序章 竜王子のお世話係
コルネの世話係としての仕事は、分厚いカーテンを開け放つことから始まる。
南と東、二
「おはようございます、メルヴィン様」
部屋の主に声をかける。だが、毎度のごとく返事はない。かすかに
低いもので五冊、高いものだと二十冊近く本を重ねて作られた塔は、ほんの少しの
どうにか塔を崩さずに東側の窓へとたどり着いたコルネは、
「
コルネが働き始めて本日で五日。その五日間、毎日徹夜をしている。多少昼間に
「おはようございます。もうとっくに太陽が
やはり返答はない。代わりに紙をめくる音が
再度本の塔を
「風で本のページがめくれる。
「申し訳ございません。ですが、
コルネはランプを消す。特有の鼻を
「まずは顔を洗って、それから
「うるさい。俺は今本を読んでいるんだ。必要ない」
「ですが、私はメルヴィン様の兄君、トラヴィス様から
(うーん、メルヴィン様は私の弟や妹よりも、もっとずっと手のかかる子どもだわ)
コルネは椅子の前に回り込み、部屋に入ったときから
メルヴィンは、
だが、いくら品の
座面に左足を立てた
椅子は小さいわけではない。だが、
王族特有の
吹き込む風によって、艶やかな銀の
(元はすごく
弟は内面が複雑骨折している部分がたくさんあってね、と彼の兄のトラヴィスは清々しい
「こちらの本はもう読み終えたものですよね。片付けてもよろしいでしょうか?」
サイドテーブルに置かれた本は読み終えたものなので、片付けても問題ない。ここ数日で学んだことだ。ちなみに床に建設された本の塔は、読んでいない本、もう一度読み返す本が積み上げられているため、片付けることはもちろん動かすことも禁止されている。
メルヴィンの
「好きにしろ。だが、どれも非常に価値のあるものだ。お前の給金一月分では
「え!? 私の給金一月分以上、ですか? この本たちが?」
「当然だろう。もう手に入らない本、絶版になった本も多いんだ」
何気なく持ち上げた本の重みが増した気がする。元の位置にそっと戻してみる。今度からもっと注意して本を
「さらに借金を背負いたくなければ、扱いにはくれぐれも注意しろ」
もし傷一つでも付けたらすぐに
東の窓から差し込む太陽に照らされた顔は、白を通り越してもはや青い。体型は華奢を
「上に置いたそこの二冊は王宮図書室から借りたものだ。返すついでに、次はこの紙に書かれている本を借りてこい」
ぽい、と二つ折りにされた紙がコルネに向かって
(山間地域における気候変動対策、道路
メルヴィンが読む本は雑多だ。良く言えば
興味の
(また司書の方に聞いてみよう。一人で探しても時間がかかるだけ、見つけられない可能性が高いし、それに
コルネは投げ
「この仕事が
初日から何度も耳にし、もはや聞き
「──辞めません。私はまだ、メルヴィン様の世話係を辞めるわけにはいきませんから」
「ああ、そうか。借金
「俺はお前がこのまま続けようがすぐに辞めようが、心底どうでもいい」
吐き出された声は冷たい。そこにはコルネへの関心など
「……ひとまず朝食をお持ちしますね。あちらの机に置いておきますので、よければ
沈黙が続く。それが意味する答えは一つだ。十中八九、朝食を食べることはないだろう。
「では、私は一度王宮の方へ行ってきます。本の
こちらにも予想通り返答はない。さすがのコルネも、ちょっとだけむっとしてしまった。でも、すぐに首をぶんぶんと左右に
(この程度で
わざわざ故郷から遠い王宮まで来て、気難しい相手の世話をしているのは
「すべては借金返済と家族のために!」
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