第11話 ショッピングストリート



 意外なことに、レイはちゃんと案内係の任務を遂行してくれた。口は悪いけど、根はいい奴なのかもしれない。


「ここがショッピングストリート。服やら雑貨やらはここで揃えられる。食べ物系は市場に集まっているから、こことはまた別だな」


 僕は目を輝かせた。洋服屋には六本袖のセーターや、大蜘蛛の糸で編まれたレースのシャツなどが並んでいた。


 その隣の雑貨屋は、幸せを運ぶ藁人形やグリフォンの羽ペンなど、怪しげで魅惑的なもので溢れていた。バケツ一杯に刺さっている東洋の刀を一本抜こうとすると、レイが横から声をかけてきた。


「それ、呪いの刀だぜ。握ったら最後、死ぬまで人を斬り続けるんだ」


 光の速さで手を引っ込めた僕を見て、レイはまたクックと笑った。


「騙したな」


「騙しちゃいないさ。でも、それはただのレプリカだよ」


「本物をお見せしましょうか」


 耳元で囁かれた、聞き覚えのない低い声に僕は飛び上がり、咄嗟に隣のレイに抱きついた。



 ––––?



 振り返ると、ボロボロの侍のような男が僕らを見つめていた。頭部には弓矢が刺さっていて、ボサボサの髪の間から覗く瞳は瞳孔が開いている。腰には年季の入った刀が一本……


 僕は情けない声を出して、レイのマントを引っ張った。精一杯の「逃げよう」の訴えだ。


「なんだ、長武おさむか。新入りを怖がらせないでよ」


 件の侍は一転、顔色をパッと明るくして快活に笑った。


「ハッハッハ! すまない、君が新しく来たっていうジョン君だろう? 新入りは久々だから、つい驚かせたくなっちゃって。どう、東洋のホラーはお口にあったかな?」


 僕はやっと状況が飲み込めて、なんとか声を絞り出した。


「は、はじめまして。ジョン・ドゥです。あの、すごく怖かった、です」


 この返しは失礼に当たらないのか? それは杞憂だったようで、長武はニコニコと頷いた。


「それは良かった! 私は落ち武者の長武おさむと申します。以後よろしくね。ここは私が営む雑貨屋なんだ。武器に興味があるなら、斜向かいのドゥラハンの店に行くといい。レプリカじゃない本物が揃っているよ」


 レイが何もかもお見通しという様子で、ニヤッと僕を見た。


「どうする?」


「き、今日はもう遅いから、また今度にしようか」


「ふ〜ん、仰せのままに〜」


 一通り店の中を見て周り、長武さんとも普通に会話ができるようになって、僕らは店を後にすることにした。


「また来てよ。レイもね! 全然顔を出してくれないんだから」


「ああ、また今度」


 レイはそう答えるとヒラリとマントを翻した。僕はドリームキャッチャーの商品説明を読み込んでいたが、迷子になるまいと急いでレイに駆け寄った。



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