。
「ふう。だいぶいい感じだ。だが、もう一押しといったところか」
男は額の汗を拭うと、私を手に取る。そして、大きく振り上げた腕をしならせて、思い切りのいいスイングで生地に一直線に叩きつける。私の上半身が生地にのめり込んだかと思った時、すぐさま、生地から離される。再び天井近くまで振り上げられたかと思えば、既に気づくと顔中に生地が纏わりついている。男は大きく息を吸い、手首を回して私を振り回す。
「よーし、いいぞ。オーナー就任記念に私の編み出した“ボルサリーノ打法”を試すとしよう。頼むからついてきてくれたまえ、私の愛棒!」
男は目にも止まらぬ速さで生地に向かい連打を浴びせる。息を乱すこともなく、乱れ打ちを続ける。それでいて均等に生地は伸ばされている。男の腕は確かである。しかし、外は既に暗く、時計の針は“12”を過ぎている。それでも、男は手を休めず、外から日差しが差した頃、手を止めた。
「出来た!私の技を余す事無く注いだピザ生地が!よく持ちこたえてくれた、私の愛棒!明日からもよろしく頼む」
男は棒を置き、前掛けを外すと、部屋を出た。静まり返った部屋で、私は擬態を解いた。
「・・・やっと、解放された。ひどい目に遭った。ここは危険だ。場所を移そう」
私は男に擬態して、店を後にした。
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